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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.03.21,Fri

なにかもっとちゃんと書こうとしていたのですが、まとまらぬまま。
書き足しも上手くいかなかったので結局最終回当時に書いた内容そのままです。







青い空に向けて一陣、強い風が吹き抜けた。
一瞬だけ俺を取り巻いた白い花びらが一斉に空を踊って吸い込まれていく。
綺麗だなあ。見上げながらそんなことを考えていたら、同意するように肩の上のブータが鳴いた。長い付き合いだ、もう何も言わなくても伝わるらしい。
ここまで結構長く歩いてきたから、流石の俺もちょっと疲れていた。でも柔らかなそよ風と共に首を揺らす花を潰すのも気の毒で腰を降ろすのはちょっと気が引ける。
どうしたもんかな、と思って首を巡らせた先で花と同じ色のドレスを着たニアが俺を見つめていた。しまった。なんですぐ気付かなかったんだろう。
焦ったのは多分顔に出たと思うけど、ニアはそんなことには構わずいつものあの優しい笑顔を俺に向けてくれた。
「ごきげんよう、シモン」
ふわふわしたスカートの裾をつまんで会釈される。こちらも頭を下げそうになって、いやいやそういうことじゃないだろうと俺はニアの居る方向へ足を向ける。なるべく花は避けたつもりだけど幾つかは踏んでしまったかも知れない。それとも、実はそんなの気にするのはこっちだけで草花にとっては大したことでもないのかな。
一足を投げ出す度に勢いがついて、身体の疲れは嘘みたいに消えていた。そんなに遠くはないはずの距離を詰めるのもどうにももどかしい。精一杯に伸ばした手ももしかしたらニアに触れることが出来ないんじゃないかと何故だか恐怖が胸を占めた。
あと一歩のところで胸を刺す痛みが突き抜けて、そして一瞬後に俺の腕がニアを捉える。指に触れる感触、抱寄せた身体は確かに俺の腕の中にあって、浮かんだ恐怖が杞憂だったことに俺は安堵した。
「やっと追いついた」
溜息混じりに言いながら俺はぎゅうっとニアに抱きつく。子供みたいな俺の仕草にニアが明るい悲鳴を上げて、それでも離れない俺の背中を柔らかく撫でてくれた。
少しでも距離を開けるのが嫌で許されているのを良いことにニアに俺を押しつける。それを見て、兄貴が笑い声を上げた。
「なんだぁ、兄弟。しばらく見ねえうちに甘ったれになっちまったな?」
ぐしゃぐしゃ俺の髪を掻き混ぜる兄貴を見上げて俺はやっとニアから腕を放す。名残惜しそうに外れそうになったニアの手を握ると俺の大事な女の子は嬉しそうに笑った。
うん、やっぱりニアには一番笑顔が似合う。白いドレスも、今着ている薄桃色のスカートも、髪が短いのも長いのもどれも全部似合うけど、一番似合うのは笑顔だ。
いつの間にか俺から離れたブータを肩に乗せた兄貴とニアと俺と、ひとしきり笑い合う。なにがおかしいという訳じゃないけど、無性にそうしていたい気分だった。こんなに晴れ晴れとしているのは久し振りだ。
兄貴の赤いマントが揺れる。ニアのふわふわした髪の毛が揺れる。俺の藍色のジャケットが揺れる。
揺らした風はくるりと俺たちの周りを回ってからまた空へと吸い込まれていった。
誘われるように空を見上げる。何処までも何処までも高くて先の見えないその向こうに今から俺たちは行くんだ。
そうと俺が理解したことに気付いた兄貴が力強く頷いてくれる。ばしっと音を立てて背中を叩かれた。
「じゃ、そろそろ行こうぜ、ダチ公。
 連中も首を長くして待ってやがるからな」
うん。声を上げて頷こうとしたのに、代わりに腹が鳴った。ぐぅという間抜けな音に慌てて胃の上を抑えたけどもう遅い。
「まあ、シモンったら」
ニアは口許に指を当ててくすくす笑った。からかわれてる訳じゃないのになんとなく気恥ずかしくて、俺は頭を掻く。
「だって、ニアのご飯食べたかったからさ」
言っている間にますます腹が減ってきた。なんだか胃が締めつけられている感じがする。こんなに空腹感を憶えるのはなんだか久し振りだった。もう随分長いこと食欲もなかったんだけどな。
「むこうに着いたらたぁんとどうぞ!」
シモンの好きな物をなんでも作ってあげましょうね。
甘やかすように言いながらニアが俺の手を引く。一瞬転びそうになりながら後について俺も駆け出した。兄貴は俺たちよりも長い足でのらくら歩きながら、でもそんなに離れずについてくる。
「飯ばっか食ってねえで俺たちへの土産話も忘れんなよ」
「解ってるよ、兄貴」
俺とニアを眺めて笑う兄貴の腕を空いた手で掴んで引っ張って、三人と一匹で一緒くたになって俺たちは駆け出した。白い花畑から次第に足が離れていく。怖いとは思わなかった。残念だとも感じなかった。こうしてここから離れていくことは誰にとっても当たり前の結末なんだから。
「お前の親父さんとお袋さんにも、立派になったとこ見せてやらねえとな」
「お父様もシモンに会いたがっていました」
懐かしい人々の話に俺は目を細める。兄貴やニアだけじゃない、今から皆に会えるんだ。
そう長いこと待たずに、今度は俺がロシウを迎えに来ることになるだろう。もしかしたら兄貴がキタンと一緒にヨーコを迎えに来るのが先かも知れないけど、そんなのは些細なことだった。
いずれ皆がここにやってくる。それぞれがそいつだけの物語を抱えて。
だから、今は。
「行こう。兄貴、ニア!」
もう一度強い風が吹き抜ける。俺と兄貴とニア、それからブータは、その風と一緒に空に溶けた。
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