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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.04.29,Mon
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.07.08,Tue
色々な意味で蛇足ですが一応…
乞い人」のその後。
表現その他すっとばしてますが、蛇足ということでご勘弁下さい。






地上の眩しさに目を奪われ、それでもカミナは片時たりともシモンを忘れることが出来ずにいた。どこまでも続く空を見上げればあの目に見せてやりたいと願い、地上の道具を見ればあの手がどれだけ器用にそれを扱うだろうと考える。
運良くカミナを拾ってくれた隣穴、今は地上の村の娘であるヨーコはその様に呆れた顔を見せた。地上は獣人に支配され、穴蔵程安穏とは暮らせない。その少女も人妻となって地下で暮らした方が安全安心なのではないかとヨーコは思ったものだったが、カミナの熱の籠もった横顔を見て彼女は提言を諦めていた。
そうして半年程を地上で過ごし、リットナーでの暮らしでカミナはその力を認められていった。獣人に面と向かって口上出来る人間などそうはいない。
そうして仲間として充分以上に認められた頃、どうしても迎えに行かねばならない女がいるのだと、熱を籠めて訴えたカミナにリットナーの人々は渋い顔をした。それはそうだろう。普段交流が薄いとはいえ隣村、いざこざは避けたい。
だが、と温情を出してくれたのは獣人との抗争部隊を指揮しているダヤッカだった。気性の優しい彼はカミナの必死さに何かを感じてくれたらしい。カミナがジーハの村は日々拡張工事を続けていると伝えていたのを覚えていた彼は、それを止める為に一度ジーハへ交渉へ向かわなければならないだろうと言ったのだった。
隣穴であるリットナーからは未だ毒ガスが吹き出ており、それがダヤッカ達が地上で暮らさねばならない理由である。ジーハ村が無軌道に拡張し、その毒ガスに繋がる穴を掘ってしまえば大惨事だ。そうなる前に教えてやらねばなるまい、その伝令のチームにカミナを組み込もう、というのがダヤッカの案だった。ジーハへの道は詳しくないからというのは勿論優しさから来る後付けだろう。
その気遣いを恩に着て、カミナは使節団の一員としてジーハ村へと舞い戻った。村長とのやりとりはダヤッカやリーロンに任せ、一人ひっそりと勝手知ったる故郷を巡る。懐かしいと思うよりも気が逸るのは、やはり一人残したシモンを案じるからだった。
シモンが暮らしていた穴を尋ねたものの姿が見えず、では結婚したからかと思っても会議のお陰で村長の居なくなった村一番の穴蔵に人影は無い。
どうしたことかと思いあまったカミナは、横道に逸れて一人となった哀れな若者を捕まえて締め上げた。数ヶ月前に行方不明になったカミナを見て幽霊とでも思ったか慌てふためく同年代を締め、カミナはやっとシモンの行方を知る。
彼女はカミナが地上へ抜けた道よりも更に深く、暗く、湿った穴の中へ閉じこめられているのだと語られて憤慨した入れ墨の腕は哀れな青年を殴り倒して気絶させた。そしてその足でカミナはシモンが居るはずの穴へと一足飛びに駆ける。
何故そんなところに囚われているのか、理由など考えるまでもなかった。禁を破り地上へと出たカミナの身代わりとして閉じこめられたに違いない。
今更ながら胸の潰れる思いを味わい、カミナは人気のない通路へ飛び込んだ。ばさりばさりと朽ちかけた暖簾をまくり上げ、シモンの名を呼ばわる。
…それに、怯えたように息を呑む音が返った。
「シモン!」
思わず喜色を浮かべ名を繰り返し、カミナの雪駄は一人の娘を求めて走る。あまり使われることもない古い牢穴の奥、一つだけ新しい暖簾のかけられた穴を見つけたカミナは逸る気持ちのままに布を払った。
「シモン」
狭い穴の中、寝台と水瓶だけがある。そして蟠る闇に紛れた娘の姿もまたそこにあった。だが彼女はカミナが持ち上げた暖簾の隙間から射し込む光さえ厭って顔を腕で覆う。
そして今にも飛び込み腕に少女を抱きしめようとしたカミナの足を苦しく喘ぐ声が留めた。
「…なんで、来たの」
