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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.04.20,Sat
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2000.10.15,Sun
童貞非処女が童貞に惚れている話(端的な説明)。ひたすらシモンがウダウダ。
冒頭のみちょろっとアレな描写が入るけど全体的な微妙さの前にはそんなのどうでもいい!になってるという有様。
書き手はリーロン大好きですよ。
ジェンダーを越えている=人の理を越えているということで性別不詳ってのは本当美味しい役回りだなあ。






試さなければ良かったかな。
でなければ早く出てしまうべきだったかも。
頭には後悔を浮かべながら結局やめようとしない自分自身が疎ましかった。
恐る恐る帯を解いた手は、躊躇するふりをして決して止まらない。
怒っているのも怯えているのも嫌がっているのも全て自分だ。なのに歯止めにならない。
動力の入っていないグレンの搭乗席は暗い。
常はカミナが陣取っている席に座り込み背を屈めて己の股間を晒したシモンは、そこで僅かの間だけ動きを止めた。
潜めた息づかいの合間に一緒に入り込んできたブータの鳴き声が混じる。
滑稽だ。
歯ぎしりしながらその感覚が遠い。まるで気を紛らわしたいのだと言わんばかりに、丸みを帯びた指が自身の性器を乱暴に握った。
指先が亀頭に触れ、既に湿り気を帯びた感触に不快感を露わにしたシモンは自分で自分の先端を抓って呻き声を上げた。
太股で丸くなったブータが不思議そうに主人の行為を眺めている。玩具のような黒眼鏡越しの視線に軽く興奮している自分に吐き気がした。
鈴口に爪を立てて押さえつける。脳天まで突き抜ける痛みを涙目で笑い余った指で裏筋を引っ掻いた。自虐的な刺激でも慣れた神経は簡単に快楽へと変換して性器の硬度が増す。
狭く密閉された空間に熱が籠った。段々間隔が短くなっていく自分の呼吸がやかましい。
これを自罰と呼ぶのなら痛い位で丁度良かった。
掻きむしるように自分を追い立て、目の裏で光が瞬く。追ってやってくる虚脱感と疲労に肩を落とし、シモンは自分に向けて吐き捨てた。
「バカみたい、だ」
と言うより正しく愚か者だろうか。己の所業に溜息を吐くものの既に終わった過去はどうすることもできない。
ぬるぬると汚れた手と股間を見下ろして自嘲が浮かんだ。こんなことをしたって、結局一人きりだと実感するばかりなのに。
「ブータ、これ舐める?」
傍にいた性で白濁にまみれた自毛を綺麗にしようと忙しなく毛繕いしているブタモグラの子供の鼻先に精液を被った指を指しだした。ブータは臭いを確かめた後、それがなんであるかも構わずに舌で舐め取り始める。人間の垢が主食という変わった食性を持つ動物にとってはそれが少年の子種であっても栄養となるなら気にしないようだった。理には適っている。
必要だから、そうしたのだと。この小さな生き物のように考えてしまえれば少しは楽になるだろうか。
人肌が恋しいから、せめて慕っている人の面影だけでもと考えたのだ、と?
