飯は喰いたし、眠気は強し。
そんな感じののらくら雑記帳。
Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.09.30,Tue
自分の好きなお母さん達を出したくてレイテさんとキヨウさん。
切れ端っぽい話ですが…
シモンに関して嫌な記述があります、済みません。
しめっぽいなあキヨウさんはおめでたなのに。
玄関ではなく大きく開かれたガレージにひょっこり顔を見せた客人に気づいてレイテは軍手から指を抜く。
「キヨウ!調子はどうだい?」
彼女は作業の手を止め馴染みの相手へ仕事場の端にある席を勧めた。勝手知ったるキヨウも膨れたお腹を大儀そうに抱えながら遠慮無く椅子に座った。
一息吐く妊婦の為に禁煙パイプも揉み消したレイテの目が柔らかく笑う。
「随分大きくなったねぇ」
ちょい、とつつかれたキヨウの腹はもう立派なものだ。
「臨月もすぐそこだもの。もう外に出たって一応大丈夫なんですって」
妊婦としては大先輩のレイテのところへキヨウが顔を出すのは珍しくなくなっている。初産ながらもキヨウが割合暢気に構えていられるのは、この先達のお陰も大きかった。なにより、技術力の驚異的な進歩によって新生児の死亡率は劇的に低下している。病院のサポートも万全、旦那も細々気の付く人ともなれば不安が無いのも通りだ。
「ゾッカくん、元気かなー?」
休憩所として設えられたテーブルの隣にあるベッドを覗き込み、キヨウはレイテの末っ子の頬を撫でる。日々巨大化する都市の産院施設がいかに充実しているかは彼が産まれた時に実証済みだ。
抱いても良いか目で尋ねられて頷いたレイテに従ってキヨウが練習のようにゾッカを腕に囲い上げる。
あやされ、機嫌良くなる息子を眺めてレイテは目を細めた。まだカミナシティなどという名前もない頃の記憶が呼び起こされる。
彼女が生んだ長男坊は大グレン団の仲間内では初めての赤ん坊で、それはそれは仲間達に構われて育った。
中でも一番構いたがり暇を見つけては甘えさせていたのはシモンだった。いつもは寡黙なところのあるあの娘がそんな風に喜ぶのが意外だったのもあってよく憶えている。そういえば一緒に来ていたロシウはギミーダリーの双子とニアに、子供の生まれ方を尋ねられて難渋していた。
懐かしさと共に胸を刺すものがあり、レイテは我が子の頭を撫でながらゆったりと声を出す。
「あたしがシュリ産んだ時にさ、シモンがバンバン次産めって言ってたんだよね」
母親に赤ん坊を戻し、やはり自分よりも安心してみせる小さな顔を見つめ和むキヨウにも覚えがあったのか、少しばかりふっくらした指が組まれた。
「…ああ!そうそう、シュリ君産まれた時にシモンったら随分喜んでたものね」
やはりあのはしゃぎ様を憶えていたのかキヨウも楽しそうに声を立てる。ちなみにその頃彼女自身はダヤッカを遂に捕まえた時分だった。戦勝処理に追われていたが、どこもかしこも活気に溢れた、あれも幸せな時代だったのだ。
「なーんか調子乗ってさ、三人も産んじまったよ。
お陰で騒がしいったら」
からりと笑って頬を掻いたレイテに、私も何人か産もうかしらと金髪の妊婦が気の早いことを言う。
その刹那二人の脳裏をある言葉が走ったが、敢えてキヨウの方は無視した。しかしレイテはまざまざと冷えた詞を思い出す。
…百万の猿がこの地に満ちた刻、月は地獄の使者となりて螺旋の星を滅ぼす。
それは呪いのようにこの世界に穿たれた予言。そして実質カミナシティを切り盛りするシモンとロシウが何よりも危惧したことだった。
しかしそれでも、シモンは至極嬉しそうにシュリを抱いて笑った。誰からも祝福された男の子を抱き上げ、頬ずりしながら次の子はまだなのと目を輝かせた。
百万を越しちまったらどうすんだい、とその時は冗談めいて尋ねたレイテに、シモンは真剣な目をして越しても大丈夫なようにしてみせる、と宣言した。
目蓋を伏せ、我が子を見下ろしながら優秀なメカニックはひっそりと息を吐く。
何故シモンがあんなに新生児を喜ぶのか、彼女はメカニックでありリーロンと共に救護班にも装置の整備で手を貸して居たが故に知っていた。
シモンは、子供が産めない。
未成熟な身体で戦い続け、無数の傷を負い、二度死にかけた。その時もう娘は得るはずだった力を失っていたのだ。シモンは己の未来の一つを潰してまで前に進むことを選び、そして今も誓いのままに立っている。
自分とキヨウが安心して子供を産み育てられるのもシモンの守護あってこそだ。
それだけに、自分よりも若い娘の双肩にこの三十万都市が支えられている現実がレイテの心を締め付ける。
母親の想いに同調したのかゾッカが眉を寄せ、長い付き合いからキヨウも息を吐いた。
「ロシウがね…キノンを帰せなくてすみません、なんて言うのよ」
大切な腹に手を当て、キヤルが居るから大丈夫なのにね、と黒の兄弟の長女は困った顔で笑う。
「男共が頼りないからねえ」
冗談めかして肩を竦めつつ、ちらりとレイテの視線がガレージの奥に走った。大きなシートを被せられたそれらは二人の娘に託された品だ。だが同時にそれらが使われる事態にならないことを祈らねばならないジレンマにパイプを噛もうとして、レイテは口寂しさに気づく。
政府を去った身で、二人の母親はだからこそ大切な仲間を案じていた。
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