訴える声音は嗄れ、あの愛おしい柔らかさが潰れている。息を呑んだカミナは部屋の中の据えた臭いにも遅れて気づき、そして暗さに慣れた目は顔を覆う白い手や腕に生傷や痣がまとわりついていることを知った。
「…」
掌の隙間から覗く唇が震え、結局何も言えないまま閉じる。それを見つめながらカミナは今にも床に崩れ落ちそうになるほどの無力感に襲われていた。包帯など巻いて貰えないシモンの細い足には醜く抉られた傷跡が残っている。腱を切られたのだと知って、男の心臓は燃え盛った。
「…見て、ほしく、なかった…」
哀しく濡れた声がカミナに痛みを与える。その何倍もの痛みを負わされた娘は肩を振るわせ己を隠すようにますます身を縮めた。汚れた身体がこのまま消えてしまえればいいのにとシモンは痛切に願う。
何人とも数えられない男の相手をさせられた。それが、次期村長を騙してカミナを地上へと誘った女に与えられた罰だった。
それを知ったのが村長であれば殊更話を荒立てようとはしなかっただろう。カミナ一人失われたところで労働力には問題がない。それよりも地上への道があることを村人に騒がれることを厭ったはずだ。
しかしあの男、村長の息子は違う。疎ましいあのカミナからシモンを奪い取ってやったと浮かれていた男は、シモンがそれを逆手に地上への道を探り当てた事を知り激昂した。元よりシモンなど蔑む孤児の一人、カミナへの当てつけ以上の価値など無い。力ない養われ者の身で自分を謀ったと知れば怒りと憎しみが湧き上がり、それはか弱いシモンをいたぶることで発散された。
妻という名の所有物と化したシモンを狭く暗い岩戸に閉じこめ、欲を持て余す男達の性具として明け渡した夫は、それに飽きたらず毎日のように彼女へ暴力を振るった。カミナを追って地上へ逃げるのではないかとの猜疑心に駆られれば足が萎えるよう腱を切った。
撲たれ醜く腫れ上がった顔に男達が萎えないよう袋を被らされ、時も解らぬ部屋の中で暴虐の限りを尽くされた。
おそらく今や己の姿は化け物となっているのだろうと、姿見も無いままシモンは思う。
そんな姿をカミナに見られてしまうとなればそれこそ死よりも辛かった。今までこうして生きながらえたのは罪を償うためと、カミナが見るだろう空を夢想する夢にまどろむためだったというのに。
「…どうして…」
来てさえくれなければ夢を抱くことも出来たのにとシモンは嘆く。だが幼い頃から夢を追い続けてきたカミナはその嘆きを遂に無視した。留まっていた入り口から入り込み、腕を伸ばして更に痩せた身体を抱きしめる。止めて欲しいと願い暴れる身体はそもそもそんな体力を持っては居なかった。
「遅れちまって済まねえ」
後悔も謝罪も無いような男は言うが速いかそれを娘の身体に流し込むように唇を奪う。灰色の目を見開きシモンの動きが消えた。汚れるから触ってはいけないと止める暇などありはしない。カミナは羽織っていた布をシモンの身体に被せると細い身体を抱き上げた。
「地上へ行くぞ」
今度こそ文句は言わせないとばかりに強く告げる言葉に、つぶらな目が潤む。何度も殴られ蹴られた顔を見られたくなくて布を寄せたシモンをカミナが笑った。
「すげえぞ地上は。そんな怪我なんざぁすぐ治せる薬を作れる奴が居る」
男か女か定かではないが、腕は信用できる者の顔を思い浮かべカミナは頷く。ふるりと藍色の髪を揺らし、まだ残ろう、罰を受けようとするシモンを入れ墨の腕が許さなかった。あのどこまでも続く空の下へ連れ出せば、闇の中で縛られた心もほぐれるだろうと確信してカミナは今度こそ腕の中の娘を逃さない。
「行くぞシモン」
朗らかに言い切り穴を抜け出たカミナを、約束の場所でヨーコが待っていた。遅い、話し合いが終わるかも知れないと文句をつけながら地上への道を先導する少女を被った布の隙間から眺めたシモンが小さくため息を吐く。そこに僅かな恐れがあることを見抜きながらカミナは藍色の髪を撫でた。
「すげぇだろ、地上の女は。お前もすぐあんなだぜ」
囁く言葉に、ウソ、と小さく返事が戻る。その声音が往時の柔らかさを早くも取り戻しかけていることを知り、カミナは喜んだ。
やはり地上は素晴らしい。シモンがいればきっと尚更。
カミナはシモンを掻き抱いて、逸る心のままに石段を駆け上がった。
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