飯は喰いたし、眠気は強し。
そんな感じののらくら雑記帳。
Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2009.04.05,Sun
キヨウさんとレイテさんのお母さんコンビ好きなんですよね。
というわけで今回はキヨウさんとショタニキ。
長さ的にはオマケクラスですが話の流れ的にこっちに組み込んであります。
めのこでも似たようなネタやったじゃん!っていうツッコミ随時受付中です。
お日様の匂いを吸い込んだシーツとタオルの隙間から、向こうの道を歩いてくる子どもたちの姿が見えた。キヨウは片腕に掛けていた洗濯物を籠の中に入れて二人へ手を振る。
「おかえりなさーい!」
手を引かれていた金髪の女の子が、ぱっと顔を上げて笑った。年上の男の子の影に隠れるようにしていたくせにお母さんの姿が見えた途端に走り出す。
エプロンめがけて飛びついたアンネを抱き留めて、キヨウはのんびり追いかけてきた少年へ微笑んだ。
「カミナ、アンネを送ってきてくれたのね。ありがとう」
照れたのか、それともてらい無く甘えるアンネに何か思うところがあるのか、カミナはふいっと視線を外して頬を掻く。別に、と殊更無愛想に呟くのが子どもらしい可愛げだ。一児の母は娘だけでなく少年も玄関へと誘う。
「おやつあるから食べてらっしゃい。
あ、先にちゃんと手を洗ってね」
ドアの中へと押し込むと、声が聞こえたのかキヤルが顔を出した。洗い物を取り込む為に後はバトンタッチしてキヨウは庭へ戻る。
「おっかえりー!おやつ食おうぜ!」
いくつになっても少女めいた仕草で呼ぶキヤルに子どもたちが頷いた。踵を踏んづけて脱いだカミナの靴をアンネが丁寧に揃える。バツが悪かったのか、年上の少年が代わりにバッグを運んだ。
キヨウも残り幾つかの洋服も籠に入れ抱えて戻る。廊下で立ち止まっていたカミナと鉢合わせ、改めてこんにちはと声をかけると少年は一瞬目を丸くし、それからコクコクと首を縦に振る。どうやらキヨウが傍に来ていたことに気づかなかったようだった。
何故だろうかと首を傾げるキヨウを知らず、遅いとキヤルがカミナを急かす。
「今いく!」
ドタバタと、大人しいアンネが絶対に立てないような足音が居間へと消えていった。菓子の種類を賭けての言葉遊びを聞きながらキヨウは大荷物を抱え直す。そして、ようやっと彼女はカミナが何を見ていたのかに気づいた。
…棚の上の写真だ。
このご時世、仕舞うかどうか迷って結局譲れなかった一枚。テッペリンを落とした大グレン団が満面の笑みで映っているものだ。乗り手の居ないグレンラガンが広げている団旗を前に傷だらけの連中が笑っている。頬を腫らしたシモンもまた、ニアと並んで仲間に囲まれていた。彼が着ている上着はリーロンが手直しして今カミナのものになっている。
あの頃から地続きの今は、そのくせまるで違う世界のように思えた。荷物を降ろし写真立てに触れる。まんまと夫の隣をせしめている自分が懐かしかった。
追憶に飲まれかけるキヨウをガンフォンの音が呼び戻す。はいはい、と相手には聞こえない小声を呟きながら受信ボタンを押すとやはり写真に収まっているうちの一人の声が耳に飛び込んだ。
『ああ、キヨウ?悪いんだけどさ、アンネちゃんの鞄見てもらえないかね。
ゾッカの奴が体操着間違えて持ってきたみたいなんだよね』
昔と変わらないようでいて、そのくせまるきり母親の声音のレイテが軽い口調で謝る。ただ、どうやらしっかり叱られたらしきゾッカ少年のうめき声もこちらに届いた。今確かめておく、と応えたキヨウの方からもキヤルとカミナとアンネの声が拾われる。
『おっ、カミナ来てんの?』
「うん、アンネを送ってきてくれて。優しい子ね」
