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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.07.08,Tue
女体化良妻系シモンとカミナの話。
蛇足つきです。






手から離れた器は素直へ床に身を投げ出し、呆気なく割れた。染み出す液体が室内に酒精を振り撒く。しかしいいように酔い惑った男は寝台に体を投げ出したまま寝返りすら打たなかった。
ただぼやけた頭でも器が砕ける音を理解は出来る。始末をつける気力もなくカミナは低い天井を見上げあた。そうやって暫く待っても、いつまでも彼以外には割れ物を片付けようという人間は現れない。当たり前だ。母を亡くし父も行方不明になってからカミナに身寄りは無い。
天涯孤独の身の上で、だからあの手が傍にあったのは偶然に過ぎなかったのだ。
食器が壊れればすぐにでも片付け、少しは嘆き、仕方が無いねと諦めてからカミナを窘める相手は今ここにいない。いや、二度とここには来ないだろう。
数日前までは毎日のように顔を合わせていたというのに、あっという間に距離は離されてしまった。
子供の内は威勢のよいガキ大将として曲がりなりにも慕われていたカミナが歳を追う毎に厄介者扱いとなってもあの娘だけは態度を変えなかったというのに。
同じように孤児で、同じように村長の下で育てられたシモン。
気弱な癖に優しくて、恐がりなのにしっかりしていて、小さな手でカミナの服の裾を握り後をついて歩いたシモン。働き者の幼い手の平は血豆が出来て皮膚が破れ、その度しくしく泣くのが気の毒で薬を塗って布を巻いて気を逸らすためにカミナは幼い頃見た空を、いつか行くと心に決めた地上の姿を語った。
それは誰もが嘘と笑った物語だった。
父と共に確かに見た空を、父が旅立った地上を真実と信じる者は村人の中には居ない。
その戯れ言、与太話と誰もが評するカミナの夢をシモンはいつでも楽しそうに聴いた。歳を経てからも子供の時分にそうしたように、地上へ行くと意気がり古い記憶を語るカミナの話を嘘とは一度も言わない。仕事で疲れて帰った時にはあの話をしてくれと強請られることすらあった。
何度も繰り返した話を初めて語ったのはいつだったか。
二親を地震で無くし、怯え暮らして眠れもしないシモンに寝物語と教えたのが始まりだったようにも思う。
下を向き、身を縮めて歩くシモンの瞳をこちらに向けさせるためだったかも知れない。
だが幾度となく重ねた言葉をシモンにもう一度語る日は二度と無いのだろう。呆気ないものだ。
憎からず、念われているのだと薄々思っていた。所帯を持つことなど考えたことはなかったが、或いは一緒になる相手が居るとすればシモンなのだろうとも。
孤児達が枕を並べる部屋から追い出されてからもシモンがカミナの住処を訪ねるのはそういう意味なのだとなんとなく考えていた。肌を重ねたことはなくとも、つがう歳になったシモンがこの部屋に来るのは少なからずその意図を篭めているのだろう、と。
…だがシモンが選んだのは村長の息子だった。
昔から孤児を嘲笑し、能もないくせ偉ぶっていた胸糞悪い男。
気の弱いシモンはいたぶられることも多かった。なにかとカミナを敵視して時には徒党をけしかけてきたこともあった。幼児の頃にはまだ自分で殴り合うものだった諍いも歳を得て自らは傷つかない方法へと変え、父親の権力を傘に着て増長はますます酷くなっている。
幼い時分よりシモンが泣かされてはカミナは報復に走り、他の孤児が被害に遭ってもカミナが庇いにいく内にお互い不倶戴天の敵となっていた。
何故あんな男と。
苛立ちを飲み込もうにも供になる酒はもう無い。胸に居座る乾きは酔いではなかった。出来ることならその原因を今すぐ叩き壊してしまいたい。そうやって暴れるのは本来カミナの得意分野でもあるはずだった。
だが次期村長となる輩がシモンを見初めたとなれば玉の輿だ。断る意味などどこにもない。なによりあちらから言い寄ったのなら昔そうしていたような、手酷い真似もしないだろう。なにからなにまで好い話、夢ばかり追い掛け今酒に逃げる男に口出しの余地など。
父親を一人で行かせたあの日ですらこんなにも己を情けないとは思わなかった。間抜けた奴だ、奪われてから慕情を自覚するとは。
「…シモン」
負け犬の遠吠えは空しく部屋に落ちた。陰鬱な声はまるで自分のものではないようでますますカミナを苛立たせる。潮垂れた自らを認め難く歯軋りした。来もしない眠気を掴まえようと躍起になり瞼を閉じようとして、逆に赤い目が見開く。
