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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2007.09.29,Sat
1話のニヤリや7話のペロリを見てるとシモンは結構素は激しい子だけど親の死を目の当たりにして萎縮したのかななどと考え
カミナが親父さんについていかなかった頃は案外大人しそうなところを見るにつけ
意外と六歳当時等で二人を比較するとシモンの方がやんちゃだったりするのかなあとかそんなことを思って






父親の姿は、とうに見えなくなっていた。それでもまだ見送る視線を外せないままカミナは立ちつくす。血のように赤かった空は次第に黒を混ぜていった。闇の帳が落ちようと未だこの場所は地下の世界より明るい。異様な明るさを保って空にかかる月が薄気味悪くて、遂にカミナは俯いた。途端足下についた自分の後退りした足跡が目に入り情けなくなる。それは父親についていけなかった自分の象徴だった。
壁のない世界で暗闇に吹き渡る風は冷たい。見渡す限りの平野の中ぽつんと取り残された孤独感に身震いが走った。息が詰まるような狭さが今は懐かしい。
「…帰ろう」
空気に溶けてしまうほど小さな囁きに唇を噛みしめた。帰る場所なんて本当は無い。母の居ないカミナが村に戻っても身寄りは無く、迎えてくれる人間は居なかった。それでも父と一緒に行かなかった以上自分はそこに戻らなくては死んでしまう。一人で地上を歩き回るなど想像することも出来ない。
更に一歩後ろ向きに進み、そうして勢いよく振り返って父が用意した洞穴に足を踏み込もうとして、カミナは尻餅をついた。つまずいた訳ではない。地面が大きく揺れたのだ。
あんぐり口と眼を丸くして言葉もないカミナの目前に突発的な地震の原因が転がっているそれは何やら赤く大人の背丈程度の物体で、顔と呼べるような物がついていた。
最初呆然としていたカミナは遅れてその異常な物に恐怖を抱き身を震わせる。悲鳴を上げて逃げ出したかったが逃げ出せる場所すらなかった。その物体は、人一人が四つん這いで通り抜ける通路の入口を見事に破砕している。
死ぬんだろうか。思い浮かんだ予想はあまりにも真に迫っていてカミナの背筋は凍った。そして固まった子供の前で赤い何かが動きを見せる。
薄桃色の壁が内側に仕舞い込まれる様は手品のように見えた。更にその中に人間、らしきものを認めてカミナは仰天する。横倒しの体勢で奇妙なものの内側に座っている人間が呻き声を上げた。
「いってぇ…」
頭を自分の手で押えているのはカミナより十は年上の青年だった。これ以上なく眼を見開いて様子をうかがう少年に気づかぬまま、彼は毒突く。
「…時空間ねじ切れるんなら説明書つけとけってんだこのアホガンメンっ…」
訳が解らない言葉はカミナにとって化け物の呪文のようにも聞こえた。怯えを隠しきれず、しかし動くこともままならない少年はぱくぱく口を開閉させる。
暫くぶつぶつ言っていた青年が顔を上げ、そして両者の視線がかち合った。
「…ん?」
傍に子供がいることを認めた青年は何度か瞬きすると唐突に立ち上がった。その動きの素早さにびっくりして、カミナの身体は逃げようとする。だが大股にカミナの傍に寄ってきた青年は幼い子供を追い越した。
「え」
何をする気かと見上げたカミナに背を向けて、青年の手は彼自身の腰に伸びる。そして機敏に抜き放たれた何かが光と音を放った。
「な、なに!?なに!?」
青年もこの地上も未知に過ぎてカミナは狼狽えた声を上げるしかない。身の危険に立ち上がった彼を伸びてきた手が制した。
「動くな!」
庇うように差し伸べられた藍色のジャケットの腕越しにカミナは青年が対峙しているものを知る。
「うわあああああっ!」
少年はまたも初めて見るものに、ここまで溜め込んだ叫びを解いた。金色にぎらつく眼が青年と少年に向けられている。その眼の主である獣の大きさは青年の身の丈すら超えていた。地下世界ではここまで巨大化した生物はおらず、度肝を抜かれた少年の膝がくたくたと伏せる。
