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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.03.13,Thu

量子分解されたロージェノム氏が向かった先の話。
微妙にグレン文章にあるno titleと死後解釈が共通してますな。
未練がある相手のことをあの世で待ってて迎えたら成仏、というか。
最初のネタは姫捨て谷の姫様方にロージェノムパパンが超糾弾されまくる話だったのに何故こんなことに。







箱があった。
見覚えのある箱だった。
赤い布地を張った内側を晒して蓋を開いたそれは、そうだ棺桶だったのだ。
空の棺の縁を撫で、ロージェノムは周囲を見渡す。
どこまでも岩肌の続く地面と岸壁の上に灰色の空が横たわっていた。
風さえ吹かず停滞した空気、湿度を孕んで重くなったそれを吸い込もうとして最早それが自分には必要無いものだということに思い至る。
今となっては呼吸はこの身にとって意味を持たなくなっていた。
そも、体さえも事ここに至っては役を保たない。
さてはこの箱は自分のためのものかと考え、それにしては小さいと口端を上げた。
それに応じるように箱が閉じる。
空のまま蓋を下ろした手には見覚えがあった。
「…お久しゅう。ロージェノム」
吐息混じりの細い声が耳に馴染む。
息をするより簡単に声が出た。
「ああ、…久しいな」
言いながら上げた視線の先で、よく知る姿が先ほどの自分と同じ様に周囲を見渡している。
どことなく幼さを残した仕草で肩を竦め左右で色の違う双眸がロージェノムを映した。
「あんたが最初に思い出す世界がこんなもんだと知って、ちょっと、けっこう、ぶっちゃけかなり、ガッカリです」
拗ねた声音で言いながら痩せた指は柩を離れる。
此処にお前を埋めたのだ。おそらくは相手が知っているだろう記憶を告げる前に指先はロージェノムの目元に触れた。
「もっと、美しいものも見たでしょう」
螺旋の力に侵された片目を煌めかせ、彼は渋い顔で曇天を見上げる。
「そうだったか」
「そうですよ」
己らしからぬ惚けた言葉と喉を鳴らす笑いを間髪入れずに責め、古い馴染みはもう一度荒れた谷を眺めた。
ロージェノムと比すれば子供にすら見えるような横顔に掛かる髪が風に揺れる。
「例えば世界が残酷で、醜くて、救いようが無くて優しくなくてなにもかもこの掌から零れ落ちてしまうとしたって」
空気に溶ける呟きは至極残念そうに響いた。
言い訳、は、山程抱えていたような気がする。言いたいことであれば更にその上を行く。
だがロージェノムは自分が今やいつかの草原に立っていることを理解した瞬間、それら全てを言う意味を失った。
考えてみれば言わずとも伝わる仲だ。
どうやら相手の囁きが途絶えたのも、同じことを考えたかららしい。
抜けるように青い空を見上げ、穏やかに吹く風を受け、眩しい日差しに眼を細めた彼は乱暴に自分の髪を掻いた。
「あー違う違うっ!!」
やはり幼く地団駄を踏み、恨みがましい眼がロージェノムを見上げた。
小柄な青年は巨躯の相棒に指を突きつけて捲し立てる。
「もう、俺あんたを殴りに来たんですよ!
 大体わざわざ俺が死んでやったのに負けるとかどれだけ情けないんですかあんたは!
 それでしょぼくれたジジイにでもなってくれれば可愛気もあったのに相変わらず筋肉達磨だし!元気そうだし!バカだし!どうしようもねえし!」
一等怒った時のいつもの調子でがなり立て、怒鳴っているつもりのくせにどうにもむくれた拙さで、勢いに疲れたのか一度息を継いでまだ喚く。
「それになんですかあの墓場!
 景色悪いしいつもなんか天気悪いし空気滞ってるしもっと良い場所あったでしょ、あと墓参りしろよ何のための墓だよ!」
他にも言うべきことはあったのだろう。
だが、結局全て一言の元にまとまった。
「あんた本当にバカだな!」
ぜいはあ肩を上下させ、他にないかと指折り数える仕草も見覚えがある。
他人を叱ることに相変わらず慣れない様を見下ろし、ロージェノムは鼻で笑った。
途端つり上がった瞳がこちらを睨むが恐るるに足りない。
むしろ更に笑いを誘う姿に口元をつり上げ、広い掌は久々に相棒の頭に触れた。
「そのバカを、千年待ったか」
「待ちましたよ!」
ぐしゃりと撫でる手の下で文句が上がる。それが涙混じりになっていることを無視してやるくらいの気遣いは、千年待たせた代わりに与えてやった。
「お前もバカだな」
「バカですよ!」
鼻を啜り、ロージェノムの指から逃れた青年は突きつけていた腕で自分の顔を拭う。
堪えきれずにげらげら笑い出した男の脛が蹴りつけられた。細い足の痛くもない攻撃に余計笑いが強くなる。
両違いの眼と唇、赤く染まった相貌は暫くぶすっとしていたがやがて諦めていつも通りに肩を竦めた。その細い肩を叩いて促す。
「ならば行くか」
「はい」
待たせた挙げ句の言葉にも小さく頷いた半身を連れ、ロージェノムは最期の旅路へと足を踏み出した。
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