飯は喰いたし、眠気は強し。
そんな感じののらくら雑記帳。
Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2007.10.30,Tue
シモン女子、ロシウ女子、カミナ生存という特殊状況。
鈍い兄貴とそれに失恋したシモンの話。
面会謝絶が続いたシモンの見舞いをカミナが許されたのは、四天王チミルフとの戦いが終わって実に七つの朝日を見た後だった。
大きな戦に勝ったといえど妹が半死人となって素直に喜べるカミナではない。率いる者に引き摺られ自然どことなく沈んでいた艦内もシモンが意識を取り戻したという朗報で俄に活気づいていた。
とは言え怪我人を収容した白い治療室まではその喧噪も届かない。医療機器が生み出す僅かな駆動音さえも耳に届くほど静かな部屋で、シモンは診療台の上に横たわっていた。少しは調子も良いのか積み上げた枕で背中を支えて身を起こしている。だがやはり背中から腹まで貫通した傷からそう簡単には復活出来るわけもなく肌は青白く眼の下には隈が浮き、喋る声も幽かで覇気が無くなっていた。
そんなシモンを前にして空元気めいた笑みを浮かべたカミナの身体は大丈夫かという問いに血の気の引いた青ざめた顔が俯きがちのまま小さく頷く。
こんな大怪我でもシモンは痛いとも苦しいとも言わない。責めてくれればまだ気楽なものをと我が儘なことを考えた。酷い目にあったと文句の一つも言うのなら土下座でもなんでもして謝ることができるというのに。
嫌でも目につく包帯は、シモンが作戦の犠牲になった証だ。策は成ったかもしれないが、彼女が命を拾ったのは僥倖に過ぎない。
無茶で無謀と笑われようと、それで自分が倒れようと、満足して死ねると思った。
目的、仲間、全てが揃った決戦の朝に今死んでも悔いなどねぇと本気で思った。
だがそれも与えられるのが自分ならばの話だ。
ツケを払わされたのは、シモンだった。
思えばシモンは怯えていた。備えを忘れない性格のくせに深夜まで眠れずカミナのところまで来たのはその現れだったのだろう。
しかし優しい娘は敢えてそれを押し隠したのだ。間抜けな自分は、見抜けなかった。
帰ってきたら、聴いて貰いたいことがあるんだ。
震えて掠れた囁きだった。今でもいいと促したのに頑なに戻ってからにすると言い張って寝床へ戻っていった。言い出したら梃子でも動かないところはカミナとシモンはそっくりで、だから敢えて問い質しはしなかった、のだが。
カミナが真意に気づけたのはラガンのコクピットの中で半ばひしゃげ、血塗れになり、殆ど呼吸も失って、あまりにもどうしようもなく死体に近づいたシモンを目にした時だった。
シモンは、二度目の夜明けが来ないかも知れないと予期していたのだろう。だから不安定な未来に約束を残した。自分達が戻ってくることを信じるためにあんなことを言ったのだ。
だというのに自分と来たら小さな背中を見送って、その時になればシモンは腹を据える奴だから大丈夫だと暢気に考えていた。なにが大丈夫だ。
自分が死んだとしてもシモンは死なないなどと何故思い込んでいたのだろう。
手放したのがまずかった、傍を離れなければ良かった。雑魚はとっとと蹴散らして合流できるつもりでいたのだ。
あの夜シモンが不安がったのも当然だったのに。
後悔ばかりが押し寄せる。振り返らない男にとってそれは堪え難い苦痛だった。
シモンは自分を導く自分を支える、それに甘えて頼っていた自分が許せなかった。
大した奴だ。シモンは確かに。だが、女の子なのだ。どうして忘れていた、シモンは女の子だ。
もう二度とあんな目には遭わせない、傍にいて手を握って盾になって守ってやって傷一つ負わせるものか。
だからまず一つ約束を果たそう。シモンがもう絶対に明日の朝日を絶望しないように。
「俺に言いたいことってなぁなんだ?」
決意を見せる代わりに殊更明るく問うたのに、シモンは喉を詰まらせた。
