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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.11.24,Sun
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.08.24,Sun
鬼畜兄貴を書こうとして失敗した代物です。
ホンマカミナのシモン厨ぶりは天地に響き渡るで。






もともと白目に比すれば小さな瞳がゆるゆる窄まる。限界ギリギリまで引き絞られた視線は一点を見上げたまま固まった。小さく開いた唇が言葉もないままに戦慄き、青ざめるのに合わせて顔から血の気が引いていく。
青いジャケットの代わりに白い包帯で覆われた肩が小刻みに揺れ、次第にそれは瘧じみた振れ幅になった。剥き出しの左腕に射し込まれた管ごと輸血パックを吊す台にまで震えが及ぶ。
「あ、あに…」
もたつく舌が遂に操った言葉も最後に至る前に語尾が霧散した。代わりとでも言うように縮んだままの瞳が縋るように相手を見つめる。
だが絡んだ視線の先、長い睫毛に縁取られた紅い目は邪険に眦を歪めた。それだけで肩を跳ね上げたシモンの頭上に言葉が吐き捨てられる。
「だから、お前はもう用済みだっつってんだ」
聞き間違いだと思いたかった台詞を同じように繰り返されて限界まで見開いていた筈の目が更に広がった。刺青を隠すように覆う朱いマントの肩がそびやかされ、追い打ちじみた言葉が掛かる。
「穴も掘れやしねえ奴に居座られちゃたまんねえんだよ」
言われ、指さされたシモンの右腕は三角巾で吊されていた。そこだけが他の部位の震えを裏切って微動だにしない。指先の誘導に従って己の腕を見つめたシモン自身にも既にそれが本当に自分の物なのか疑わしくなっていた。肘から先は鉛のように重い。親指をほんの少し曲げようとするのにさえ息を呑むほどの集中を必要として、しかも結局動かなかった。
ダイガンザンを獣人から奪おうという戦いの最中、シモンの乗るラガンは背後からの一撃で粉砕された。幸い戦いそのものには勝利したが引き換えにラガンは大破し、シモンもまた重体となった。7日生死の境を彷徨い、意識を取り戻しはしたものの彼に残されたのは思うようにならない傷だらけの身体、そして得たのは動かない右腕だった。
最早シモンの手はドリルを握ることもままならない。ガンメンの操縦桿を手にすることなど夢のまた夢だ。
心臓は早鐘のように波打っていたが氷のように冷え切っている。そのくせ乾いた肌の上を汗が伝った。
「とっとと荷物まとめてここから出てくんだな」
それでも必死に利き手を動かそうとするシモンの努力を無視してカミナはマントを翻す。留めようと藻掻いても腕を伸ばすことさえ出来なかった。
「待って、兄貴!!」
それまで固まっていた喉が裂ける程の悲鳴がカミナを呼び止める。返された踵が動きを止め、一瞬シモンは期待を抱いた。もう一度呼べばいつものように笑顔を見せ、明るい声で自分の名を口にしてくれるのではないかと。確かに顔さえ見えなければカミナはいつも通りのカミナだった。
だがカミナは振り返らず大袈裟に肩を竦める。
「兄貴なんて呼ぶな」
どことなく投げやりな、張りのない声。
それを与えたきり雪駄はもう一度前へ踏み出した。これ以上はない拒絶を受けて息を呑んだシモンは遠ざかる髑髏模様を追いかけて身を乗り出す。しかし戦いで大量の血を失い傷も癒えない身体は思うようには動かなかった。重りにしかならない右腕に引き摺られて怪我人は輸血台を巻込み床に転落する。強か打ちつけた身体を左手のみで支えることは難しく、芋虫のように身体をのたくらせながら唯一自由になる声帯が叫んだ。
「兄貴!」
金切り声を聴くはずの相手ももう部屋の中にはいない。寝台から落ちる間にカミナが姿を消したことすら認識出来ないかのように、シモンは繰り返し叫んだ。
「兄貴、兄貴、兄貴兄貴兄貴…」
肘と膝で床の上を這いながら連呼する声は次第に呪詛めいて上擦る。閉じることも忘れた目から今更涙がぼろりと落ちた。