「…いくらなんでも無茶苦茶だよ」
呟く声はくぐもってコクピット内で反響した。それがいっそう情けなさを助長させる。
ブータは一心不乱にシモンの手を舐め上げると最後の仕上げとばかりに股間を取り巻く残滓の片づけに取りかかった。その仕事ぶりをぼんやりと眺めながら、穴掘りしかなかった自分と獣の子の姿を重ね合わせる。やはり、そう違いが無いような気がした。
汚れを全て舐めきると、一仕事終えたブータは満足そうにシモンの肩によじ登る。そのままそこで眠る事にしたようだった。シモンもいつまでもグレンの搭乗席に籠っているわけにはいかない。寝床に戻らねばと重い腰を上げ、ガンメンの口を開かせる。
「コクピット、あんまり汚さないでよね?」
外へ一歩足を踏み出した途端、声を掛けられて肝が冷えた。
「よ、汚してなんかないよ」
咄嗟に言い返して首を巡らせる。既に知った顔となった相手が、グレンに寄りかかってこちらを見上げていた。
「…ロンさん」
「はぁい、こんばんわ坊や。
 何してたか訊いて欲しい?」
散歩の合間だとでも言わんばかりに挨拶を口にしたリーロンは世間話然として笑う。見透かされている、とその笑顔を見ているだけで何故か理解出来た。誤魔化す気力すら抜けてしまったシモンは、仕方なくグレンから降りて博識な知人の隣に立つ。
「聞いてた?」
「やあねえ、そんなに悪趣味じゃないわよ。
 尤も臭いって誤魔化せないから気をつけた方が良いけど…ああ、グレンの口も開けときましょう」
リーロンの受け答えのリズムはいつもの通りだった。本当に気にかけていないらしい。
「言ってくれれば私がお相手してあげたわよん」
冗談めかしてウィンク一つ、普段と同じに過ぎてシモンは顔を背けた。
「…そうすれば、良かったかな」
返事を聞いてリーロンの片眉が上がる。男とも女ともつかないメカニックは、その器用に動く指先でシモンの皺の寄った眉間をつついた。それに促されてシモンはぼそぼそと消え入りそうな告白を口にする。
「子供の頃、といってもまだ子供だけど。
 穴掘りもできないくらいの時は毎晩どっかしらの穴蔵に入り込んでた。
 独りで寝るのが怖くて…だったら、少しくらい痛いめ見ても誰かと一緒がいいなって」
その代償として体を売った。他の誰かと一緒にいる為に一番手っ取り早く、そして需要もあることだったから。のしかかられ、むさぼられ、時に殴られもして、それでも独りきりで夜を越えるよりも楽に過ごせた。押しつけられる熱は束の間両親の不在を忘れさせてくれる。
シモンの言葉を聞いてもリーロンの反応は常からの余裕を持たせた顔のまま、あらあらと合いの手を打っただけだった。
「安売りしたものねえ」
「その時の俺にはどうしても必要だったんだ」
淡々としていた口調が俄に切実さを帯びる。
衣食住は曲がりなりにも村長が面倒をみてくれていたから、貰っていたのは相手の体温と時間だけだ。たったそれだけ、だがあの時のシモンには決定的に足りなかったもの。
誰かが自分を利用している間は独りではない。ただそこに存在するだけで居場所になるような人々は彼の傍から永遠に失われていた。
耐えるように唇を噛むシモンの頬をリーロンの一差し指が潰す。自覚せず浮かべていた苦悶を打ち消し、シモンは怪訝な瞳を話し相手に向けた。交わる視線に応じてウィンクを送ったリーロンは、なんでもないことのように言葉を重ねる。
「遊びとしてのセックスを否定しないわよ、私はね」
世の中嗜好は人それぞれだ。性交渉が子孫繁栄の括りを抜けることなどありがちに過ぎる。
「でも貴方、そこら辺の区別がちゃんとついてないでしょ。
 赤ちゃんを卒業したらいらっしゃいな、坊や」
体温を分け与えるだけなら今リーロンがするように俯いた頭を撫でるのでも構わなかった。わざわざ身体を繋げるという特殊な方法を使うまでもない。まして、それで自分の身や心を傷つけるのならばそれは気晴らしにすらなっていないではないか。
シモンが必死に他者の体温を得ようとする様は、リーロンから見ると餌を得るため命がけの狩りをする姿に似ていた。本当に必要なのか、錯覚しているのか、必要だとしてもそのやり方で良いのか。
がむしゃらすぎる視界の狭さは若さの暴走というよりは赤子の生存本能だ。刷り込まれた方法以外を知らないシモンは赤ん坊として泣き叫ぶことも出来ずに諾々とそれに従っている。
