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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.04.24,Wed
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2009.04.06,Mon
今回はロシウとショタニキの話です。
もともとショタニキ視点で進めていたのですが、何を思い立ったかロシウ側から書き直してみました。
そしたら情報の伝わらないこと伝わらないこと。
カミナ視点のままの方が書きやすかったし、文章としても良かったんじゃないかと思います…。
ここら辺のさじ加減は難しいですね…。

元の文章はオマケ憑き雑記の7番にちょろっと載せてあります。






彼は彼らが焦がれ、手に入れ、守ろうとした地上を見下ろしていた。
陽の光の下で当たり前のように生活を享受する都市。そこに生きる者全てを管理する義務を持つ青年───総司令、ロシウ・アダイは執務室の透明な壁の向こう側を見つめる。その視線はまるで、目の前に鏡映しとなった己を睨んでいるかのようだった。
「総司令、彼が到着しました」
その背中へ、彼の優秀な補佐官が声を掛ける。括った黒髪を翻して振り向いたロシウにキノン・バチカが伺う表情を覗かせた。急ぎもせず、かといって遅くもなく巨大な執務机の隣へと歩を進めた総司令が頷く。心得た補佐官が扉に近づき、ロックを解除した。
音もなく左右に吸い込まれていくドアの向こうで、グラパール隊エースたる双子が敬礼する。その間に挟まれ怨嗟に塗れた眼をしているのが"彼"だった。
「お前を許さねぇ!」
並び立つアダイの双子の制止すら間に合わず踏み込んだ少年が喚く。その肩の上でロシウもよく見知った獣が不安そうに鳴いた。それも少年、カミナを止める材料にはならない。
いきり立つ彼を見、息を吐いた総司令の仕草をどう受け取ったか、仁王立ちしたカミナの拳が硬く握られた。
「お前はシモンを捨てた。
 お前はシモンを傷つけた。
 お前はシモンを裏切った!」
吠える言葉の裏側に、少年の忘れ得ぬ記憶が垣間見える。箱船と呼ばれ放逐された宇宙船の中で何が起こっていたのかを総司令は知っていた。だがそのことをカミナは知らない。故に彼は怒りを叩きつける的としてロシウ・アダイを選んだ。
気持ちは解る。彼からすれば現総司令はアンチスパイラルに唯々諾々と従い、全総司令に全ての責任を押しつけた男なのだ。そしてロシウもそれを否定しない。
けれど。
「…あなたは、なにも、解っていない」
幼い咆哮の残滓が漂う部屋に温度の無い言葉が響く。窓から注ぐ光に影を纏わされた青年は、歯をむき出しにして唸るカミナに冷静なままの顔を向けた。
「あなたが地上に来て一年が経ちました」
初めてまともに相対した二人は、対照的な熱を持って視線を絡ませる。黒々として冷めた瞳は、紅の色を余計に燃え立たせるようだった。
「その間に、あなたは何を学びましたか?
 五年…いや、六年前の状況を知ろうとしましたか?
 あの時何故あんなことが起こったのか、その理由に思いを馳せましたか」
眉を動かしもせず淡々と論う様が遂にカミナの堰を切る。捕まえようとしたギミーの腕より一瞬早く、そして寄り添っていたブータさえ振り落としてカミナはまっすぐにロシウへ向けて走った。まだ伸びきらない背を精一杯伸ばして総司令の襟首を掴む。
「うるせぇ!お前がシモンを追い出したんだろ!?だからそこに座ってんだろ!!」
感情の強さ故に思考を先に進めることができないでいる子どもにロシウは同じ言葉を繰り返した。
「あなたは、本当になにも解っていない。
 なにも考えていない」
指摘を罵倒と受け取ったのか、ますます赤い眼がつり上がる。真っ直ぐな憎悪に染まった眸はロシウ・アダイもまた強く強く拳を握り、己の肌に爪を立てていることを知らなかった。
「僕たちが憎くてあの人を追い出したと、そう、本気で考えてるんですか」
そうでなくてはならなかったのだろう。すくなくとも、カミナという少年の中ではそうだった。支えですらあった憤怒を突き放す台詞にカミナは僅かな動揺を見せる。しかしその自分自身すら許せなかった彼は叫んだ。
「もっともらしく語ってんじゃねえ!
 もし辛ぇってんならやらなきゃよかったじゃねえか!!
