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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.05.03,Fri
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2007.10.08,Mon

そんな訳でショタニキ話の二本目です。
ここで終わっておけばまとまりが良いのにグダグダ続くんだ、これが…
悪い癖ですな。







しなやかな指はコンソールと同じようにコーヒーメーカーを操り、そして古い知人にマグカップを差し出した。
「ありがとう」
受け取り、礼を言って笑むその表情は十数年前存在した少年がそのままそこで笑っているかのように見える。
重ねた年月を忘れ、姿形が変わらないのはお互い様だった。まるで空白など無かったかのように自然に、穏やかに、そして静かにシモンは問いかける。
「箱船のシステムは?」
今日の天気を語る口調に、日々の業務を伝える声音が応じた。
「順調すぎてやることもないわね」
万事難なしと伝えられてシモンは苦笑する。
「そうか」
凄腕メカニック様に尋ねるには愚問だったな。言った言葉にリーロンも笑みを浮かべる。
お互いこうしてどこか変わらぬまま、だがどうしようもなく遠くへ来てしまっていた。引き返すことなど出来ない過日の幻が一瞬双方の脳裏を掠め、そしてそれは現実の音を前にして消え去る。機械工と機械工が愛した青年は示し合わせたように艦橋の扉を振り返る。
自動ドアの向こう側に突っ立っていたのは不機嫌な顔をした少年だった。その少年にも刹那古い影を見たような気がしてリーロンは眼を眇める。視線の先できょろりと赤い瞳を巡らせた少年は、メカニックの隣に座っているシモンを捉えると頬を膨らませた。
「こんなとこ居たのかよ」
言いながら中に入ってきた彼は扉が閉まりきるまでの間に軽快な足取りで階段を駆け上る。
「ん、どうした」
口からカップを外して迎えたシモンのすぐ傍で子供の足が止まった。問う言葉には応えずに少年は顰めた顔をリーロンに向ける。始め敵意剥き出しだったその表情は、性別不詳の相手を頭から爪先まで眺め回した上で僅かに警戒を解いた。おまけのように少年の長く伸びた襟足から小さなブタモグラが顔を出す。知った臭いを嗅ぎつけたブータも来訪者が誰なのかを認めて懐かしそうに一鳴きした。
「おめぇ、確か…リーロン?」
さしたる逡巡も挟まずに唱えられた名にリーロンの表情が煌めく。
「あらぁ!憶えててくれたの」
嬉しそうに跳ねた声とくねくねと定まらぬ科にまだ幼さを残した背中が総毛立った。冷や汗を掻いた手の平が思わずといった風情でシモンの外套の袖を握る。宥めるためにその手の甲を撫でたシモンが話題を変えた。
「で、カミナ。どうだった?健康診断は」
すっかり子供の容態に気を揉む保護者の面になっている育ての親を眺めてカミナは鼻を鳴らす。顎をしゃくる仕草に懐かしい男の面影を見出してリーロンは片眉を上げた。歳を取ったのかしらと胸中で嘆く男とも女ともつかぬ古い知人の身体を駆け上がり、ブータは慰めるように頬へ身を寄せる。
時が止まったかのような機械工と獣、そしてかつての英雄に囲まれながら絶賛成長期の少年はべたべた触られて気持ち悪かったと感想を零した。体調も特に問題なしという報告にシモンが嬉しそうに頷く。そしてついでのように身体測定結果が付け足され、それにリーロンが感想を漏らした。
「あら、じゃあ十四の時のシモンと同じくらいじゃない」
「ホントか!?」
「げ」
目を輝かせたカミナとは対照的にシモンが潰されたサカナダカナンダカのような声を上げる。頬を引きつらせた彼に吹きだすリーロンを尻目に、カミナは間髪入れずシモンへ向けて胸を張った。
「ほら見ろ!いつまでもガキ扱いすんなよな」
してやったりと言わんばかり、上機嫌な子供に保護者が釘を刺す。
「図体でっかくなったってガキはガキだろ」
おまけに前髪を半分上げて晒された額にデコピンが加わった。が、それは窘めと言うより年上の虚勢に近く見えてまた機械工の笑みを深める。しかし言葉も好意も少年の矜持を傷つけるには十分だったのか、眼を吊り上げたカミナが勢いよく腕を振りかぶった。
