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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.08.24,Sun

鬼畜兄貴失敗話の続き。最初からここまでネタとして考えてたんだけど結局上手く書けないままに…
無邪気だった自分をニアに重ね合わせて、カミナから引き剥がされた自分のようにニアを螺旋王から引き剥がそう大作戦だったんですよシモンさん的に。







現れた娘は、あまりにも無邪気に問いかけた。
「カミナっていったい誰ですか?」
騒然となるダイグレンの中で、一人おっとりと笑顔を浮かべた少女。戦艦という場所に全く持ってそぐわない彼女を取り巻く人垣の中から押し出されるようにしてカミナは少女の目の前に立った。
「俺がカミナだ」
単純な、しかしそうとしか答えようのない青年を見上げて少女はますます笑みを深める。
「まあ、あなたがカミナさんなのですね。
 ごきげんよう、私ニアです」
誰かが用意してやった椅子に行儀良く座ったニアの隣に控えた老人が、カミナへと茶を差し出した。彼にしては珍しく場の空気に飲まれてカミナはカップを手に取る。そうしながら赤い瞳は予断無く美しい少女の姿を見下ろしていた。
カミナの、ひいては大グレン団の名は地上に広く知れ渡り始めている。合流した戦力は今やカミナ一人では把握しきれない程だ。それを鑑みればこの少女がカミナに興味を持って此処へやって来たことも別段不思議ではないかもしれない。
けれど彼女はどうやってここまでやって来たのか、まるで夢幻のように忽然と姿を現した。繊細な作りの体で荒野を渡れるとも思えないが、送り迎えと言えば一人老人が付いてきただけ。
異様、と荒くれ者たちですら考えた。
獣人達との争いは活発化してきている。この少女もその一端なのかもしれないと、考えた者は何人もいた。カミナの傍に控えているリーロンやロシウ、ヨーコはその筆頭だろう。
けれどもふわりと微笑む少女が口にした言葉でカミナは疑念の全てを転げ落とした。
「シモンがいつも貴方のお話をしてくれました」
花を散らした瞳はカミナの人となりを逃すまいとするようにまっすぐ正面の青年を見つめる。そしてカミナは相手の邪気の無い言葉に、心臓が掴まれるような動揺を与えられた。
四天王チミルフとの戦いで片腕に大怪我を負ったシモンが行方をくらましてから、既に数ヶ月が経つ。何人かでジーハの村まで送ろうと計画を立てている最中の話だった。その足取りは杳として知れない。
出来る限りの四方を探し、自分の村に帰ったのだろうと誰もが合点した。そうでないとすれば、消えた少年は地上の何処かで野垂れ死んだことになる。
大事な弟分が父親と同じ死に方をしたというのではカミナに辛すぎると誰もが思ったのだった。長の道のりを一人で、しかも怪我人が本当に踏破出来るのかどうかはこの場合問題ではない。そうしたはずだ、と思いこむことが肝要だった。
しかしその脆く拙い妄想ではなく、確かな真実をニアの唇は零す。
村に帰り着けないまま、だが別の集落に回収されたのだろう。それはそれで朗報だった。ニアの身形はよく、従って豊かな村から来たのだろうということが知れる。そのニアが嫌悪無くシモンを語るなら、きっとあの少年も悪いようにはされていないだろう。
カミナの、そしてヨーコ達の心にどれだけの歓喜を与えたのかを知らないままニアはふわふわと言葉を綴った。
「シモンがいつも教えてくれるのです。
 空の色がどのように移り変わるのか、花がいかに咲き誇るのか、そして風が駆けめぐる大地というもののことを」
きょろきょろと艦内、そして人だかりを見渡しながらニアは興味深そうな顔をしている。どこか浮世離れして見えるのは、回りの騒がしさを意に介していないからだろうか。
「だから、私、見に来たのです。
 カミナという人のこと、それから空を、大地を、花を、風を、今まで見ることが叶わなかったものの全てを」
立ち上がるニアの手から老従者がカップを受け取った。拒絶される筈がないと信じ切った顔で少女は赤いマントの青年に告げる。
「私にそれらを見せてはいただけませんか?」
胸元で組んだ細い指、少しだけ首を傾げた仕草。悪意というものを欠片も持たない少女にカミナは大きく息を吐いた。頷いてやるべきだと素直に心が認める。しかし同時に、彼女が見たがっている物達が決して美しいだけのものではないことを既にカミナは知っていた。それをシモンは彼女に伝えはしなかったのだろう。まるで汚れを負うのはカミナの役目だとでも言うように。
それが応か否か、口を開いて尚迷っていたカミナはついぞ声を発することが出来なかった。足下が大きく揺れ、危うく体勢を保った彼は入れ墨に彩られた腕でニアを庇う。集まっていた仲間達がざわめく中、艦橋で待機していた連中の声が伝声管から響いた。
「敵襲!敵襲ー!」