「はん、偉そうにすんじゃねえよこのデカブツが!」
しかし恐怖に気圧されたカミナと対照的に青年は威勢の良い声を上げた。後押しのように羽織ったマントがたなびく。
ずらりと。清冽な金属音を立てて引き抜かれた刃が月明かりを受けて煌めいた。その鋭い輝きに目を奪われたカミナの震えが一瞬止まる。僅かに反った刀は弓月の分身の如く光を跳ね返していた。
優美な刃に相対する獣は咆哮と突進で応える。僅かに覗いた横顔が笑んでいるのを認めカミナは目を見張った。と同時に恐ろしさが消える。この青年の傍にいれば大丈夫。父親が与えてくれた物にも似た安心感が何故か芽生えた。
「ケダモノ風情が、俺を誰だと思ってやがる!」
張りの良い音声と共に青年が足を踏み出す。まるで段取りが決まった舞のように刀が踊った。間を置かず、どうと獣が地に伏す。
ちん。刀を鞘に戻した音にカミナは力が抜けて溜息を吐いた。それを合図にしたように青年が振り返り膝をつく。
「…怪我はない?」
心配そうに問う声音に先程まで纏っていた激しさは無くなっていた。落差に驚いて言葉もないカミナの様子にどう思ったのか、青年は急ぎ立ち上がって彼が乗っていた物体に近づく。
「手当ての道具、持ってたっけなあ」
がたがたと漁る仕草に目を引かれ、カミナは青年の隣に寄った。まだ恐ろしさが消えた訳ではないが少なくとも相手は自分を獣から庇ってくれている。一人で地上に座り込んでいるよりはマシに思えた。
「痛いとことか、ある?」
横にカミナがやってきたことに気づいた青年が目を下ろして訊ねてくる。
「…ううん」
控えめに首をふれば、安堵の息と共に子供から見れば広い肩から力が抜けた。
「良かったぁ…ちょっと事故ってさ、ぶつかったりしなくて良かった」
言われてみればあと少しズレていれば自分に直撃していたのだ。今更気づいて肝を冷やすカミナに青年は苦笑を浮かべる。
「本当、なんもなくてよかった」
カミナの頭をぽふぽふ叩いた青年は、足を上げて赤い物体の座席に戻った。なにやら弄くり出す青年に興味をかられたカミナは背伸びして手元を覗こうとする。地上はなにもない世界だと思ったが、とんだ見込み違いだ。知らないものに溢れている。
「兄ちゃん、地上の人?」
この物体もさっき獣に向けて放たれた物もカミナの知らないもので、ならば地上の品なのだろうと見当をつけたカミナには青年も地上の、つまり特別な人間に見えた。
「いや?」
きらきら瞳を輝かす子供を否定して、じゃあなんなんだろうと小首を傾げたカミナに青年はニィッと笑って見せる。そして彼の腕が真っ直ぐ上に伸びて空を指さした。
「俺は、宇宙の人間さ」
視線を誘われ真上を見上げたカミナはオウム返しに口を開く。
「うちゅう…?」
「空の向こうってこと」
訳が解らないでいる少年に、青年は至極嬉しそうに言った。
「そらの…むこう…」
あまりにも雄大なものを呈示され、受け止めきれないカミナの頭を青年が撫でる。
「君は?地上の人かい?」
「ううん、俺…俺、下の…」
言って足下を見下ろしたカミナは、自分が重要なことを忘れていたのに気づいた。この奇妙な物体は、地下へ戻ろうとしたカミナの目の前に落ちてきている。つまりこれは自分が潜ろうとしていた道を粉砕している筈だ。
「うわっ!」
理解して慌てて飛び降り、カミナは地面にしゃがみ込む。何事かと続いた青年にどうしようと困惑しきった少年が訊ねた。彼が通ってきた道は見事なまでに崩落している。
「悪いことしたなあ…」
事情を了解した青年は呆然と呟いた。とんだ二次災害だ。どうしようと目を潤ませるカミナに申し訳なさそうな顔をして、それから青年は突然四つん這いになる。
「…なにしてんの」
地面に耳を押しつけて拳で地面を叩く姿は奇行としか映らず、カミナは呆れた声をあげた。だが青年は至って真剣に応じる。
「こうすれば地質とか中の空洞とか解るんだ、俺。
 …ラガンで掘ると余計崩れるなこれは」
地面を撫でてから立ち上がった青年は乗ってきたものから手回しドリルを引きずり出した。それはカミナも見たことのあるもので少年は少し驚く。全くの別世界の住人なのに、そんなものを使っているとは思わなかった。