「んなことねえよ!それ寄こせ!」
言ったと同時に丸みの残る指がシモンのマグカップを引っ掴む。床に少し零されて眉を寄せたシモンは直後硬直したカミナを見て明るい笑い声を上げた。
煽ったまでは良いもののやはり苦みに耐えきれなかったのか少年は眼を白黒させた上顔を青ざめさせている。それでも無理した喉が音を立てて一口目を嚥下した。とは言え彼の努力もそこまでに過ぎない。二口めに臨もうとしたまま動かない腕をシモンの骨張った手が引き寄せてカップを奪った。床を汚す黒い液体は気を利かせたブータが片づける。
ことりとマグカップがテーブルに戻る音でカミナは動きを取り戻した。盛大に咽せる様を笑い飛ばしながら保護者は淀みない動きで黒い液体にミルクを注ぐ。マーブルカラーが次第に混ざり合っていくのを見届ける頃にはカミナの咳も収まっていた。
「ほら、苦いもん飲めねえんだからこっちにしな」
「…」
むくれた頬をぴたぴたと血色の悪い手の甲が叩く。差し出されたカップを渋々受け取ったカミナはシモンが腰を降ろしている広い座席へ無理矢理収まった。本来は一人用の席だが痩せた青年と子供でならば充分に並んで座ることが出来る。
大人ぶりたいくせにまるきり子供の行動を示しているカミナは自分ではその事実に気付いていないようだった。幼いが故に許される傍若無人さにリーロンは苦笑を見せる。一方で椅子を共有させられたシモンは表情にも年下への甘さを露呈していた。
抱え込むようにしてカップの中身を啜るカミナの首筋を覆うほどになった空色の髪を痩せた指が撫でる。子供の頭上では専門用語を織り交ぜた会話が始まっていた。理解の範疇を越えた言葉は定期的なリズムを持った音に過ぎず、そして撫でる手の動きの単調さがそれを助長する。
あくりと大あくびをしたカミナの膝の上では既にブータが寝入っていた。習うまいとして眼を擦るカミナの手からシモンがカップを奪う。直後かくりと首が折れ、慌ててカミナは姿勢を正した。眉間に刻まれた皺を食器を片づけた指が撫でた。
「いいよ、ここで寝ちまいな」
髪を弄っていた手が肩に回って横になるよう促す。貸してやると差し出された脚に曖昧に頷いたカミナが頬を寄せた。誘う仕草で髪を梳く体温に逆らわず赤い目は程なく瞼に隠れた。長い睫毛が稜線に影を落とす。無防備に寝顔を晒すことを厭わない仕草はまるっきり獣の子供だった。
寝息を立てるカミナを悪夢から庇うようにシモンの手は空色の頭を撫で続ける。惜しみなく愛情を注ぐ青年と何の疑いもなくそれを享受している少年を見下ろして性別の無い佳人は溜息を吐いた。それを合図にしたように灰色の瞳が古くからの仲間を見上げる。
「…どういう、扱いになるかな」
静かな声音は幾分か先程までの穏やかさを収めていた。その意味を履き違えないまま、しかしリーロンは戯けて肩を竦める。
「暫くは保護観察でしょうね。
 ま、やるのは私だけど」
付け足されたウィンクにシモンは頷いて見せた。
「そっか」
なら、安心だ。言って笑うシモンの額を器用にも程がある指先が突く。
「簡単に言ってくれるわね」
くすぐったかったのか首を縮めた青年は晴れやかに言い切った。
「リーロンが来たってことは、そういう意味なんだろうと思ってさ」
包み隠さぬ信頼に紅を掃いた唇が吊り上がる。
「あら、買いかぶりじゃない?」
言いながらも自信の無さなど微塵も見せないリーロンを眺め、シモンは眩しそうに眼を細めた。
「まさか。俺もロシウも…兄貴もヨーコもダヤッカもキタンも皆、みんなリーロンのことは信頼してるよ」
人徳あるから。語尾は囁くようになり、そして彼の瞳は旧知の相手から体重を預けきっている少年へと映った。子供の姿を目に焼き付けるように見つめて若さと言うより幼さを秘めた青年の声が歪む。
「…ずっと、こうしていられる訳じゃない。最初から解ってた」
自分自身へ言い聞かせて、シモンは名残惜しさのまま離れることを拒む手を空色の髪から剥がした。自分の我が儘を戒めながらも苦痛を消せずに口許が戦慄く。
それ以上何も言えないままシモンはカミナを抱き上げた。心得たリーロンはテーブル代わりにしていたコンテナからコーヒーサーバーとカップと、そして薬の入ったミルクピッチャーを退ける。子供の膝から転がり落ちたブータが不満そうに、次いで悲しそうに声を上げた。
