飯は喰いたし、眠気は強し。
そんな感じののらくら雑記帳。
Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2007.11.04,Sun
ロシウから見たシモンの話。
やや説明がよたっていますがロシウ本人がぐるぐるしているのだと思って頂ければ幸い。
視界の端に捉えた姿に思わず息を吐きそうになって、ロシウは慌てて口を抑えた。しかしそれでも寄った眉の端が垂れ下がることまでは封じられない。肩から提げた道具鞄の具合を確かめるふりで誤魔化そうにも彼女の黒い瞳はどうしようもなくまたその影に向いてしまった。
大グレン団の根城、ダイグレンの格納庫。リーロンに学び整備の腕を鍛えているロシウにとっては常駐するのが当たり前とも言える場所だ。
だが、立ち並ぶガンメンの中その小柄さで逆に目立つ一機に寄り添う人影はここで求められる役割があるわけではない。彼女はガンメン乗りであり、そしてその専用機は大グレン団最強の力を持っていた。敢えて平時に要求されていることがあるとしたらしっかりと休養を取り、来るべき戦いに備えることだろう。
シモンさん。掛けようとした声が喉の奥で蟠る。本来ならば自分はシモンに休息を促すべきだと言うことはロシウにも解っていた。
四天王チミルフに傷を負わされてからこっち、シモンの顔色が優れていた日はない。この間までは地下暮らしらしい色白さとはいえ健康的な張りを持っていた肌は乾き気味で、どんぐり眼の下には隈が浮いたまま取れなくなっていた。もともと小柄で痩せぎすだった身体には骨が浮き、戒めのように硬く巻かれたサラシの所為でより身体の丸みが失われて石膏じみた様相になってしまっている。
シモンが食事も睡眠も殆ど摂らなくなったせいだ。
地震の多い村に生まれたためか前からシモンは眠りが浅く、そして食糧事情を反映してだろう割合食いだめをするきらいはあった。ロシウが目を見張る程食べたかと思えば次の日狩りに失敗すれば何も口にせず自分の分をギミーやダリーに回してくれたこともある。しかし、今の彼女の状態はそれとは一線を画していた。
自らを全く省みていない。そうとしか思えない行動だった。体調が保てる筈もないのに敵が来ればいの一番にグレンラガンに乗り込んで前戦に立つ。こんな塩梅ですらシモンは確かに一流のガンメン乗りで、戦わせれば負け知らずだった。
故にシモンは誰に言われても、それが例えカミナであってすらラガンの傍を頑なに離れようとはしない。何時敵が来るか判らないからだというのが彼女の主張だ。確かに否定するのが難しい言葉ではある。
しかし本当の意味で、何故ここに来るのか、は、たぶんロシウの予想通りなのだろう。
ここに来ればラガンがある。そして、ここにはヨーコもカミナもあまり足を向けない。
そう、シモンが本当の意味で避けているのは食事でも睡眠でもない。ヨーコとカミナだった。
何故か?
二人が、恋人同士だからだ。
カミナとヨーコが付き合っていることなど大グレン団の人間で知らない者などいない。
そしてその事実こそがシモンをあれほど慕っていた人間から引き剥がしてしまった。
驚くべきことにその顛末を理解しているのはどうやらロシウとリーロンだけらしい。当人二人はそもそもシモンの感情に気付かず(リーロン曰くシモン本人ですら理解が遅れていたのだそうだ)、大グレン団となって合流した人々には確かに知る機会のない話ではあるが。
カミナがシモンの感情に気付く日が来ることを祈るべきなのかそれとも永遠に知らないでいてくれた方がいいのかロシウには判断がつかなかった。知ったとして最早カミナが妹分をそれ以外の存在として扱う余地はない。今にも折れてしまいそうなシモンにそれが突きつけられるのも酷な話だろう。
せめて別の形で苦しみを発散することが出来ればいいのにとは思うが、シモンは一人殻に籠もったまま誰かに何かを訴えようとはしなかった。
命を削る程彼女を追い詰めるものが単純に恋情のみとも思えない。持て余す何かの根幹がなんなのかはロシウには解らず、故に慰めの手も届かなかった。
もし、自分に会いに来てくれるのであれば。そして自分に言葉をぶつけてくれれば。
間抜けた欲求ににロシウは息を吐く。シモンは決してロシウに会いに来ているのでは無いのだ。安全な隠れ家なのは格納庫、それもラガンのキャノピーなのであって少女の傍という訳では無い。そもそも頼られる理由もなければそうなるだけの力があるわけでもない、無い物ねだりをしているだけだった。
せめて自分にできるのはグレンとラガンのメンテナンスに手を貸すことだろう。しかしそれですら微々たる技量ではラガンの自己修復機能の前には毛ほどの役にも立たないのだ。
気落ちし、それでも己の仕事を果たそうとロシウは視線をシモンから外す。ところが、彼女の足下を二つの風が駆け抜けていってもう一度黒い瞳は夜色の娘に導かれた。
「シモン!」
「シモンー?」
ギミーとダリー、小さな二人が名を呼びながら床に座り込むシモンへと駆け寄る。その顔にはどことなく緊張が見え、意を決したとでもいうような表情をしていた。
幼いとはいえ、むしろだからこそ二人はシモンの纏う空気の違いを敏感に感じ取っているのだろう。俯き加減の顔を心配で仕方ないといった調子で覗き込む。
