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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.09.06,Sat
割と思いつきで書いたはずの話。
カミナは自分の無謀さに自覚がある、という点が非常に面白いキャラクター特性だと感じます。
蛇足アリ。






正眼に構えられた刀は、青白い月の光を溶かし込みやけに白けた輝きを放っていた。
「…下手に避けねえでくれりゃあ、楽に死なせてやれたんだがな」
物騒なことを戯けた声で嘯いて、刃の主はカミナを見下ろす。
寝入り端に殺気で叩き起こされたカミナは、跳び退った姿勢のまま怒りに顔を歪めた。
「胡散臭ェ奴だとは思ってたが、な!」
吐き捨てながら指先で地面を抉り取った砂を相手に投げつける。上手く当たれば目つぶしにでもなるかと思ったが、古傷とくすんだ赤の外套を纏う男は鬱陶しそうに空き手で払っただけだった。
既に日の落ちた暗闇、仲間達の気配は遠い。シモンは見張り、ロシウは子供達と共にラガンの中、リーロンはおそらくグレンのメンテ中でヨーコは離れた位置で眠っているはずだ。声の一つも上げれば誰かは駆けつけてくるだろう、しかしそれが良策なのかカミナは迷う。
真昼間拾った行き倒れ、今対峙する男は構えを見るだけで戦い慣れていることが解った。半日とはいえ親しく過ごした相手を前にきっと自分の仲間達は躊躇を見せる。その隙ですらこの男の斬撃に充分な時間となるだろう。
舌打ちを響かせ、カミナはすぐ傍にあるはずの得物を探る。その間も逸らさないでいる赤い目を、同じ色の瞳が射抜いていた。
そもそも、出会った時から気にくわなかったのだとカミナは胸中で毒突く。荒野で倒れていた正体不明の男など、見捨ててしまえば良かった。大体、図ったように男の髪と瞳の色は自分と同じだ。薄気味悪いことこの上ない。けれどシモンはそれを見て、他人とは思えないとこの男を拾ってしまった。ますます悪い予感を憶えたカミナの言葉はヨーコやロシウに黙殺されて、結局グレン団はこの男と行動を共にした。ジョーと名乗った男が一飯の恩だと近くの村までの案内を買って出てしまえば、ますますカミナの勘は仲間達に無視された。
指がやっと柄をたぐり寄せる。経緯がどうあれ敵だというなら倒すだけだ。鞘を払おうとカミナの手首がしなったその刹那に、男が口を動かした。
「言っておいてやるぜ、小僧」
無視して刀を構えたカミナを構わず同じ色を宿した男は掠れた声を綴る。
「お前だ。お前がシモンを不幸にする」
抑揚すら風化した声音だった。だが耳に届いた音はカミナの指先までを痺れさせる。どういう意味だ。夜闇に似つかわしくない空色の毛を逆立てて赤い瞳が引きつる。
相対した男は、抑えた声で淡々と続けた。
「お前の無謀がシモンを殺す。
 でなけりゃあ守れもせずにお気楽に先におっ死んで、シモンの人生狂わせる」
見下ろす瞳が映すのは断じて怒りではなかった。冷静にすら見えるその表情が包み隠したその奥に、なにがあるのか気付いてカミナの背筋を悪寒が走る。
「いいか青二才。てめェはどこまでいっても疫病神だ」
憎悪だ。
「シモンは、必ずてめぇの尻拭いをさせられて死ぬ」
ぞっとしない台詞に、遅ればせ手前勝手な述懐を投げつけられたと思い至ってカミナは不快も露わに地を蹴った。飛び込み一閃した刃が鍔迫り合いに持ち込まれる。
「知った風な口利きやがって…!」
自分の奥底に仕舞い込まれた恐怖を論われたカミナがそれを振り払うため得物に力を込めた。不自然な圧力でぎちぎちと軋む刀を滑らせて男は立ち位置を組み替える。かわされ、体勢を崩したカミナの脚が男の足に蹴り飛ばされた。
「知ってるってんだよ!」
苛立った顔を見せ、刀の持ち方を変えた男はカミナを指さして言を重ねる。
「いいか。
 お前はシモンを殺す。
 そして世界も殺しちまう。
 そういう男だ、お前は」
連なる声は切々と、激しさの欠片もなかった。故に刃の代わりにカミナの心臓を貫く。
自分を、そして弟分を、仲間達を、己の意地と夢想が滅ぼすのではないかという恐れはいつでもカミナの中にあった。抉り出され晒されたその想像にカミナは顔を歪める。
カミナが何と直面させられているのか解っているとでも言いたげに、男は刃の背で自分の肩を叩いた。
「言って止まれる奴じゃあねえだろ、お前は。
 だから俺が殺して…」
やるよ。最後まで言わないまま男の刀がカミナの喉元に触れる。更にそれを振り抜こうとしたところで、悲鳴が場に割り込んだ。
「兄貴になにするんだ!!」
二対の赤眼が思わず振り向いた先で今にも転びそうな程に足をもつれさせながらシモンが駆けてくる。危ねえ、来るなとカミナが叫ぶ暇もあらばこそ、シモンは二人の間に小柄な体を滑り込ませた。兄貴分を庇うように両腕が広がる。
「なんでこんなことっ…!」
引きつった声に責められて、動揺したように男が刀を引く。その反応の意味をカミナが探る前に男の足が後退った。
カミナからシモンへと視線を移した男の顔が苦渋に染まる。真っ直ぐに見つめるシモンの表情が耐えきれないとでも言うように男は顔を逸らし、また一歩後へ引いた。
怯んだ、と見えたのは本当に錯覚だっただろうか。しかし、無腰のシモンに男が何故戸惑うのかカミナには判断がつかない。そしてそれ以上自分の内面を探られることを厭うように、男が吠えた。
「いいか!俺の言ったこと忘れんじゃねえぞ!」
最後に一度シモンとカミナに視線を向けて、男は外套を翻す。踵を返して逃げ去る様に、唖然とした直後カミナは怒鳴った。
「俺は生き抜く!シモンも生きる!!
 お前みてぇな腑抜けにゃならねえ!」
言葉の意図が解らないのか、声に振り向いたシモンの顔は戸惑いを浮かべている。藍色の頭を片腕で抱寄せたカミナは既に岩場の果てへと消えた背中に念を押した。
「俺のグレンとシモンのラガン、揃っていりゃぁ敵はねえ!」
暗闇に解けたその声は虚勢でしかないのだとカミナだけが知っていた。



