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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2007.09.29,Sat

シモンとニアがお互いに思うところ、を想像して書いてみたもの。
この二人はなんかこうとらえどころが無いというか非常に難しい人物像だなあと思う。







宴から一人抜け出したシモンを追って、ニアも中座した。
足音も立てずに抜け出したシモンがそうだったように、浴びるように酒を飲んでいる仲間達の殆どはニアがそっと席を外したことに気付かない。ただ傍にいた誰かが何処に行くのと尋ね、その彼もニアがちょっとそこまでと言うだけでなにかに納得したようにそれ以上引き留めはしなかった。シモンとニアが居なくても、大グレン団の仲間達は大きな声を、笑いを上げて酒盛りを続けている。誰も皆上機嫌で、楽しそうだ。
底抜けに明るいこの温度をニアは好んでいる。けれど、シモンの周りを取り囲む静かな空気もまた彼女が好むものの一つだった。
皆が囲むたき火から離れたシモンがダイグレンの中へ引っ込んだところまではニアも見ている。既に彼の姿も影も見えなくなってはいたが、ニアはさほど困らなかった。確かにダイグレンは大きな艦だがそうはいっても限りがある。どこまでもどこまでも続くこの大地の中からたった一人を捜そうと思うよりは簡単だ。
灯りの落とされた廊下を進みながらギミーやダリーと遊んだ追いかけっこやかくれんぼに少し似ているかしらとニアは笑みを零す。彼女の小さな足は、まるで行き先を知っているかのように軽快に歩を重ねた。
果たして彼女の瞳は、目的の人物を発見する。
ラガンの傍にいるだろうかという考えこそ外れてしまったものの格納庫から甲板に繋がる扉が開いていた。そこから外を覗いてニアは笑みを浮かべる。
シモンは広い広い甲板に、一人で寝っ転がっていた。
眠っているのかしら。
今日は色々なことがあったから、シモンも疲れているだろう。だとすれば起こすのは悪い。
そう思い、ニアは殊更足音を抑えて甲板に出た。だが彼女の軽い体重ですら床に身体を預けているシモンには伝わってしまったらしい。そもそも寝てもいなかったのか、のそりと身体を起こしたシモンがニアを振り返った。
「ニア」
はにかんだ笑みを浮かべるシモンが空と同じ色の髪を掻く。仕草の間に隣に立ったニアは、小首を傾げて夜闇の元にあってすら煌めく髪を揺らした。
「隣に座ってもいい?」
問われ、どんぐり眼が瞬きを繰り返す。答えを待つニアにシモンは曖昧に頷いた。どうしてそんなことを尋ねるのかが解らない、とでも言いたげな彼の隣にそれこそシモンの反応の意味を理解していないニアが寄り添う。
肩が触れ合う程の近さがシモンの背中を揺らしたものの、そうさせた少女は無邪気に過ぎる笑顔のまま彼に問いかけた。
「シモン、いつもこうしているの?」
もう一度、今度は目に見える程少年の身体が揺れる。だが、眼を丸くしたニアが見つめたシモンは柔らかな表情を浮かべていた。それが懐かしむ、という貌であることをニアは知らない。
不思議そうなニアの顔から逸れた視線が上向いた。吊られて華を包んだ瞳も夜空を見つめる。二対の眼がその先に白く輝く月を置いた。
銀粉を散らした天蓋の中、支配者だとでも言いたげな様を見せている。その眩しさに少しだけニアは眼を眇めた。シモンもまた、暫く眺めてから光源を厭うように俯く。
「…前、月を見てたのは兄貴だった。俺は一緒に見てただけだったよ」
幽かな囁きでも隣に座っていればそれで充分だった。
知らない人の話をするシモンの姿をニアの瞳が映し込む。同じものを見ながらも別のことを感じている横顔に、苦痛はなかった。ただどことなく困ったような顔でシモンは笑う。
ニアは、シモンが語る兄貴という人しか知らない。ヨーコが語るカミナという人しか知らない。仲間が語る、大グレン団の頭領だった人しか知らない。
カミナというその人そのもののことを、ニアは知ることが出来なかった。出会う前にその人は居なくなってしまっていたからだ。
だからニアはシモンと一緒に悲しんであげることは出来ないし、彼の心を共有することも出来ない。
けれどシモンは言っていた。みんな同じだったら気持ち悪いよ。
俺は俺だとシモンが言ったのと同じように、ニアはニアだ。
ニアはシモンの話を聴くことなら出来る。シモンの心を受け止めることならできる。同じことを感じられなくても、傍にいることが出来る。
「シモン、泣いてもいいのですよ」
だからニアはそっと頬を撫でた。撫でられたシモンがびっくりして見せて、それからすぐに笑顔になる。その笑顔はやはりどことなく困っているかのようだった。