どこまでも優雅な手つきでリーロンがコンテナの蓋を開かせる。密閉されていた箱はぷしゅっと間抜けな音を立てた。子供一人分の寝床として誂えられた箱を見下ろして、これきりとだとシモンはきつくカミナを抱きしめる。
「…しもん」
むにゃりと寝言でまで名を呼ぶ子供の声はシモンに悲しいとも嬉しいともつかない表情を浮かばせた。あやして揺さぶり、抱き直した子供の肩口にシモンは顎を預ける。
「重くなったなあ…いつの間にこんなに大きくなったんだろう」
一気に歳を喰ったように声はやつれた。わざとそれを無視して優しくリーロンが問いかける。
「幾つ?」
むしろ青年をあやす機械工の質問にシモンは掠れた声で応じた。
「5年…だから、12歳かな。拾った時は七つだって自分で言っていたから」
そして離れることを惜しんでいた腕が遂にカミナをコンテナへと降ろす。与えられた寝床に不満な呻きを訴えつつも目を閉じたまま少年が丸まった。やはり獣のようなその動きにシモンは柔らかな笑みを浮かべ、そして彼は迷わず自信の左腕を飾る布を引き抜く。腰を屈めて箱を覗き込んだ青年はさらりと空色の髪を梳いてから、その肩まで伸びた空色の髪を赤い布でくくった。
「シモン、あなたそれは」
流石に目を見開いたリーロンをシモンはゆるりと制する。
「────いいんだ。
 俺がこの子に贈れるものは、もうこれしかない」
シモンはカミナの前髪を指で掬い、懐かしい者を見る目を向ける。それが最後の触れあいだった。
「こいつ、どんな大人になるかな」
呟きながら、縁を断ち切るように蓋が降ろされる。
「できれば、見届けたかった…」
言葉と共にシモンは瞳を閉ざした。瞼を降ろす仕草は祈りのようで、ただ彼が信じているのは神様では無いことをリーロンは知っている。
彼は自身のことを諦めている。自分のためには望まない。そのくせ、絶対に絶望はしない。シモンが信じてやまないものは、自分のものではない誰かの明日だった。例えば、今やその腕の中から離れていこうとしている少年の明日だ。
「…じゃあ、頼むよ。リーロン」
顔を上げたシモンは大儀そうに息を吐き、それからリーロンに向けて丁寧に頭を下げる。子供の体温を離した途端、彼はまるで二回りも痩せたように見えた。顔に影が差し目元に隈が浮かびどことなく幼いままの骨格が猫背に撓む。まるでそれは彼自身が総ての役割を終えたのだと示しているかのようだった。
確かに、今映る姿の方が正しいシモンなのだ。螺旋力の研究素体にされ、度重なる実験と投薬に命を削り、子供の頃から戦いに身をやつしてきた彼は今にも崩れ果てようとしている。彼を支え続けたのはただ、彼自身が見出した希望だった。そしてそれすらもシモンは未来のために手放すという。
「…バカな子」
抱きしめてやりたかったが、それが己の役割でないことをリーロンは自覚していた。だから彼であり彼女であるメカニックはシモンの望みを果たすためにコンテナを押す。移動用の脚がのそりと動きだし、程なくして扉を潜った。
去っていく様を見届ける視線を離さないシモンの肩にブータが跳び乗る。ぺろりと舐められた頬を寄せ、夜色の青年は永の友への道を造るように腕を伸ばした。
「ブータ、お前も行きな」
そっと示された行く道にブータは首を振って拒絶を示す。断固とした態度に、けれどシモンは穏やかな声を重ねた。
「行って、カミナを助けてやってくれ」
昔から、友人の頼み事には弱い。ぶぅ。声を上げながらもサングラスの奥にあるつぶらな瞳は自分が行かなければならないのだと解っていた。シモンとは別れがたい、だがカミナの先を見届ける役割はブータにしかできない。
「…そら」
鼻面で押しやられ、ブータはもうこれ以上ここには留まっていられないことを思い知った。のろのろと前足を踏み出してしまえばあとは駆け抜けるしかなく、揃えられた爪を踏み切り台にしてブータはリーロンの後を追いかける。
扉は小さな身体にも反応して開閉した。自動扉は無慈悲にもシモンに廊下の先を眺め続けることを許さない。
最早一人きりになった艦橋で、疲れ切った元英雄は僅かに温もりが残る椅子へと腰を降ろした。
「…兄貴」
涙も出ずにただ痛むだけの目を手で覆う。眼裏に映る影に呼び掛け、縋るものの無い青年は彼だけの神様に祈った。
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