飯は喰いたし、眠気は強し。
そんな感じののらくら雑記帳。
Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.04.06,Sun
ヨーコとかカミナの出番ぶっちぎってどうにかこうにか。
ちょっとシーンは短いですがキリの良さを考慮した結果こんな感じです。
心理描写上手くいかなくてぶん投げた気がする、ぶん投げ過ぎだバカ!
ちょっとシーンは短いですがキリの良さを考慮した結果こんな感じです。
心理描写上手くいかなくてぶん投げた気がする、ぶん投げ過ぎだバカ!
滑らかに開く扉の、それでも微か立つ音にロシウの黒髪が揺れる。
「ごきげんよう」
涼やかな声音に知れず眉を潜ませながら振り向いたロシウにきらきらした瞳を潜ませたニアが問いかけた。
「お見舞いに来ました!
シモンの具合はいかが?」
気遣わしげに言いながら、ニアはロシウが寄り添っている寝台の傍に近づく。
併せて黒い目も看病している相手の顔を見下ろした。
熱が引かないまま短い呼吸を繰り返しているシモンの額の上から温くなったタオルを取り、水桶に浸す。布地を絞りながら賢い少女は隣に立つ姫君の様子を伺った。相も変わらず悪意の欠片もなく、花を散らした双眸も染み一つない白い貌もただシモンを案じている。
この姿を見て、彼女に敵意を感じる者などいないだろう。
未だに相手を疑っている自分を知ってロシウは自嘲する。彼女は獣人の王たる男の娘と名乗った。確かに四天王も王女と呼び、そして意をくんで退きさえした。
…疑うのが道理だ、と思う。少なくとも信用していい筈がない。酷い目に遭わせないまでも軟禁なりして獣人との交渉の切り札に使うことは出来るはずだ。
が、大グレン団は、と言うよりカミナはその道を選ばなかった。
「大事なのは親兄弟じゃねえ。
そいつが心ん中に何抱えてて、何をするかだ」
少なくとも姫さんは俺たちのことを一度助けてくれた。だったら恩人だ。
そう言ったカミナの手前、誰もニアに手は出せなくなった。もともと男連中は彼女の愛らしさに骨抜きで、一応尋問すべきだと主張したキタンでさえ王女に調子を外されて大した話は聞き出せなかったらしい。らしい、と言うのはロシウはシモンの看病に当たっていたからだ。一度食事を運んできてくれたヨーコの又聞きでしかない。
「…まだ、熱が高いのですね」
気づけばたおやかな手が藍色の髪を掻き上げていた。慌てて制しようと肩を揺らしたロシウより早く髪と同じ色の睫毛が揺れる。
「シモンさん」
「シモン」
音程の違う少女達の声に応じるように灰色の眼がのろのろと瞬いた。半日以上目覚めなかったシモンの反応にロシウは息を吐く。
「大丈夫ですか。辛いところは」
手に取ったままだった濡れ布巾で汗を拭おうと伸ばした腕は空ぶった。驚くロシウと目を丸くしたニアを意に介さず、奥歯を噛んだシモンは上半身を起こす。
「…行かなきゃ」
吐息混じりに言いながら、倦怠感のまま眉間に皺を寄せた彼女は寝床から降りようと試みた。その無茶を許せる筈がない。
「駄目です!」
「いけません!」
二人の少女の声が重なって二対の手がシモンを寝台へ押し戻す。病人はされるがままに体を倒され、それでも重そうに腕を振ってロシウとニアを払おうとした。
「熱があるんです。それにここのところ無茶が続いていたんだし、ちゃんと休まないと」
窘めを口にしたロシウを限りなく黒に近い灰色の瞳が見上げる。その視線の鋭さに思わず一歩引きそうになった少女の腕を掴み炎症で掠れた声が訴えた。
「戦わなきゃ」
低く唱える言葉は呪詛に似ている。自分自身をがんじがらめにする言葉を吐き、痩せた体がもう一度布団から離れた。
「戦えなきゃ、俺はここにいられないんだ」
持ち上げられた背中は前のめりに丸まる。まるで重い荷物を背負わされているかのように。思わず肩を支えたロシウの耳に、血を吐くのと同じ痛みを載せた囁きが滑り込んだ。
「いる価値がないんだ」
思い詰めたシモンは骨張った手で掛け布団を握る。目端を飾る隈は黒々と彼女の目の中の闇を助長していた。
「そんなこと」
否定したロシウの声は掠れる。そんなことはない、シモンは充分よくやってきた。それは包み隠さないロシウの本心だったが、相手に伝わるか自信がなかった。自然小さくなった語尾をもう一人の少女が上書きする。
「だったら、ここに居なくても良いのです、シモン」
沼に囚われた二人の上に、ニアはあっけらかんとした声を落とす。当たり前のように宣言した彼女を二対の影色の眸が捉えた。半ば呆然としたシモンとロシウに笑顔を向けてニアは歌うように告げる。
「シモンは私を助けてくれました。戦う以外のことでもシモンができることは沢山あるではありませんか。
ここでは戦うことしか求められないのなら、シモンは別のところに行ってシモンの出来ることをすればよいのです」
胸の前で両手を組んで簡単に言ってのける言葉を聞いて、シモンは余計に俯いた。
「…っ、ニア…!」
ばさりと藍色の髪が揺れ、かぶりを振る彼女の顔色はぐんぐん青ざめていく。
「あなたはなにもわかっていない!」
見兼ねたロシウが声を跳ねさせた。何も知らない癖に。怒りすら抱いて立ち上がった彼女は、普段の聡明さすら押し隠して言い募る。
「あなたの言うことは正しいかもしれない、でもシモンさんはここにいたいんです!僕だっていて欲しいんです!」
勢いよく言い放った言葉の後に沈黙が残った。その無音に、シモンのことではなく己の希望を訴えたのだと気づいたロシウが肩を落とす。しかしニアは小首を傾げて煌めく瞳にシモンを移した。今や起こした体を二つに折ってまた寝床に逆戻りしている病人へ柔らかな声音が問いかける。
「シモン、何故ここにいたいのですか?」
のらくらと顔を上げ、シモンはすぐに目を逸らした。紙のように真っ白になった目蓋を閉じて彼女は呻く。
「それは…」
息を吐くついでの趣の言葉は、再度開いたドアで途切れた。
「こら!