乱暴な歩みが次第に駆け足になり、最後は息が荒くなるほどのものになった。追いかけてくる声と寸前に見た子供の顔から逃げ切れぬまま走るしかない。
その彼の前に、まるで空気が姿を持ったかのように突然人影が現れた。
「あのまま揃って殺してやれば、いっそ幸せだったかもしれないな」
空中へと不意に現れた姿はどことなくぼやけた声でありながら鋭利な言葉を放つ。足止めされ、暴れる心臓と同じようにまとまらない息を零しながら赤い目が相対した者を見つめた。
宵闇をそこだけ浮かび上がらせる赤い紋様、その光に象られて痩躯の形を理解させられる。見慣れた幼い身体の造形は少し前に男を怒鳴りつけた子供と相似形だった。
「どうせお前の言葉は受け入れられなかった。そうだろう」
肌と同化する黒い衣装と赤い模様を着込んだ少年の、ただ左の腕に結びつけられた布だけが異彩を放つ。そしてそれは、嫌が応にも男に相手が誰なのかという事実を押しつけていた。
「…シモン」
力無く呼んだ男の声を白い貌の少年は無視する。
「所詮昔も今もお前の言葉は夢物語…実も無い子供の戯れ言」
まるでそこに床があるかのように宙を歩み、男の目の前に降り立ったシモンは至極つまらなそうに瞳を大岩の向こう側へ投げた。
「あのお前も一月保たずに死ぬ」
羽虫の寿命を告げるように、シモンは事実を羅列する。頷きすら返さない男を感情の薄れた眼が見上げた。
「そうだろうよ」
肯定し、男はシモンの横顔をみつめる。それに気付いたシモンが胡乱な目線をこちらにむけ、追い払われたように男はまた視線を外した。
「カミナ」
逃げた瞳を許さないとでも言うように、やはり赤い線を這わせた幼い手が男の頬に触れる。指先が撫でた顔の傷痕は痛まなくなって久しかったが、それでもカミナと呼ぶ声に男の心臓は激しく揺さぶられた。いっそ自分の鼓動を止めてしまえればいいのにそれも出来ない。
だからこそ、あの青年は自分が斬り殺さなければならないはずだった。
青臭い子供の理論、現実を無視した矜持、何もかもを壊さなければいけなかった。
その筈だったのに、立ちふさがった"この世界の"シモンを見た瞬間に気付いてしまった。
"この世界の"カミナを殺したところでもう遅い。残されたシモンはその遺志を継ぐ。継いでしまう。
そしてどうしようもなく、シモンは螺旋の運命へ突き進んでいくのだ。
「俺を殺し、この世界のお前を殺し、ここにお前が居座ってみるか」
今度こそ守ってやったらどうだ? などと。
誘うように与えられた選択肢は、どうせ出来ない相談だった。雨すら知らずに死んだ弟分よりも、この監視者との付き合いの方が長い。長の旅路の間に、結局は別の世界の住人である自分が他の世界に留まることは許されないのだということぐらい解っていた。今も、あのシモンの螺旋力を目覚めさせる元凶となった自分の無謀を見せつけられて悔いることしかできないでいる。
ある世界のシモンは全ての責任を負わされ首を斬られた。別の世界にはアンチスパイラルに籠絡され人類の敵となったシモンも居た。人類のためと信じて自ら命を絶ったシモンもこの目で見た。死体となった子供を抱きかかえたまま気を違えたシモンは、この手で介錯した。
なにより、自分の相棒だったシモンは作戦とも言えない作戦の最後に斬り殺され、こうして監視者として命を繋いだ。きっとこの世界のシモンも、今まで巡ったありとあらゆる世界のシモンと同じように運命に翻弄されるだろう。
全て、原因は自分だった。地上を夢見た自分の引きずり出した熱狂が、シモンを、そして人間を焼き尽くした。
「絶望したか?」
ひたすらの無力感に苛まれる長身の男を下から覗き込み、シモンが小首を傾げる。その仕草は既に亡い者と酷似していた。いや、しているはずだ。自分の記憶すら定まらなくなりつつある。あんなに、大事な弟だったというのに。
しかしそれでもカミナは前を向くことだけは止めなかった。
「…まだ、諦めるつもりはねえよ」
ぶっきらぼうに吐き捨てて、疲れ切った足が前に踏み出す。どこかに、きっとどこかにまともな結末を迎えるシモンがいるはずだ。その姿を見届けるまで諦めることは出来ない。
その背を眺めたアンチスパイラルのメッセンジャーは酷く幸せそうに微笑んだ。
無邪気な子供の表情で、笑った。
「そうか。では次の世界に行こう」
慕う者への信頼とも捉えた虫の羽根をもぐ嗜虐ともつかない顔のまま、少年は先を行く男の背を追う。
彼等の姿がこの世界から掻き消えた後に残るのは、ただ二人分の足跡のみ。

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