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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.04.29,Mon
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.07.03,Thu

視点が移るので分割しておきました。「さすが、だいぐれんだん」直後です。
ああそういえばニアの所属が食堂から救護室に変えてあるんですが、つまるところ公式の小説版の方で料理ネタはばっちり描かれていますし、それを下手な描写で繰り返すよりは出番を増やす方向性で調整したということであります。
折角女の子なんだから素敵合体グレン・La・ガーン☆みたいなことやりゃあいいのに何やってんだバカ、って自分で思います。







あのヨーコがベッドに縛り付けられたと聞いて、救護室は大賑わいだった。バカ笑いの筆頭ときたらカミナで、見舞いだかからかいだか解らないヤジにヨーコは膨れ、笑う。仲間達のあまりの盛り上がりにニアは窘めを口にしたものの彼女すら笑っていた。
無事だからこその、薄皮一枚下に安堵を閉じこめた笑い。
それを分厚い布で出来た衝立の向こう側で聞きながらロシウはひっそりと息を吐いた。
正しく成長したが故に課せられた痛みは我慢できない程度ではなく、ただ身体をやけに重く感じさせる。こんな錘をつけて生きてきていたのかと僅かに苦笑して彼女はゆっくりと身体を起こした。腹も関節も痛いが動けない程ではない。
さっきまでくっついていたギミーとダリーは看病疲れか単に飽きたのか隣のベッドでぐっすり寝こけていた。シモンに子守を命じられて傍についていてくれたブータにも毛布を引き上げ、いつものように寝姿を整えてやりひっそりとロシウは救護室から抜け出す。ヨーコとカミナを中心にして盛り上がる人々の視線から逃れる為にお誂え向きの裏口から彼女は身を滑り出した。鈍痛を伝える腹を手で撫でて温めながら廊下へ足を踏み出す。
あの人だかりの中にロシウが探した声は無かった。それも当然か、と黒髪の少女は普段よりゆっくりとした足取りで廊下を進む。救護室の主役は夕焼け色の髪の少女と同じ色の瞳をした青年だ。あの輪の中に藍色の髪と灰色の瞳をした少女が居ないのは当然だろうとロシウは思う。ゆっくり丁寧に塞いだ傷跡も、きっとまだ無遠慮に触れれば簡単に血を溢れ出すのに違いなかった。
身体が負う慣れない感触に少しふらつくだけで、ロシウの足は迷わず目的地を目指す。途中すれ違った顔見知りに大丈夫かと問われ、それにはいと頷きながら彼女はガンメンの格納庫までを歩き通した。
夕方にガンメンとの戦いが終わってからがこの場が賑わう真骨頂だ。レイテに指揮されながら忙しく立ち働く人々の合間を縫ってロシウは赤いガンメンを探す。果たしてその小さな、特異なガンメンは定位置に収まっていた。壁に沿うようにして近づけば縁から藍色の髪が覗く。
「ここにいたんですね」
当然のこととして受け止めながら告げた言葉に、灰色の瞳がロシウを映した。座席にずり落ちるような体勢を正し、背中を真っ直ぐに戻したシモンはどことなく疲れた顔で緩く頬から力を抜く。
「もう、いいのか」
ロシウの黒髪から爪先までを見下ろし、それから視線を交えたシモンが真剣な声で問うた。頷き、ロシウは安心させるために穏やかに応じる。
「はい。まだちょっと節々が痛いですけど…薬もいただきましたから」
勘ぐらせないために細かく伝えるとシモンはそうか、と首肯した。壁により掛かったロシウより少し高い位置になる目線がこちらを向くのを捉えつつ生真面目な少女は心からの思いを口に乗せる。
「ご無事で良かったです」
ヨーコが運び込まれるのと同時にシモンの如何は聴いていたが、直接眼で確かめるのとでは実感が違った。籠められた親愛につぶらな双眸が丸まり、それからふっと視界からロシウを外す。片膝を抱き顎を載せたシモンはしばらく口元と視線を惑わせて小さく有り難うと呟いた。
砂塵に染まったズボンが左右に揺れて、ラガンの席を分けるかを迷う。だが結局シモンは昇ればロシウの間接が痛むことに気づいてやめた。その代わり物静かな少女の側に寄ってラガンの壁に身体を凭せ掛ける。ちらりと惑った眸はそのままロシウの黒い瞳に吸い込まれ、観念したように定まった。膝を抱く腕に力を込めてシモンは囁く。
「…兄貴にも、言われたんだ」
口を挟む様子のないロシウに辛うじて届く声が重なった。
「無事で何よりだって」
兄貴は笑っていたよ、と何故か辛そうに藍色の眉が寄る。乾きすぎて泪を湛えそうになる目尻を撫でてやりたくて出来ないままロシウは傷跡の残る手を握りしめた。
「…どこかで、兄貴が怒るんじゃないかなって思ってた」
喉は震え、つっかえつっかえに音を吐き出す。胸に溜まった汚泥を零す辛さでシモンは訴えた。
「ヨーコに怪我させたことより、“兄貴の恋人”を傷つけたことに怯えてた…」
がたがたと腕が震える。膝を抱き込み、額を押しつけられた腕は縋るように手指で逆腕に結びつけられた赤い布を掴む。ぎちっと布が音を立てるような爪の有様にロシウは自分の心臓が握られたような感触を覚えた。
「嫌われるんじゃないかって怖かった。
 隣が開くのかも知れないなんて考えた自分が気持ち悪かった」
誰に、誰の。
言葉になどしなくても伝わってしまうその想いにロシウは瞼を伏せる。それから彼女は痕の残る掌を、赤い布の切れ端に齧り付く手の甲へと重ねた。他人の体温に怯えてシモンが大きく震える。それでも放さないでいれば頭が上がり、深く傷ついた灰の諸目がロシウを見た。わなわなと口元を歪ませシモンは遂に血と等価の台詞を吐き出す。
「…俺、カミナのこと、好きだ」
血肉のように染みこんだその現実を恐る恐る言詞へと組み立てた途端、彼女が何重にも張り巡らせた殻が剥がれ落ちた。ぼろりぼろりと透明な雫を落とし、それはシモンの手にもロシウの手にも赤い布にも転がっていく。
声と泪と感情の、静かな奔流を受け止めてロシウはゆっくりと頷いた。
「知っていました」
良く働き勇ましく戦う手を柔らかく撫で、懺悔に似た言葉をロシウは受け止める。罪悪であるかのように告げた台詞を優しく許されたシモンは、嬉しいのか悲しいのか解らない顔をしてもう一度だけ喉を振るわせた。
「そっか」
彼女は何故か笑おうとして、そしてやはり失敗してしまう。ロシウはシモンの頬が乾くまで自分の痛みも忘れて寄り添っていた。
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