体力はギリギリ! 締め切りもギリギリ!
ギリギリ大魔王管理人です。
そんなこんなでコミックスパークというイベントで、ご厚意によりサークル席に座らせて頂きました。
鈍くさいもいいところなので本当に役立たずだったんだけどね!
おつりの計算とかちょっと有り得ない遅さ。
ご迷惑をおかけしてしまった皆様、さとみ様、誠に申し訳ありませんでした。
そしてこんな辺境の地の三文文士にお声を掛けて下さった方々に心からお礼を申し上げます。
おお……なんという奇跡……!
緊張の余り口調がいつもより更に変だったかと思いますが、お許し頂ければ幸いです。
そして近衛様…おめでとうございます! とお伝えしそびれてしまって済みませんでした。
逆に頂き物を頂戴するとかどうなんだ! ですが大切にさせて頂きます。
美紀さんのあみぐるみといい、近衛様のビーズといい、器用さに舌を巻く次第です。
なお、現状企画段階ですが、冬コミではまたもSimple Text様の御本にお邪魔させて頂けるという有り難いお話も頂戴しております。
こちら、情報解禁可能な状況になりましたら更に詳しくお伝えさせて頂きたく存じます。
主に、さとみ様の文章がいかに素晴らしいかについて。
ちなみに唐突に短編コピー本を持ち込んだらどうなるかという実験を試みようとしたのですが、さとみ様にお話通してないしな…ということで頓挫したんですよ。
その話をポロッと漏らしたら「いや持ってくるべきだった」という正反対のお言葉を頂き目玉を取り落とすかと思いました。
そのコピー本になるかもしれなかったものの残骸を、オマケとして置かせて頂きます。
猫なカミナとシモンの話です。
:
カミナは猫である。生まれはいずことも知れない。
たぶんどこかの道端だったのだろう。
生まれて程なく母とははぐれ、しかし生来の豪運と気の強さで彼は生き延びた。
そしてまた、その強運は彼を野良という立場から掬い上げさえした。
いくら丈夫で喧嘩も強いカミナでも、病には勝てない。
ふらふらぱたり、そのままコロリが当然だった。
骸を隠すことさえ許されず、息絶えるはずのだったカミナのことを……しかしながら、運命は見捨てなかったのだ。
『あら───』
後にカミナがニアと呼ぶことになる娘は倒れていた野良猫を拾い、医者に診せ、家へ連れ帰った。
『今日からここがあなたのおうちです』
カミナは猫であるからして、ヒトの言葉はどうも解らない。だがふかふかの寝床と毎日の食事をニアが饗してくれることは理解した。
そして彼は、猫としては非常に珍しい事に、恩と義に満ちた気質であった。
しかる後、カミナはこう考えていた。
(いつかこの恩を返さにゃならねぇ)
それは日々の虫取りやら何やら程度で満たされるものではない、と彼は思っている。
しかし飼い猫の日常にそうそう波乱は起こらない。
カミナがようやっと、己の魂に足る目的を見つけたのは、彼がニアに拾われてから実に一年以上を待たねばならなかった。
その日は朝から雲行きが怪しく、カミナはニアが雨に打たれないかを案じていた。毛並みに入り込んだ雫というものは非常に厄介である。
ニアの毛づくろいでもしてやろうかと思案していた彼の物思いは、慌ただしい足音によって断ち切られた。
「よう、姫さん。帰ってきたのか」
いつも通りに声を掛けたカミナに、だがニアは返事をしなかった。傘を持ち歩いていたのか濡れてはいない。けれどよく見れば何やらいわくあり気な箱を抱えていた。
『ええと、まずはタオルを……』
ニアが足早に去ったリビングに箱が残される。好奇心に駆られて覗き込んだカミナは、思わずその赤い目を丸くした。
箱の隅には小さな小さな、カミナの半分もないような仔猫が丸まっていたからである。小刻みに震え、目も開いていないそのチビは雨に晒されていたようだった。
どうもこいつはかつての自分と同じ境遇らしい。
そうと気付いたカミナがしたことは、おおよそ雄猫としては度し難いことだった。
小さな猫の身体から雨水を舐めとり、身を寄せて暖を分けてやったのである。
とくとくと、早い鼓動が伝わってきた。弱々しいが、まだ止まってはいない。
『まあ』
タオルを手に戻ってきたニアは、カミナが仔猫に寄り添っているのを見て頬笑んだ。
とにもかくにも、この日から家には猫が一匹増えることとなった。
カミナは新たな同居人に何くれなくしてやるつもりでいた。
それはニアが彼にしてくれたことであり、故にカミナなりの恩義の示し方でもあった。
ところが。
カミナが例の箱で目を覚ますと、既にあの子猫は居なくなっていた。
失態である。ニアはカミナが傍にいるのを見たからこそ彼に仔猫の身柄を預けたというのに、当の仔猫がいないとは。
「おい、どこ行きやがった?」
勝手知ったる家の中を呼ばわりながら歩き回る。幼い猫の身の潜め方など大した術ではない。気配を辿って追いかけると、仔猫は本棚の下の、やはり隅っこでカタカタ震えていた。
「そんなとこ居ねぇでこっちに出てこい」
まだ外ではしとしとと雨が降り、底冷えする夜は仔猫の体を弱らせる。呼び寄せたカミナに、けれども仔猫は震えるばかりだった。
こちらに来れば柔らかな寝床もあるというのに何を好きこのんでそんな場所にと呆れたカミナは、同じように本棚の下へ入り込むと仔猫の首をくわえて持ち上げようとした。が、仔猫は意外なほどの力を込めて四肢を床に突っ張る。きゅ、と苦しげな声が上がった。
仕方なしに下ろしてやるとカミナから逃げるように隅も隅、角っこに身をはめ込む有様だ。これはどうやら理由がありそうだと思い至ったカミナは、仕様がなしに仔猫に自分の体を押しつけた。寒さはこれで大分マシになる。小さな身体は夜気で容易に体温を奪われていた。
カミナに触れられた場所から怯えが伝わってくる。大人が怖いのかと思い、カミナは彼なりに優しい声音で諭してやった。
「まあ落ち着け。取って食いやしねぇ」
仔猫はつぶらな瞳でカミナを見上げ、すぐさま下を向く。尻尾は丸め込まれて、やはりどうも恐怖はぬぐえないようだった。
さても、このような小さな猫が一匹でいるのはおかしいと、そこでやっとカミナは思い至る。本来なら母猫が厳重に守っている年頃だ。
「お前、お袋はどうした」
ざっくばらんにカミナは尋ねる。遠回りが苦手な性格だった。お陰で仔猫は全身の毛を逆立てて硬直する羽目になる。仕方なし、落ち着かせようとカミナは仔猫の毛並みを舐める。毛羽立った全身をどうにか寝かせた頃にようやっと仔猫がか細い声を出した。
「クルマ」
その一言だけでもう耐えられなくなった仔猫は、今度は自分からカミナにくっついてくる。ヒトの乗り物が時に同族を殺すことを知っているカミナは、それだけでだいたいのところを察した。母猫は、運が悪かったのだ。
「安心しろ」
言いながら額を舐めてやる。仔猫は身を固くした。そうそう母猫のようにはいかないらしい。けれどもカミナはこの家を守る雄猫として、仔猫を守ってやらねばならぬと決意していた。
「俺がお前の兄貴になってやる。なあ」
……名前を呼ぼうとして、未だ訊いてもいないことにカミナは思い至る。目をしぱしぱさせた仔猫は、疲労の末に眠りに落ちながらちんまりと名乗った。
新たな同居猫の名を、シモンと言う。
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