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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.09.06,Sat
結局シモンはカミナに固執し続けてますよ、というお話です。
降り積もるは真白の絶望の蛇足。






もうどれだけの時間を過ごしたのか、正確なことは忘れてしまった。確かあの時、故郷だった星が燃え尽きてしまった時には24だった気がするが定かではない。
朧な年月を掴もうにも自分の面を鏡で拝むのも癪だ。増して、隣に立つ少年の顔を覗いたところで足しにもならない。連れ合いが年を重ねることを止めてからの時間など数えるのにも飽いてしまった。
それだけ重ねた時間、影のように自分に寄り添う子供の姿をした相手の頬にカミナは指を伸ばす。肌を赤く飾る紋様を、擦り落とすように撫でれば刺激に対する反応として丸い眼が細められた。弓なりになったその貌を笑みと勘違いしたくなる。本来ならば透き通ったまま指を透過させる筈の肌が弾力を示す、触れることを許す意図を、都合良く考えたくなる。その先に誘われるのが更なる絶望と知っても縋り付きたくなる。
性根の底から夢想を好む自分はどうにも変わらないようだった。自嘲する男を人形と判別のつかない顔が見上げる。二度とは手放したくない相手から腕を引き、歩き出したカミナを足音もなく監視者が追いかけた。
「お仲間んとこにゃ帰らねえのか」
都合によってはこの人形が姿を消すこともある。大概、渡り歩く世界に存在するシモンとカミナが向き合っている間はそうだった。だが監視者はことが済んだと判断すれば必ずカミナの元に舞い戻ってくる。その意味すら自分の好みで理解したがるカミナへ、釘を刺すようにメッセンジャーが呟く。
「帰る意味など無い。必要な情報は常に俺から汲み上げられている」
抑揚の無い声の代わりに闇色の腕が持ち上がった。彼の主たる天体を示すつもりなのか指先が衣服と同じ色をした夜空を指さす。
「…俺の担当する星最後の一人たるお前の絶望を以て俺の任務は完遂される」
最早幾度繰り返されたのかも解らない、耳に届けば戯れ言とも取れるような宣言がカミナに与えられた。お題目じみたそれを最後の男は肩をそびやかして聞き流す。そこで会話は途切れる筈だったが、珍しく興でも乗ったか白い唇は声を紡ぐことを止めなかった。
「メッセンジャーはメッセンジャーだ。アンチスパイラルの生体端末に過ぎない。役目を果たせば廃棄されるだけだ。螺旋の遺伝子は全て滅ぼされなければならないのだから」
棄てられるのだと、躊躇も惑いもなく言い切る子供にカミナは思わず足を止める。が、彼はすぐさま歩みを再開した。自分の考えを振り切るように空色の髪を揺らす。
「…そうかい」
目を眇め、前だけを見て歩く男の前に体重を忘れた少年が体を割り込ませた。黒い衣服から晒されながらも赤い呪縛をかけられた手がカミナの顔に伸びる。しかしそれは触れず男の形をなぞっただけだった。
「残骸の死などでは最早お前も傷つかない、か」
痩躯は誘うように前を進み出す。その背が翻る一瞬、監視者の口許が緩んでいるように見えたのは錯覚だっただろうか。迷っている間に、世界が歪んでいく感覚を体が捕えた。
ああまた跳ぶのか。思う間にカミナと連れ合いを包んでいた世界が溶け落ちていく。その異常にすらも感慨を忘れている男の手を、不意に体温のない手が包んだ。空気と同じ温度しか持たない、限りなく存在感の薄い肌を触れさせたまま宙に浮かんだ監視者が赤い瞳を覗き込む。顔どうしの距離は零に近かった。
何のつもりだと顔を顰めたカミナに、監視者は今更の言葉を吹き込んだ。
「お前は俺をシモンと切り離して考えたいかもしれないが無意味だぞ。単純に俺は真実を知っただけだからな」
「…そうかよ」
どことなくどうでもよさそうな相槌を打ったカミナを眺め、近さを保ったままガラスの眼が瞬きを繰り返す。
「俺もシモンだ。カミナ。正しい役割に目覚めた故に、お前はもはや俺をそうとは認めないだろうが」
宵闇よりもなお暗い、なにもない場所にぽっかりとその姿を浮かばせながら幼いままの相棒は刺青の浮く体から身を引き離した。いつも通りそのままカミナを異世界へと墜落させるのかと思えばそうでもない。何故か与えられた間に、仕方なくカミナは億劫そうな声で問いかけた。
「その真実ってのは考えまるごと、性格まで変えちまうようなもんだったのかよ」
「お前は地上を知り、それまでの臆病な自分を捨てただろう。それと同じだ」
疑念には待っていたとばかりの回答が戻る。しかしそれを聴いても赤い外套の男は僅かばかり肩を竦めただけだった。無音の隙間が再び二人の間に満ちる。
「…絶望は、しないのだな」
小首を傾げたメッセンジャーは最後の最後にそう囁いた。拍子抜けしたとでも言いたい様を見せた相手に、カミナは苦笑を見せる。
「最初に言っとけよ、そういう話は」
まだしも一番最初に教えられてりゃ吃驚したかもしれねえぞ。喉さえ鳴らした男を眺め、仕方なさげにメッセンジャーは頭を振った。処置無しとでも言うつもりか、無言のままに二人の周囲に世界が形を得ていく。
薄れていくシモンを見、そしていつも通りの墜落を味わいながらカミナは今度こそ声を上げて嗤った。
…俺は、お前さえ居りゃ満足だって気付いちまったんだ。最悪だろう。最低の奴だろう。星を丸ごと滅ぼしちまって、別の世界でありとあらゆるお前を巻込んだっていうのに。
着地した先でもまたシモンが苦しんでいることを知りながら、それでもカミナはこの永遠の旅路を諦めるつもりになれなかった。
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