病人の部屋でなにしてんの!」
叱ったヨーコも入るなり部屋の不穏な空気に気づいたらしい。眉を潜めて赤毛の娘は中に入ってきた。両手に運んできた盆をテーブルに下ろして腰に手を置く。
三人それぞれに視線を向け、応えたニアとロシウへ頷いてから目を閉じてこちらを見ないシモンにヨーコは寂しげに笑った。
「ロシウ、リーロンのこと手伝ってやってくれない?
なんか忙しそうで」
切り替える口調で言われ、でも看病がと主張しかけたロシウの袖をシモンが握る。
「俺も行く」
げほりと咳をしながらの台詞は誰一人として認めなかった。渋い顔のヨーコが言いつける。
「シモンはいいから休みなさい。無理しないの」
それには異論のないロシウがシモンの姿勢を寝やすいように戻した。逆らおうとするのをニアがヨーコさんの言うとおりですと同調してあやす。
「じゃあニア、シモンのことよろしく」
掛け布団から手を離した黒髪の少女を促したヨーコは、ロシウの代わりにニアをベッド隣の椅子に座らせた。はい、と屈託のない答えにロシウの反論は居場所を失う。
「シモンさん、ちゃんと休んでください」
代わりにそんな言葉を残し、外から人が来る時と同じく静かに開いた戸の向こうへ二人が消えた。見送って手を振ったニアはヨーコが残した食事の器を手に取る。それをシモンへ勧めようとして、彼女は思い出したのかまた花のような笑顔を浮かべた。
「ねえ、シモン」
楽しそうに呼ぶ声に、暗い瞳が応じる。それを見下ろしつつニアは一度途切れた会話の続きを口にした。
「シモンがここにいたくて、でも戦えないのなら、戦い以外にシモンが出来ることを探しましょう?」
私もここでのお仕事はありませんから。
思いも寄らない結論を突きつけられて狼狽えたシモンには気づかずにニアは言い足す。
「シモンの風邪が治るまでは、傍にいるのが私のお仕事ですね」
にこにこと食器を差し出した姫君に穴掘り師は息を吐いた。食べさせようとするのを止め、シモンは壁にもたれて体を立てる。まだ暖かい皿の中身はとろみのついたスープだった。
あまり空腹を感じないままスープを啜り、そういえばロシウは食事を摂ったのか案じた。自分が倒れる前のことを思い出すと頭痛がしたが、訊かないわけにも行かずどれだけ経ったのか訊くと一日と少しと答えが戻る。
「…そう」
億劫に相づちを打って、半分もいかずに満腹で手が止まった。見守るばかりの瞳に居心地が悪くなる。あまり喋るのが得意ではないシモンは戸惑いながらもう一つ問いかけた。
「…ニア、は。ここに来る前は…どこにいたの…」
村では必要なこと以外はほとんど口にしなかった。旅に出てからも聞き役が多い。増してここのところは親しくない人間が増えたせいで口も重くなっていた。上手く切り出せたか不安になったシモンに、しかしニアはあまりにも屈託無く答える。
「箱の中です」
正しくはあるが的を射てはいない言葉にシモンは頬を引きつらせた。正しく意味が伝わらなかったのは自分の所為なのかニアの所為なのか解らないまま、どうにか会話を繋ぐ。
「その、前は」
短い問いかけには答えも短かった。
「お父様のところに」
少しだけニアが遠い眼をしたことに気づいたシモンは慌てて話をずらす。
「どうして箱に」
谷にいくつもあった箱を思い出して失敗したかと思った疑問は、しかし細い首を傾げさせるばかりだった。
「何故でしょう…?」
要領を得ない回答にまた間が開く。熱の気怠さに負けそうになりつつも、吐息の合間にシモンは問いかけた。
「ニアの、お父さんは…どんな人」
質問に自分の父親を思い出そうとして失敗する。優しい人だった、気がするが思い出すには遠すぎた。辛うじて引っかかるのは雪崩落ちる岩から自分を庇ってくれた姿だけで余計頭痛が酷くなる。危うく器をぶちまけてベッドに倒れそうになったシモンを、ニアの声が引き留めた。
「いつも、遠くを見ている方です」
王女はシモンを見ながら彼女ではない相手を見つめゆっくり言葉を紡ぐ。
「…とおく…?」
塞がりかけた喉に声を通しオウム返した台詞は何故か別の男をシモンに思い起こさせた。関係の無い会話にさえ結びつけようとしているのかと自分が嫌になってきた娘に、同じ年頃の少女が欠片の悲しみを交えて語る。
「目の前に居ても、本当は…」
最後まで言わなかったのか、言えなかったのか。
緩く瞳を閉じてから笑顔を取り戻したニアはシモンから食器を受け取ってテーブルに戻した。
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