キヨウとダヤッカの一人娘は、誰もが苦い記憶として刻み込まれたあの日に生まれた子どもだ。アンチスパイラルの言う百万人のリミットを越えた瞬間に誕生したのかも知れない少女がイジメられていることはキヨウも知っている。それを、いつもカミナが庇ってくれることも。
『今日もまーた一戦やらかしたらしいね。
シオナがブーブーうるさいったら』
小気味よく笑うレイテの方は喧嘩上等の心構えらしい。上機嫌な笑顔が見えて、つられそうになったキヨウは逆に声を潜めた。
「…ねえ。お兄ちゃんが、ね…ガンメンの乗り方、あの子に教えてるみたいなの」
ぽつりと呟いた言葉は過たずレイテに届く。数瞬の間の後、落ち着いた答えが返った。
『…あぁ、知ってるよ』
知らずキヨウはエプロンの胸を握る。シモンの元からやってきた少年は、仲間たちからすれば我が子も同然の存在だ。その子が危険に自ら飛び込もうとするのを見過ごせるはずがない。
だが、同時にキヨウはレイテが知っていて己が知らない何かに意味があることを理解していた。カミナは野放図に育てられているわけではない。例え本人が否定しても、政府の手元で守られていることは事実なのだ。
「そう…」
深く追求する立場にないことを悟ったキヨウは、少しの世間話を交えてからガンフォンを切る。居間からは明るい騒ぎが響いて平和そのものの午後だった。
「一枚くらいケチケチすんなよ!尻の穴の小せえ奴だな!」
「うるせぇ!縦じゃなく横にデカくなるぞ!」
キヤルが精一杯伸ばした腕を追いかけてカミナが食ってかかる。どうやらキヨウお手製のクッキーの争奪戦が始まっているらしかった。流石に小さなアンネの取り分に手を出すつもりはないのか、もっぱらカミナとキヤルがやりあっている。
十三のカミナと対等に接する妹へ盛大な溜息をつきながらキヨウは居間へ足を踏み入れた。アンネが瞳で縋ってくる。それを手で制して、金髪のお母さんは戸棚を開いた。
「もう、仲良く食べなきゃダメでしょ?」
追加のクッキーに輝く顔に苦笑しながら皿へ菓子を足す。争うように伸びる手は、作った方にしてみれば冥利につきるというものだった。
「アンネ!遠慮してっとキヤルがブクブク太るだけだぞ!」
数枚確保したカミナがおろおろしているアンネの手に一枚押しつける。その優しさに感心すると同時に妹への呆れを覚えたキヨウは、ふと居間の本棚に目を止めた。一番下の段にはサイズの大きなアルバムが入れてある。一女を儲けてから格段に冊数は増えたがそれより古いものも勿論あった。
「…ねえ、カミナ?」
口元についた食べカスも摘んで口に放り込んでいたカミナが、呼ばれて赤い目を瞬かせる。飲み込むのを待ってキヨウは本棚を指さした。
「シモンの写真、いくつかあるわよ。見る?」
一瞬意味が受け止められなかったのか、カミナはぽかん、と空になった口を開ける。それから眉間に皺を寄せ、顎を引き、唇を噛んで、彼はわざとアルバムの方へ眼を向けなかった。キヤルとアンネも何事かとカミナに顔を向ける。
「要らね」
沈黙が気まずくなる直前、短く言い切ってカミナの手が新しいクッキーを掴んだ。乱暴に咀嚼する仕草がそれ以上の関与を拒む。出されていたジュースを勢いよく飲み干した彼は、空気を断ちきるように自分の鞄を手に取った。
「宿題あんだよなぁ、俺。
キヤルにはわかんねーようなやつ!」
「んなっ…ガキの宿題が解んねぇわけないだろ!?」
含み笑いを向けられたキヤルがいきり立つ。あ、わたしもだ、とアンネが続いて鞄を開いた。その中にある体操服を見分しなくてはならないことを思い出したキヨウは娘に注意を促す。
───シモンはあんな顔じゃ笑わなかったんだ。
小さく小さく囁かれた言葉が、本当にカミナの唇から零れたものだったのか確かめる術はキヨウにはなかった。
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