彼自身言いたいことも言うべきこともまとまらないのか、薄く開いた口がまたすぐ閉じる。ニアも、敢えて聞き出そうとは思わなかった。
代わりに彼女の瞳はもう一度月を捕える。白く頼りない指が彼女自身の胸を押えた。痛みを逃すように息を吐き、ニアはシモンの代わりに自分の心を唇に載せる。
「お父様に捨てられたのだって解って…なんだか、胸が冷たくなったような気がした。これが、失くすということなのかしら」
隣で身を竦める気配がした。ニアの指は彼女の胸から離れ、甲板の上に所在なく投げ出されたシモンの手に重なる。シモンは逃げなかった。それを頼りにニアは真剣味を増した瞳でシモンの眼を覗き込む。
「…シモン、私、やっと少しだけシモンの気持ちが分かった気がするの」
灰色の双眸が応じてニアを映した。瞳の中の少女は頼りなく、そして自身の悲しみを隠さない。
「チミルフが死んだと聞いた時、私は本当にはその意味を理解出来ていなかったのだと思う」
自らの無知を羞じ、守られた世界で生きてきた少女は声を陰らせた。
「チミルフは…とても、真面目で優しい獣人だった。私のこともなにかと気にかけてくれていた」
そう。シモンが頷く。彼の大事な人から命を取り上げた相手のことをニアが慕わしく語っても、彼は感情を荒立てなかった。むしろ失った痛みに同調して、ニアの手を握り返す。
「もう、会えない。それが死なのね」
喪ったものに代わりを宛がわれる世界から脱却した少女は凛とした声で己に告げた。失ったものに代わりもなく、取り戻すことも出来ない厳しい世界。けれどそれが正しいのだ。
「死んだ人にはもうなにもしてあげられない。
 誰もが苦しくて、悲しい」
だからアディーネも怒ったのだろうと今なら解る。なにもしてあげられないのが辛いから、なにもしてあげられないようになってしまったことが悲しいから、それを大グレン団にぶつけたかったのだ。
でも、そうやって悲しみをぶつけあって永遠に痛みを繰り返し続けることが正しいとは思えなかった。それでは積み重なる死に囚われ続けてしまうことになる。
だったらどうすればいいのか。戦うことを止めたあと、心に残った傷をどうやって癒せばいいのか。答えが出ないままのニアに、シモンが応えた。
「あるよ、一つだけ」
惑い無く口にして、シモンは握る手に力を込める。ニアが見つめる先で彼は頷いて見せた。
「覚えていること」
強い声で断言し、しかし少年はすぐさま気弱さを取り戻す。眉を寄せてまた言葉に迷ってからつっかえながらの反駁がニアに与えられた。
「…ニアのは、また少し違う、気がする」
「そうなのですか?」
きょとりと聞き返す少女の前で少年は首を捻る。結局まとまらなかったのか、上手く言えないけどと言い置いてからシモンは真剣な声を綴った。
「…ニアの親父さんはまだ生きてるから」
一度息を飲み込み、溜息と同じ音で付け足される。生きてる人とは、まだ話が出来るから。
「…そうね」
頷き、ニアは瞳を閉じた。シモンの手から伝わる熱で幾分かニアの胸の中の冷たさが解ける。この氷が、いつかなくなる日が来るのかニアには判らなかった。それでもまだ彼女には時間と言葉が残されている。
「私、お父様と話がしたい。会って、間違っていると伝えたい。お父様が解ってくれるかは解らないけれど…」
決然と瞳を開いた少女は、両手でシモンの手を包んだ。それを自分の胸の前まで持ち上げてニアは頭を下げる。
「…シモン、お願い。私を都まで連れていって下さい」
少女の柔らかな手にも見つめる視線にも、シモンは怯えなかった。
一度だけ頷いてみせる。それで彼にも彼女にも充分だ。が、敢えてシモンは誓いを口にする。
「…行こう。テッペリンへ」
その先の月にすらも。
二人が見上げた夜空には、見失いようもなく丸い月が輝いていた。












余剰分(シモン側):

テッペリンに連れて行って欲しいとニアは言う。
そして父に告げたいのだと、語り合いたいのだとニアは言う。
その先に待つ決着は、おそらくシモン達が望むものとは少し形が違う。
なにより話が出来たとして言葉が通じるかは解らない。
螺旋王との再会がニアにとって良いことなのか悪いことなのかシモンには判らなかった。
既に親子の契りが途絶えた男を、ニアはまだお父様と呼ぶ。
ニアはきっと遠からず傷つくだろう。
それがニアにとってどれだけの痛手となるのかシモンには想像もつかない。
彼は、信じた人間に裏切られたことだけはなかった。
ニアがシモンの痛みを知らないように、シモンもまたニアの痛みを知らない。
それでも支え合うことならできるともう彼は知っていた。
「…行こう、テッペリンへ」
ニアが父との決着を果たすために。自分が兄貴との約束を果たすために。
二人の足が向かうべき先だけはとうに決まっているのだから。

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