 やりたくねぇことなら死んでもやるな!誤魔化してんじゃねえんだよこのデコ助!!」
大音声と共に襟から片手が離れる。大きく振りかぶられた拳が自分に向かうのを認めて、それでもロシウは動かなかった。補佐官が息を呑むのと同時に殴打の音が炸裂する。勢いよく振り抜かれた一撃は総司令の背を撓ませた。
ばちり、と音がして押さえつけられたままだった襟が衝撃に崩れる。カミナは怯えるように飛び退り、それをギミーが押さえつけた。駆け寄ってきたキノンとダリーを制してロシウは背を正し襟元を直す。
補佐官から渡されたハンカチで口元を抑えた総司令を、震える指が指さした。
「…お前…その、首の…」
いつもの快活さを失った声が喉を揺らし、カミナは既に隠された喉元を凝視する。言い重ねることもできないまま彼はギミーに羽交い締めにされた。力なくぱたりと腕が落ち、小さく縮んでいた赤の瞳がゆるりと広がる。
その姿を正面から眺めたロシウはギミーへ拘束を解くよう促した。一歩下がった青年の支えを失ってカミナがたたらを踏む。そして、いつの間にかロシウの肩へとよじ登っていたブータがぺろりとカミナが作った傷跡を舐めた。かつてシモンにそうしていたように喉元にすり寄る。その皮膚の下に埋め込まれた爆弾を恐れもせずに。
「…賭を、したんですよ。アンチスパイラルのメッセンジャーとね」
堪えて立った少年がまたぐらつきそうになりながら頭を上げた。青ざめさえしたその顔はそうでありながら先を促す。聴かないではいられない彼へ総司令は静かに語りかけた。
「アンチスパイラルは螺旋の力を討ち滅ぼす力が欲しかった。完膚無きまでに消し去る方法を探していた。
 …その為に、シモンさんが生き続けることを望んだ」
初めてカミナではなく遠くを見る眼をしたロシウの視界の端で、ふるふると空色の髪と赤い布が揺れる。立っていられなかったのか膝から崩れたカミナの頭上に声は降り注いだ。
「比類無き螺旋力がどこまで絶望を知れば諦めるのか。それを計るためにあるのが箱船です」
こつり。些細な足音を立てて総司令は宇宙で育った少年へ近づく。
「僕は、あの人が希望を棄てない方に賭けた」
顔を上げたカミナに手が差し出され、しかしまだ受け入れられないでいる少年は床を殴った。心労の絶えないブータがちょこまかと走りカミナの足下に並ぶ。数度床を叩いた子どもは、のっそりと顎を上げ問いを絞り出した。
「…希望ってなぁなんだよ」
「明日を諦めないことです」
例えば君のような少年の。
間髪を入れない答えにカミナの肩が震える。
「…あの人の愚直なまでの諦めの悪さを、僕は信じていますから」
郷愁を浮かべた声差しと自嘲を込めた貌を覗き見て少年は硬直する。おそらく彼が未だかつて予想もしたこともない心の内が目前でさらけ出されていた。
「僕は呪われるでしょうね。
 僕がサインした書類で何人殺したと思います?」
産まれてこなかった命を数えればキリもないでしょう、囁くように口にしながら総司令の指が机を叩く。毎日毎日数え切れない程の書類が処理されていく机だった。
「けれど誰かがやらなくてはいけなかった。
 選ばなければいけなかった…あの人は、選ばなかった」
カミナが考えようともしなかったシモンの罪。それを優しいからこそ残酷な声色でロシウは綴る。
「全員助けたい。犠牲は出したくない。
 解ります、それは理想です。しかしただの欲求に過ぎない」
シモンの背には、彼が負いきれない罪が被せられていた。だが同時に、彼は到底叶えることをもできないような夢を追いかけていた。ある一面から見れば、その二つは表裏一体のコインだ。実際に全てを救うことが出来ないのであれば、夢想でしかない。そして選ばなかったが故に更に多くが失われた。
カミナの親もまた、そうだったのだ。
「あの船に乗った者の中には、ムガンによって家族を奪われた者も居たはずです」
人選はアンチスパイラルによってランダマイズされていたが、それでもカミナシティの被害を鑑みればシモンへ恨みを向ける人間の割合は多くなる。
「カミナ。貴方は幸運だ。…それを忘れてはいけない」
常識の全てを崩されたカミナの肩をロシウが叩いた。それを合図に抱きかかえるようにしてギミーとダリーが少年を下がらせる。閉じた扉の先を、総司令はしばらく眺めていた。
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