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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.04.20,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2007.09.29,Sat
爆発的に人口が増えたり技術が進化したりと、シモン達が作り上げた世界はある種奇形の文化を持つという感触が拭えなくてそれが発散された文。
カミナの絵本ってネタからこんなこと考える自分の脳みそをちょっと洗濯したい気分です。






到達点はわからなくなっていた。
まるで、ジーハ村拡張横穴掘りのように。
あの頃より見境なくそして容易に街は広がっていく。
地面から遙か彼方の床の上に立ち、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ思った。
地上にできたシミのようだ、と。
その刹那だけで二度と忘れられない印象が刻み込まれた。
村ならまだよかった。広げる穴にだけは責任を持てた。
だが刻一刻と街は広がる、知らない間に。工期を知っていても実態を掴めない。
際限なく成長し続ける生き物のように街は膨張した。
日々運び込まれる案件は増え、その内容は取り留めも無くなり、采配よりも前に名を書きつづらねばならなくなって。
手に負えない都市、その中心でありながら断片しか与えられない椅子の上で自分は何をしてきたのだろう。
全てが手の平から零れ落ちた、だが自分はいつ、なにを掬い上げていた?
考えれば解らなくなった。
隣にいた人間の心すら、本当には受け取っていなかったのだ。
からっぽだ。
かつて行って見せようと誓った月すら今はこの星を焼き尽くすための兵器でしかない。
そもそも地上の開放という目的ですら本来は借り物で、自分がしてきた戦いは両親や兄貴分の仇討ちと紙一重だった。
英雄ではないと人が言うのも、真実だ。彼等が真実に気付くのが遅すぎただけで。
口許が歪む。次いで、どうしてか笑いが零れた。
引きつれたそれは自嘲だったが、壁一枚向こうの相手には意味が伝わらなかったらしい。
「なにがおかしい」
少しばかりの不機嫌な声が天上に近い位置に作られた空気流動の為の格子穴から振ってきた。隔てるものの覆い音は少し許りくぐもっている。
鋭さを纏う声を聴くのももう何度目か、だがなんとなく懐かしいものでもあった。
本来、その声と対峙する役割すら自分のものではなかったはずだが。
笑いを殺して瞼を落とせば眼裏に赤の色が広がる。
それが慕った人の衣服や瞳の色なのか、それとも焼かれた街の火なのかも判別がつかなかった。
「お前、本とか読むか?」
尋ねる言葉は無音になった牢獄で反響する。自分の声を自分で聴いてまた笑いが湧き出そうになったが、それは不機嫌な声で閉ざされた。
「…なんだ。藪から棒に」
怪訝な声に続きを促される。誰の視線もない場所でいっそ柔らかな笑みを浮かべたシモンは、記憶の中にある場面を反芻した。あの時はニアも一緒だった。広告に驚く自分を尻目に駆け寄ったニアが手に取り表紙を見せてくれて。
「絵本出てんだ。兄貴ってか、兄貴をモデルにしたちびっこが主役の」
感想は訊くまでもなく解っていた。だから言われる前に先回りする。
「…下らねえだろ?」
予想通りの舌打ちに、シモンの喉が今度は質の違う笑い声を上げた。苛立たしさを示した歯軋りが届く。
「一番礼儀もクソ喰らえ、負行不屈の鬼リーダー様がザマァねえ」
息を整え、灰色の眼が辛うじて覗ける外の景色を眺めた。見えるのはただひたすら続く夜空、そしてそこに浮かぶ月。月影は段々と広がっていた。
次第に空を覆い尽くすであろう青白い光を見つめる。あれは滅亡の輝きだ。今や自分にあの光をどうこうするための力はない。
「しかし民衆が求める英雄ってなあ今やそれなのさ。名前だけ独り歩きしてホラ坊やカミナはちゃんとお約束を守れてるんだからあなたもそうして立派な人になりなさいってなもんよ」
虚像。そう、虚像だ。人々は自分が求める英雄の虚像に縋り、シモンはもうそれに見合うだけの存在ではいられなくなった。
「俺も兄貴もおんなじさ。生き死に関係ありゃしねえ。都合のいいことくっちゃべって耳障りの良い言葉でおだてて…つまり偶像、アイドル様って訳だ」
元より自分にも全てを背負い、何もかもを抱え、守り続ける力などありはしない。
地震から庇う腕の次に残されたガンメンの内に守られ、そして名を冠した都市の中でかくまわれる。そういう、無力な人間なのだから。
「つまりはなあ、もうシモンって男は誰も必要ねえんだよ。外ッ面さえありゃぁいい。中身はむしろ邪魔なのさ」
穴掘りシモン。
蔑む名であったそれが懐かしい。少なくともあれは自分の本質を掴んだ上でつけられた名だった。
「俺ですら、俺ってもんがなんなのか忘れっちまってたんだ…当たり前だ、な…」
与えられた名と姿の下、本来は薄皮一枚でしかないその被り物が徐々に自分をがんじがらめにしていく。自覚していなかった訳ではない。ただ、直視するのが辛かっただけで。
何をなすべきか。
幼い頃は確実に見えていたものだった。少なくとも、自分がしていることは解っていた。
気付けば遠くへ来てしまったものだ。息を吐き、シモンは月の光に灼かれた双眸を庇って瞬きする。かつて同じように陽の光の眩しさに負けた頃もあった。肩を並べたロシウと共に、肌や眼の痛みに耐えたものだったが、そんなことなどついぞ忘れていたような気がする。
二人笑い合う日など今や二度とは訪れないものなのだろう。
ロシウは、自らを虚像と化して耐えられるのだろうか。
少なくともその覚悟はあるのだろう。裁判直後のグレンラガン出撃時にも彼はその役割を果たして見せた。
ならば果たすかもしれない。常に役割に忠実で、そして誠実な男だから。いつかは彼もまたその重みに侵食されていくのかも知れないが、その姿すらもうこの目が映すことはないのだ。
手で眼を覆うと、自然泣き伏すような形になった。それでも涙は出ない。嘆くべき時はもう過ぎてしまっていた。
冷たい牢獄の中、体温の下がった身体を抱きしめてくれる腕はもうない。心配そうに尋ねてくれる声も、柔らかな笑みも、もう。
隣から漏れ聞こえる獣人の唸り声がやけに遠かった。
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