縮んだ瞳孔は夜の証として光を落とされた廊下の闇に白い女を見出した。痩せた手が扉代わりの暖簾を掻き分けて、暗がりに馴染む藍色の髪を透かした灰色の双眸はじっとこちらを見ている。
幻、だと。
思い込みたかったが身体は正直に背を起こしていた。酒気に頭がぐらつきこめかみを抑える。些かの間俯き、もう一度顔を上げてもまだ彼女はそこにいた。
「カミナ」
か細い声で男を呼んで、サイズの合わないブーツを履いた足が部屋に踏み込む。少しだけ迷った脚は一度歩き出せば足音を忍んで寝台へと身を寄せた。
「カミナ」
壁に背を預け身を引いたカミナを見上げてシモンは泣きそうな笑顔を見せる。昔よく見た泣き顔に反射的に手を伸ばし乾いた頬に触れ、感電したかのように骨張った指が痙攣した。シモンはすぐさま離れようとする手の平を捉え擦り寄る。仕草はやけに女めいていた。
息を呑むカミナが見ている前で微かに震える喉から囁きが絞り出される。軽蔑してくれと言いながらシモンは俯き服の胸を握った。
「今から、卑怯なことを言うよ」
もう灰色の眼はカミナを映さない。簾のごとく藍の髪が表情を押し隠した。その向こうで色薄い唇が戦慄く。
「地上への、道を教えてあげる。その代わりに」
指と共に胸元が解けた。しどけなくさらされた娘の肌に目を見開き言葉を失うカミナの指に同じ、だが細く働き者のそれが絡む。誘われるまま、喉元を辿って降ろされた手があまり大きくはない乳房に押しつけられた。
「俺を女にして頂戴」
しろと言うくせもう女の顔で今度はシモンがカミナの頬に触れる。抱寄せたのは殆ど無意識だった。腕の内にある細い身体は昔と同じように頼りなくしかしどう触れようとも子供ではなくなっている。
ああそうか、もう自分達は子供などではないのだと、そんな愚かな自覚とシモンを確かにカミナは手に入れていた。
幾度も触れた筈の手が知らない熱を孕んで男の背中を這う。痩せていながら柔らかな肌をなぞるその最中、シモンは最早カミナを兄貴とは呼ばず、そのことが二人を明確に断絶させていた。
まるで儀式のように男へなり女となり、息を荒くしたまま抱き合う。けれどその呼気も次第に整えばあれほど交わった熱も二つに分かれ、哀しく寄り添うばかりになった。
岩肌を頼って座る男の背に名残惜し気に娘が身を沿わせる。所在なく寝台に落ちた手を握り、カミナは赤い目を爛々と輝かせて囁いた。
「俺と来てくれ」
なんと返るか知りながらも願った言葉にそれまで傍にあった身体が離れる。
「行けない」
否と応えた娘はそっと男の手を持ち上げて唇を触れさせた。そのあまりの優しい仕草にもう一度抱き寄せようとして細い指に胸を押される。
朝より前に出なければと俯き伝えたシモンの声に、口づけを重ねることは許されないのだとカミナは知った。
いつでも出て行けるようにと纏めてあった荷物を抱えカミナは誘う小さな背中を追う。忍ばせた足音はそれでもやけに大きく聞こえた。夜の間も申し訳程度に点けられた灯りに影を引き延ばされながら、そのうち二人は落盤があるからと伝えられ誰も来はしない穴へと辿り着く。此処がそうだと指し示したシモンは柔らかく微笑んでいた。まるで寝物語に地上の語りを聴く夜のように。
ろくでなしの自覚はあった。女の優しさに甘え、情を交わした揚句に地上へ向かう。やりたい放題もいいところだ。
さようならと囁いたシモンをカミナは辛抱堪らずに抱きしめる。潰してしまおうという程に力を込め、己の弱さに免罪符を用意する。
「必ず」
愚かしさに吐き気すら覚えながらカミナは細い身体の体温を味わった。いつもは威勢の良い声が死に体の様で言葉を操る。
「必ず迎えに来る」
だから別れなど告げるなと強がったカミナにふわりとシモンは頬を緩めて見せた。延びた腕、人差し指が口上ばかりを吐く唇を押さえる。
「約束はしないで」
落ちた指は頬を撫で、首筋を辿り最後に胸元を押した。緩む腕の輪から一歩引き、自らカミナを断る。
見送る娘の背筋は伸び表情にも迷いは無かった。出立する男を祝うその仕草に唇を真一文字に結んだカミナは足を踏み出す。かつては一人立つ父に残した心を、今は背に立つ娘へ引かれ、それでも男は地上へと旅立った。
消えていく背中を見守っていたシモンはわき出た追っ手の気配にも振り返らない。己の罪を知る娘は、断罪を叫ぶ声にただ静かに瞼を閉じるのみだった。
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