それを受け陰鬱な影を持つ顔が僅かに面を上げた。反応があったことに顔を明るくした双子がちょこまかとシモンの左右に身を寄せる。
その光景を久々に見たような気がしてロシウは片眉を上げた。ついこの間までそれはいつものことだったというのに。
珍しいものに気を引かれるギミーは毎日ラガンに乗せてくれとねだったし、大きな声が苦手なダリーはカミナから隠れるようにギミーについて回っていた。水汲みに出るとなれば二人は喜々としてシモンの左右に収まったものだ。
双子に振り回されるシモンにロシウは恐縮しきりで、その彼女まで乗せたぎゅうぎゅう詰めのラガンで川辺まで行くのも珍しくなかった。缶を後ろに、子供達を縁に座らせてロシウはラガンの手に座り込む。
今となっては過日の出来事だ。水も食料も供給形態が変わっている。
短い物思いの間にもギミーとダリーははしゃいだ声でシモンに話し掛けていた。特に人見知りの激しいダリーにとって、知らない人間が増えた大グレン団は不安に満ちている。
表情は固いものの年上の少女は騒がしい声に頷き時折答えを返した。億劫そうに動く手に撫でられてダリーは頬を緩める。前と同じように自分達に構ってくれるのだと知ったギミーがシモンの腕を揺さぶり、ダイグレンの中を探検しようと誘った。いくつかの危険が予測される場所には双子は立ち入れないが保護者がいれば大丈夫だと踏んでいるのだろう。
しかしそうやって艦の中を歩き回らせることはシモンにとって苦痛になる。察しているロシウは、事此処に至るまで上手く詰めることが出来なかった距離を足早に縮めた。しかし彼女が二人を留める前に、ラガンの縁で昼寝していた獣が先に動く。
「ぶーぅ!」
一鳴ききしてブータは床へと飛び降りた。星印のついた尻を振って双子の視線を惹きつけ、そのまま本気ではない速度で走り出す。邪険ではなくともどことなく疲れた顔の主人に気を使ったのだ。ギミーとダリーは瞬きの後に歓声を上げて小さな獣の後を追う。無邪気な双子を目でおいながらロシウはシモンに頭を下げた。
「シモンさん、済みません。ギミーとダリーが」
弟妹をダシにしている罪悪感がちくりと胸を刺す。なにかがなければ声を掛けることも出来ない意気地の無さが恥ずかしかった。
シモンは、のろついた動きで首を傾けてロシウを見上げ、それからまた重そうに頭を下げる。返答の無いまま落ちる沈黙にロシウが消え入りそうになる頃やっと低く掠れた声が呟いた。
「…いや」
声を出すことに不慣れになった喉が軽く咳き込む。心配し膝をついたロシウを苦渋に満ちた瞳が映し込んだ。どきりと何故か鼓動が跳ねてロシウは胸元を押える。その彼女をまた視界の外に置いてシモンが乾いた唇を滑らせた。
「ごめん、俺の方が邪魔してるよな」
ぼそぼそした声音は自嘲に満ちている。自らの手で己にとどめを刺したがっているように聞こえてロシウは必死に頭を振った。
「そんなこと」
シモンはなにも悪くない。ずっとずっと頑張ってここまでやってきた。それだけでなく伝えたいことは山ほどあるのに上手く言葉を紡げない。無力さを噛みしめながらロシウは動くことが出来なかった。二人の少女を無言が支配する。
が、それを駆けてきたブータが遮った。
「待てっ!」
「まってー」
追いかけてきた双子もまたロシウとシモンの隣に乱入する。どこをくぐってきたのやら、ギミーもダリーも顔と言わず腕も脚も服も黒く汚していた。先頭を駆け抜けてきたブータも茶色い毛並みが乱れている。
「ああもう、こんなに煤だらけにして」
世話するべき相手が目の前にくればロシウもいつもの調子を取り戻さざるを得なかった。拭うための布を手にして双子の腕を引く。取り敢えず顔を汚す油汚れを擦ってはみたがそれだけでは落ちてくれなかった。ブータはというと一生懸命に舌を動かして毛並みを元に戻そうと奮闘している。
服のことも考えれば風呂に入れてやらねばならないだろうと判断を付け、まだ整備に手をつけてもいないことを思い出してロシウは頬を引きつらせた。
「そのっシモン、さん!」
どうしてだか、何を言おうとしたのか、泡を食った声が漏れる。重たい瞬きをしたシモンはロシウが何かを続けるのを待たず、ギミーとダリーを風呂に入れてやりなよと小さな二つの背中を押した。促されて頷きかけたロシウは左右に小さな手を取りながらまたシモンを見下ろす。身綺麗に余念のないブータを足下に置いたまままたラガンに寄り添うシモンの姿に真逆の彼女の面影を思い出した。ついこの間なのにやけに遠くなってしまった記憶が脳裏に浮かぶ。
獣人の罠とはいえ立ち寄った温泉をシモンは気に入っていた。その時に起きたその他諸々を差し置いても。風呂に誘えば一緒に来てくれるだろうかと迷い、しかしロシウは結局言い出すことが出来なかった。空回りする姿を想像すると背中が冷える。下手に声を掛けて嫌われることを恐れるのは自分の為の都合で、シモンを真に案じている考え方ではないのだと彼女は自身を責めた。だがその隙にまたシモンは俯いて外からの干渉を拒む姿に固まる。
力になりたいと願う癖にどうしても一歩を踏み出せないロシウを、ギミーとダリーが引っ張った。
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