自分で自分を袋小路に追い詰めて何が楽しいのか、軽い溜息と共にリーロンは細い肩を叩いた。
「本人に言っちゃえば?」
何気ない言葉にシモンの体が目に見えて震える。いっそおこりにも似た反応にリーロンは苦笑を浮かべた。今のシモンは幼い時と違い誰の体温でもいい訳ではないことくらいお見通しだ。誰のものが欲しいのか、も。
「好きなんでしょ?」
「好き…だよ、でもそういうんじゃない」 
さらりとした言葉にグレンを横目に見ながら答える。
…カミナが好きだ。大好きだ。
シモンが示し得ない、出し惜しみしない好意や隠しもしない激情をてらいもなく与えられるカミナ。
彼はシモンがただそこにいるだけで存在を認めてくれた稀有な人だった。
手を引く彼の後をついていければ満足。そう、心は満ち足りているのだ。それ以上望むのは分不相応になる。
自覚しているのに、一緒にいると体温以上のものが欲しくなるかもしれなかった。
「誘ってみれば?案外大丈夫だったりするかもしれないわよ」
あまりにもなんでもないことのように言うリーロンにシモンは肩を落とす。リーロンは聡い、シモンの心情を汲み取れているはずなのにそうまであっさりと語られて一種の虚脱感を得た。
「兄貴、そういうこと興味ないよ。
 童貞だし」
「あらァ、そうなの?」
ぼそぼそと無愛想な声と対照的に、整備士の応えは笑いを含む。
「まあ確かにおっきな子供だものねえあの子は」
納得顔で頷いてみせる性別のわからない道連れの顔から視線を外し、シモンは疲れたように座り込んだ。
「兄貴は…よく、わかんない人だよ。
 未だに俺になにをさせたいんだか、解らない」
周りの大人がシモンに求めることは常に具体的なことばかりだった。
ジーハ村拡張横穴掘りはその最たる例だろう。
だがカミナが自分の隣に立っている理由をシモンは知らない。その理由がいつ失われるのかも解らなかった。いつか傍にいてもらえなくなるかもしれないと焦燥感に追い立てられる。傍にいてくれと押し付けてはいけない想いを叫びだしそうだ。見捨てられていない今でさえ、本当に一緒にいるのか確証を求めて身体を繋げて引き止める妄想を繰り返している。
自分にあるのは下に向かう才能だけだ。その自分にはカミナの存在は眩し過ぎる。強く惹かれすぎて歯止めが無くなり、暴走する己が容易に想像出来てぞっとした。
「…面白い子ねえ」
膝を抱えて自身を小さく畳み込んだシモンを見下ろして、リーロンは思わずと言わんばかりに声をこぼした。彼(彼女?)は顔を上げられないままの少年の横に腰を下ろす。
「若さっていいわねえ。まあ、あなたは相当しんどいでしょうけど」
年長者らしい言葉を使って、瞳に懐かしそうな色を浮かべながらリーロンの手がシモンの髪をまた撫でた。
「好きだとか嫌いだとか、感情なんてどんなものでも自己中心的なものよ」
己の靴先を見て唇を噛んだシモンの良識や優しさは美点だが、同時に根強い自罰感情として自身に牙を向く。年を重ねるうち清濁飲み込めば良い男になるんでしょうけどねえ。沈んだ顔を眺めて微笑み、リーロンは長い指でシモンの小さな鼻を摘んだ。
「傍にいてもらえなくなりそうなら、あなたが傍にいればいいのよ」
されたことにびっくりして顔を上げ、そこにある明るい表情にシモンは目を丸くする。
「欲しいものに喰らいつく我武者羅さも偶には必要ってこと」
尤もあなたの相方はそればっかりすぎるけど。
けらけらと声すら上げて笑い出したリーロンを、少年は呆然と見詰めた。自分が認められないことを、なぜ目の前の相手がいとも簡単に受け入れてしまうか解らない。
「…よく、わかんないよ…」
素直に嘆いたシモンに、リーロンはそれでいいのよと応じた。
「要は後悔するなってことね。
 人間、最後に笑って死んだ奴が勝ちなのよ」
それで話はおしまいだ、とリーロンが立ち上がる。これからまた夜鍋でガンメンの調整をするのだろう。今までの会話を忘れたように忙しく立ち働くリーロンの背中を眺めてシモンは自分の膝に頬杖をつく。
「よく、…わかんない…」
掠れた呟きが夜に溶けた。
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