途端それまでニアにかまけていた男達の表情が切り替わる。戦うことに慣れた者達は誰に言われるまでもなく配置へと走った。
同じように走り出そうとしたカミナは、まだ抱え込んだままだったニアに気づいて出足を挫かれる。床はまだ揺れ、小さな足はステップを踏むように戸惑っていた。その仕草に地下世界で何度も庇った弟分を思い出させられカミナの目尻が歪む。
「カミナ!」
その間を断ち切らせたのはヨーコの声だった。カミナの肩を引き、彼が向かうべきガンメンの格納庫へと誘う。心得たように老人がニアの傍へと寄り添った。
ガンメンへとひた走る間にも次々と情報が雪崩れ込んでくる。見たこともない新しいガンメン、それもカスタム型の上に巨躯を誇っているそうだ。ダイグレンの舳先に陣取られたお陰でバランスを取りづらいと誰かがぼやく声が耳に届く。砲撃、と叫ぶアーテンボローをガバルが止めているようだった。甲板に向けて集中砲火などすればダイグレンも無事では済まない。
だが現れたカスタムガンメンもまた、舳先に降り立ったまま何をするでもなくまるでダイグレンの面構えとにらみ合いをしているかのような有様だった。お陰様でグレンラガンを失ったカミナがビャコウに乗り込むまでの間に、ガンメン乗り達も準備を完了する。
仲間達を率いてカミナは遂に敵と相対した。
まるで太陽の光を吸い込むように真っ黒の、影のような形をしたカスタムガンメン。普通のガンメンより更に人間に近い形、有機的な意匠のそれをカミナとビャコウが睨み付けた瞬間だった。
弾けるような笑い声が青空に響く。しかしその声音は晴天を裏切ってどこまでも陰鬱に、まるで地を這うような音だった。
聞き覚えがある、と思ってしまった瞬間にカミナの背中を怖気が駆け上る。そして固まった大グレン団たちは、彼等の足下を小さな人影が走り抜けたことに気づかなかった。
「シモーン!」
柔らかく呼びながら片手を振り、ビャコウよりも前に立ったニアが黒いガンメンに向けて呼びかける。否定したかった現実に追い打ちを掛けられているカミナを知らず、ニアは楽しげに言葉を重ねた。
「シモン、私カミナという人に会いました!それから、大グレン団の方達にも…
 まだそんなに沢山お話はしていないけれど、皆さんとっても優しそう。
 地上というのは、良いところなのですね」
ふわりと巻き毛を揺らす風に気持ちよさそうな顔をしてニアは両手を広げる。従った白いマントもまた風を孕んで膨らんだ。
「ねえシモン」
働いたことなどないような、飾り物めいた白い指が影の形をしたガンメンに差し伸べられる。誘う仕草で微笑んだ少女は相手が自分と共に来てくれることを信じ切っていた。
「ここがあなたの居場所なのですね───」
花散る瞳はあまりにも透明に輝く。その美しさを踏みにじるものなど居るはずがないと狭い世界で育った娘は確信していた。
それが故に楽しげに、本当に愉しげにシモンは応える。
「ニア。君はもう要らないんだよ」
抑揚無く、だからこそ切り込む声音がニアの頭上に注いだ。
受け止めきれずに首を傾げた少女の腕がゆっくりと落ち、不思議そうに言葉を繰り返す。
「要らない…?」
因果も解らずオウム返すしかないニアへ彼女にとって唐突な音の奔流が連なった。
「可愛らしいお人形でいればお城の中でぬくぬくと暮らして行けたのに!
 自分の足で歩こうなんて考えなければよかったんだよ元お姫様」
美しい地上という世界の夢物語に、自分と同じように惹かれた娘を少年は嘲笑う。いとも簡単に甘き夢が孕む毒に犯されたニアを見下ろしてシモンは彼専用のガンメンの中で哄笑し続けた。
「一度失えば二度と手には入らない。…お前は棄てられたのさニア!」
螺旋王に拾われ、機械と半ば同化することによって新たな力を得たシモンは、今や肉体の一部となったガンメンの指先でニアの顎に触れる。呆然とした表情を見下ろしながら彼はニアが失ったものを胸の内で数え上げた。
最早彼女は安穏とした世界で守られている訳にはいかない。捨てられた姫として不幸に満ちた世界の中を自力で歩んでいくしかない。
そう、シモンがそうであったように。
美しい宝石を自らと同じ舞台に立たせたことに満足したシモンはニアからガンメンを離した。そして暗い視線は少女の向こう、並び立つガンメン達の先頭へと向かう。
「…」
なんと呼びかけようかこの期に及んで惑う自分を嘲りながらシモンは告げた。
「お前達は遊びすぎたよ、人間」
同じ人間でありながら、しかしどこか軸を外してしまった少年は宣言する。
「螺旋王はお前達を滅ぼすために残った四天王を全て投入することに決めた」
甲板にへたり込むニアを庇おうと駆け寄ったビャコウを見つめシモンは何故か愛おしそうに唇を蠢かせた。影色のガンメンの膝が撓み、後ろ向きに跳躍して甲板から姿を消す。
「つまらぬ遊戯の幕引きに、俺もやってくるよカミナ…その日を楽しみに待てば良い」
夢見るような声だけが、大グレン団の頭上で蟠っていた。
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