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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2010.01.09,Sat

ココ爺マジ便利。
ヴィラルの語りはもっと色々あったのですが、冗長になってしまうので切りました。
もっと描写してあげた方が重みが出たかな……うーん。
結構ザックリな文になってしまった気がします。







気づけば彼女は自宅の玄関にぺたりと座り込んでいた。
どうやって戻ってきたものか覚えてはいない。
その代わりにニアの頭の中を巡るのは、大きな傷を負い、意識を混濁させ、尚カミナを呼ぶシモンの姿。
あんなにも、あんなにも好きな人と隔てられてしまった、悲しい女の子の姿。
大切な親友。
得難い恩人。
そんな人なのに、自分は彼女のためになにもしてあげられず───あまつさえ、ヨーコに甘えて逃げてきてしまった。
泣いてはいけないと、そんな権利はないと思うのに、目の奥が痛んで仕方がない。たおやかな手が青ざめた貌を覆った。
人形ではない、と。
絶対的支配者であった父に宣言した時、確かにニアは自らの足で地に立ったつもりでいた。己で自分の生きる道を選んだと思った。
そんなのは嘘だ。
あの場所へ連れて行ってくれたのは、シモンだった。
箱から解き放ち、テッペリンへの道を作り、父との対話を生んでくれたのは、シモンだったのだ。
七年間、人間と獣人の架け橋となって役立ってきたような気になっていたけれど、その立場を作ってくれたのもロシウとシモンだ。
自分はただ、用意して貰ったものを甘受したに過ぎない。
それはあのテッペリンの王宮でなにもかもを与えられていた時代と些かも変わりなかった。
「私……私は、なにも……」
してあげられない。してこなかった。
自責の念に駆られ苦しむニアは、桜色の爪を皮膚に食い込ませる。こんな痛み、シモンのそれに比べたらなんのことはない。
「なにか、なにか……!」
喘ぐように呟いた、その時だった。
玄関の段差に腰を下ろしていたニアの目の前で、扉がゆっくりと開いていく。
ぬ、と姿を見せたのはココ爺だった。親しくも忠実な執事が現れたことを知り、ニアは顔から手を離す。何かを言いたくて、でも言えずに居た彼女は更なる人影に息を呑んだ。
「───!」
最後に会ってからどれだけ経つだろう。だがその姿は知っているものと殆ど変わらず、長く伸ばされた髪が年月を伝える。思わず立ち上がったニアとは対照的に、彼は膝をつき頭を垂れた。
「ヴィラル」
懐かしさと戸惑いが声に乗る。は、と短く応じた獣人の声は往時と変わらず凛としていた。隻眼がゆるりとニアを見上げ、眩しそうに見つめてくる。その表情は心苦し気でもあった。
「敗残の将として、いや御身の敵として一度は相対しながらも今再び御前に吾を晒すお見苦しきをどうかお許し下さい、姫」
言われ、父との戦いの直前にあったカミナとヴィラルの一騎打ちがニアの脳裏を駆けめぐる。それは鮮烈な記憶ではあったが、ニアの心に深く刻まれているのは、チミルフの部下として実直に立ち働いていた彼だった。戦いの頃には立場もあった。けれどヴィラルという獣人の本質がどんなものであるかをニアは知っている。故に彼女の声音は鈴振るような柔らかさを伴った。
「姫と呼ぶのはよして下さい、ヴィラル。
 ……私はただの娘。なんの力もない人間なのですから」
ぎゅ、と胸元を握るニアを見、ヴィラルは首を振る。
「なにを仰いますか。
 ニンゲンと獣人の争いの火種を消して回っておられたのは、他ならぬ貴女様です」
労る色を表情に混ぜ、ヴィラルは尊崇の念を隠さなかった。
「私のように、戦うことしか知らぬ者からすればその煌めきはあまりに遠い」
自重し、再び頭を下げた男は苦渋の音で言葉を綴った。
「されどこのように御許に参りましたのは、お伝えせねばならぬことがあると確信したが故。シーブス殿の助けをお借りすることとなりました」
あくまでも臣下の立場を崩さないヴィラルの隣で、ココ爺が安心させるように笑顔を見せる。ニアは頷き、先を促した。
「解りました。
 ヴィラル、お願いします。無知な私に、どうか聴かせて下さい」
「はい」
忠義心を露わにした男は、まずはニアの知らない近況を報じる。アンチスパイラルという存在、螺旋王の行為の意義、そして月という絶望。シモンにカミナが刀を向けた事は聴いていたが、メッセンジャーとして現れたという事実はニアを更に打ちのめした。
目眩を覚えたニアのすぐ隣に立ったココ爺がそっと腕を支えてくれる。それに頼って、ニアはもう一度まっすぐ地に足を下ろした。
「解りました……アンチスパイラル、そして人類殲滅システム。
 恐ろしいことです。なんとしても止めなければ」
でもそのために、自分になにができるだろう?
帰宅した時と同じ自問自答が巡りそうになるニアに、ヴィラルの言葉が楔を打つ。彼の話はここからが本題だった。
「語り部と呼ばれ、それでも私は武人たるを捨てられずに各地を転戦しておりました。
 その中で螺旋王がかつてお捨てになられた品々に触れる機会を得たのです」
うち捨てられたものの中には封印された過去の記録が記されたものもある。最初は手慰みに目を通していたヴィラルは、その中から見過ごせない事実を読み取ることとなったのだ。すなわち。
「あの方こそは、一千の昔にアンチスパイラルと戦った戦士であらせられた」
「え?」
思わず、喉から声が漏れた。花を散らす瞳が見開かれるのを見届けながらもヴィラルは続ける。
「千年前、螺旋の力を持つ者達はアンチスパイラルと戦争を繰り広げました。
 この星の軍勢を率いておられたのが貴女の父上だったのです」
だが、ロージェノムは最終的にアンチスパイラルによって打ち倒された。そして滅亡を回避する代わりに、螺旋族を生かさず殺さず地の底に封印する役目を負う事になったのだ。
───お前達は自分が正義と信じているかも知れないが、
ニアの耳に、かつて聴いた言葉が甦る。
───このロージェノムこそが、人類の守護者なのだよ。
その台詞は一面では確かに真実だったのだ。対話を断ったロージェノムはその意味を伝えはしなかったが。
目まぐるしく変わる認識と知らされる真実にニアの鼓動が高まる。頭の中は混沌として、なのに一部は酷く冴えていた。
人類は知らずアンチスパイラルに宣戦布告してしまったのだ。
もう、戦うしか道はない。
喉を鳴らし、息を整え、瞬きをし……ニアはヴィラルに尋ねる。
「アンチスパイラルと……戦う術が、あるのですね」
「はい、間違いなく。千年前に使われたものが」
麗しくも決意を秘めた瞳に、武人が応じた。
戦わなければならない。そして、その方法を自分は知っている。
「──解りました。ヴィラル、ココ爺」
決然とした表情で彼女は前へと足を踏み出した。
「参りましょう。私たちの戦場へ」
露払いすら必要とせず、彼女は戦士と執事を従える。
向かうは議事堂、その暗部。
彼女が知ろうとせず、そして彼女の友たちが隠そうとしてきたその場所だった
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