「…っ」
目に見えて肩が震える。傷の痛みに耐えかねたのかと思ったがそれにしては前触れがなかった。しかし訝しみ眉を寄せたカミナが尋ねる前に、シモンがぼそりと呟く。
「…次から、ああいう無茶はナシだよ。兄貴」
「あん?」
あやうく聞き取れない程小さな声で、おまけに早口だった。意図を読み取れず更に渋くなったしかめ面を視界から外したままシモンは声を重ねる。
「兄貴、もうグレン団じゃない。大グレン団なんだ。
だから兄貴は帰って来なきゃ…ううん、兄貴はそもそも命を捨てるような真似、しちゃダメだ」
まるで駄々っ子に言い聞かせるような口調だった。確かに大グレン団は人数を増やし拠点を得、カミナもそれ相応の対応を求められている。リーロンにはそれとなく、ロシウやダヤッカからも別の言葉で、ヨーコに至ってははっきりと注意を受けていた。生真面目な気性のシモンであればこれから先のことが気になるのも道理ではあるだろう。彼女はその無茶に巻込まれて死にかけもしたのだから。
だがなにも今でなくとも良いはずだ。なにより視線を逸らしたまま、掠れた声でと言うのが気にくわなかった。シモンが自分に何かを訴える時はどんな目つきであれ常にしっかりこちらを見つめていたはずはのに。
「…ヨーコみてぇなこと言うな、お前」
苛立たしげ鼻を鳴らしたカミナを、やっとシモンが見た。包帯に抑えられた藍糸さえ振り乱す勢いで頭を上げる仕草の激しさに赤い目が丸くなる。
「真面目にきいてよ!」
シモンのそんな声をカミナは初めて聴いた。興奮を載せ吊り上がった灰色の瞳はいっそ怒りと言うべき色を載せている。誤魔化すように頭を掻いていた刺青の手が茫然とするままに脇に滑り落ちた。その僅かの動きはシモンを留めるものにはならない。
「次から、ああいうの俺がやるから。グレンラガンはもう俺だけで動かせるから。
ロンさんがビャコウを改造してくれたんだし、兄貴はグレンから降りて」
息すら挟まず一時に流れ出た言葉を押しつけられた。それ以外は有り得ないのだと断固とした、そして一方的な物言いに赤い瞳が吊り上がる。
「んだと、シモン!」
感情に任せて叫ぶことはあっても、カミナはシモンを怒鳴り付けることなどなかった。少なくとも、今この時までは。
妹分の声に含まれた必死さをカミナが受け取っていなかったわけではない。だがそれ以上に言葉の内容が彼の感情を駆り立てた。
守る。傍にいる。離さない。決意したばかりのことを真っ向から拒絶されて頭の中に白いノイズが走る。語尾を叩きつけ、それで息切れしたシモンはまたカミナから視線を逸らして肩を上下させていた。
日焼けした手はひったくるようにその痩せた肩を掴んで揺らす。どういうことだと問おうとして、だが手の下の小さな体が力を入れれば壊れてしまうくらい弱々しい作りをしていることに気付いて言葉に詰まった。
否応なしにシモンの性別を教え込まされ今更狼狽えたところに痛みを訴える呻きを重ねられてカミナは彼女が怪我人だったことを思い出す。取り乱し、どうにか外した手からシモンも身体を離した。顔も上げぬままに甲高く引きつれた声が炸裂する。
「兄貴とはもう乗らない!」
泣きそうな声で否定を受ける意味が解らずに混乱したカミナは何も言えず立ちつくした。怪我をさせたから。死にかけさせたから。それが怖くてシモンがもう戦えないというのなら解る。それで自分を恨んでいるというのなら解る。だがシモンはまだ戦い続けるという、自分の代わりに戦うとまで言う、ならば、何故。
硬直したカミナの目の前でシモンが糸の切れたように治療台へ崩れ落ちた。傷の上を抑え荒い息を零す。身体に繋がれた機械から連絡を受けてリーロンとロシウが部屋にやってくるまで、カミナはただそれを見守ることしか出来なかった。
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