乱暴に腰を降ろしたカミナは声を掛けられてからそこにヨーコが居たことに気付いた。ぐしゃぐしゃと空色の髪を掻き混ぜ息を吐く、珍しく疲れた様子のカミナに向けられた金色の眼は険しい。
「カミナ。あんた、あれで良かったの」
いつだか、あれは地上に出てきたばかりの頃にもこうしてヨーコに睨まれたことはあった。あの時は絶対の自信を持って答えられたが今回ばかりはそうもいかない。
これまでの人生で最大の溜息は胃の腑を吐き出すような深さになった。
「…しゃあねえだろ。他にやりようがねえんだからよ」
答えは独り言に近くなる。悄然と肩を落としたカミナはヨーコではなく自分に言い聞かせた。仕方がない。
「怪我したまんま連れてきゃあ、今度こそ命落っことしちまうかもしれねんだ」
諦めはカミナが最も嫌う結論だ。しかしこの先シモンを連れ回していいとはとても思えない。カミナの示した杜撰な作戦に従って弟分は危うく命を失いかけた。挙げ句一番の特技に必要不可欠な片腕すらも使い物にならなくなったのだ。
計画の段階でおそらくシモンは自分の身の危険には気付いていただろう。それでも彼は文句も言わず指示に従った。おそらくこのまま側に置いておけば遠からず無理の利かない身体で無茶に従い、今度こそ取り返しのつかないことになる。
なによりカミナ自身、自分がシモンの兄貴分を名乗ることが許せなかった。
自分がやりたいようにやって、それで死ぬなら本望だ。誰にも文句は言わせない。
だが望むまま動いた結果死の淵に立ったのはシモンだった。今度その縁からあの小さな身体が滑り落ちない保証など何処にも無い。
「…村に返すしかねえだろ」
ダイガンザン、もといダイグレンに残せば戦いに巻込まれるのが目に見えていた。ガンメンも片腕ではまともに操縦出来ない。少なくとも地下の村にいれば獣人に襲われることだけは避けられるはずだ。
そうするしかないのだと拳を握ったカミナからヨーコは視線を逸らす。彼女はカミナが恐怖に心を折ったことを察した。
シモンは優しい。優しいから、きっとカミナを許すだろう。死にかけて、ボロボロになって、片腕を失って、それでも笑顔でカミナを兄貴と呼ぶだろう。
でもそれにカミナは耐えられない。死すら厭わず向けられる好意が怖くて恐ろしくて仕方がないのだ。だからいっそ憎まれていたいのだろう。安全な世界から引きずり出し、穴掘りすら奪った最悪の人間として。
太陽さえ掴むと言い切った男の、虚勢を失った気弱な背中をヨーコは見ないふりをした。



藻掻く力すら失ってどれほど経ったのか、倒れ込んだ床は体温も染みこまずに冷たいままだった。焼けつく喉が咳を求めても自由に出来なくなるほど体力を消耗しても落ちた場所から十数センチほどしか離れられていない。傷の痛みはあるはずだったが倦怠感がそれを凌駕していた。
涙の後が残る頬をタイルに押しつけ、シモンは茫洋とした瞳を瞬かせる。彼は白で埋め尽くされた室内を視界に収めず脳裏に広がる青い空を見つめていた。それは地べたにはいつくばるしかないシモンにとってあまりにも広く遠い。
危機感は、ずっとあった。
ヨーコと出会いリーロンを連れロシウ達を巻込みそして大勢の仲間が合流して、次第にカミナの中から自分の重要性が薄れていくという危機感が。
所詮自分が出来るのは穴掘りだけで、それも地上では大した意味を持たない。ガンメンに乗っても他にそれが出来る人間が傍にいれば自分の腕前では並び立つことなど不可能だ。
増してヨーコがカミナの隣に立ってしまった今となれば自分の居場所はいつ失われてもおかしくない。
役立たずとして切り捨てられるかもしれないという焦りが死を賭す役割でも請け負わせた。望まれることなら何でもやろうと思った、その矢先に。
「…」
どれだけ待っても右腕は動かないままだった。その虚ろに欠けた感覚が少しずつシモンの心を侵食していく。
右腕は動かない。穴は掘れない。ガンメンも動かない。
あの空色に手は届かない。
思い知るのと笑い声が漏れるのは同時だった。最初は息切れに近かった音の連なりが部屋の静寂を塗り替えていく。ごろりと身体を転がして床に大の字になってシモンは笑い続けた。慣れない天井を見透かして灰色の眼は宙を見上げる。
あの空色が手に入らないのなら、いっそ。
「…壊してやる」
そうだ、そもそも穴を開けて壊してしまうのは得意だったじゃないか。
笑いと共に気分が昂揚した。こんなに楽しいのは久し振り、いや初めてのように感じる。シモンは満足するまで声を上げ続けた。




様子を見にロシウが病室を尋ねた時、既にそこはもぬけの殻だった。

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