やっぱり人間は人間なんだなあと奇妙な理解を示すカミナに、ドリルを手にした青年が顔を向ける。
「そうだ。腹、減ってない?」
「え」
唐突な質問にカミナはぽかんと口を開いた。だが少年の身体は正直に腹を鳴らして回答する。そう言えば父親と離れてからずっとここにいて何も食べていなかった。頬を赤く染めたカミナに青年は目を細めて笑い、ちょっとまっててとドリルを地面に置く。
そしてまた刀を抜くと先程倒したままになっていた獣に近づき刃を滑らせた。皮を剥ぎ取り骨から肉を引き剥がし内臓を抜いてと器用に解体していく。更に先程の訳の解らない光と音を発する道具を解体してそこら辺から集めてきた草に火を点けた。しげしげと眺めるカミナの前で手際よく夕飯の用意が出来上がっていく。
「ほら、突っ立ってないで座りな」
手招きされて近づいた頃には骨付き肉が脂を滴らせていた。
「すげー…」
素直に簡単の台詞を漏らしたカミナに青年が照れた顔を見せる。
「火傷しないようにな」
「うん」
一口かぶりつくと後は止まらなかった。がつがつ食べ続けてあれほどあった獣の肉は殆ど二人の胃袋に納まってしまう。
けぷりと満足の息を吐くカミナに火の番を頼んで青年は地面に向けてドリルを回し始めた。あっという間に地面の下にその姿が見えなくなる。作業の速さにまたも驚かされ、次いで置いて行かれる不安にせき立てられたカミナは青年の開いた穴を覗き込んだ。
「どうした?」
気配に気づいた青年が振り返る。
「あ…なんでもない」
不思議そうな顔を見てカミナは慌てて首を振った。親父は振り向かなかったな、と突然思い出す。父は行ってしまった。もう声は届かない。
「割合すぐ通路にぶつかりそうだから。
 すぐ帰れるから、心配要らないよ」
涙を耐えて唇を噛んだ仕草をどう理解したのか、青年が穏やかに告げた。カミナは頷くことしかできないまま身を引く。地下への道が開いてしまえば青年ともお別れだ。一人で村に帰り、一人で暮らさなくてはならない。
ぼんやりと月を見上げていたカミナの元へ戻ってきた青年は土まみれだった。もう戻れるよ、と肩を叩かれてカミナは曖昧に頷く。
「どうした?」
怪訝な言葉に何でもない、としか返せなかった。父の語る世界も、青年の世界もカミナには広すぎる。連れて行ってくれとは言えない。
無言になったカミナの隣に青年が腰を降ろし、肩を抱かれた。それ以上なにもせずなにも言わずに一緒に空を眺める。青年はあそこに戻らなければならないのだ、いつまでもこうしてはいられない。
また一人で取り残されるのだとカミナの胸は締めつけられた。それでも彼は、行かないでと言う代わりに問いかける。
「空の向こうってどんな場所?」
か細い声に青年はゆっくりと瞼を閉じた。ゆるりとした呼吸と共に静かな、だが幽かに楽しそうな色の滲んだ声が落ちる。
「なんもないけど、なんでもあるな」
その言葉にカミナは息を呑んだ。同じだ。
「…親父もそう言ってた」
告げると青年は笑みを深めて頷く。
「じゃ、その親父さんは解ってる男だ」
カミナの肩を柔らかく叩き、青年が立ち上がった。伸びてきた腕に手を取られ、カミナも習う。
「お前さんの足は何処へでも行ける。地下でも地上でも空の向こうでも、行きたいと思ったところへ」
手を引き青年は彼の作った通路にカミナを伴った。空洞の前で立ち止まり青年を見上げたカミナの背を、そっとしなやかな手が押す。
「行きな。振り向くんじゃない」
「…うん」
耳元で囁かれた言葉に頷いてカミナは足を踏み出した。最初はゆっくり。青年の手の温度が離れ、次第にその足は速度を増した。見えなくても青年に見守られているのが解る。彼に丸まった背中を見せたくなかった。
今は戻る。それがカミナに今行ける道だ。けれど。
「…俺は、地上に行く…!」
今や息せき切って駆けながらカミナは呟いた。強く、強く。
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