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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.04.29,Mon
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2008.06.17,Tue
いわゆる水着回って視覚的じゃないと全然サービスじゃねえ!というガッカリ文章です。
皆様脳内で水着と肌色のコントラストをお楽しみ下さい。
…しょっぺぇ!
あ、戦闘も無しです。長くなりすぎたので切りました。
ロシウ一人称で状況が整理できているのかいないのか…






海に偵察…と言う名の息抜きに出る組と、ダイグレンの補修にかかる組とに分かれるよう言われた時、僕は迷わず後者に加わった。初めて見る海は興味深かったけれど、それだけに対策をきちんとしないで漕ぎ出すのが怖い。それにグレンに乗せてもらうことになってから少し整備の訓練が疎かになっているのも気になっていた。
シモンさんが良いと言ってくれて、カミナさんにも許されてグレンに乗ってはいるけれど正直役に立てているか自信はない。シモンさんは疑うべくもなく大グレン団随一のガンメン乗りだ。僕は殆ど座席を温めているだけに過ぎない。文字を読み取ることに慣れているお陰で計器類を読むことくらいは出来るけれど、それがどれだけ意味があるのかは解らなかった。なにしろシモンさんが集中するとレーダーよりも素早く正確に敵の位置を見つけ出してしまう。
自然に溜息が落ちて、遅れて気付いて眉間に皺が寄った。いけない、リーロンさんにあんまり顔をしかめていると癖になると言われたんだった。慌てて背を伸ばして居並ぶガンメンをざっと眺めたところでふいに背後から声を掛けられた。
「手伝うこと、ある?」
誰、なのかはすぐに解って僕は滑稽なくらい急いで振り返る。僕の動きをどう思ったのか、いつもの上着に両手を突っ込んだままシモンさんは首を傾げた。格納庫の入口に立つ彼女は逆光になっている。背負っている日差しは強くて僕は何度か瞬きを繰り返した。
その間にシモンさんは僕のすぐ隣まで歩いてくる。人気のない格納庫に作業ブーツの足音が響いた。
「…ロシウ?」
僕をシモンさんが訝しげに呼ぶ。返事を忘れていたことに気付いて、僕の舌は情けなくもつれた。
「あ、あの。シモンさんは、海に」
行かないんですか、と続ける語尾まで発音しきれなくて頭に血が昇る。恥ずかしい。なんでそんなこともちゃんと訊けないんだ。きっと顔が赤くなってるだろう、シモンさんは僕のことを変な奴だと思うだろうか。それはダメだ。嫌われたくない。
たぶん他の人が覗けば突拍子もないような考えがぐるぐる回った。だけどシモンさんは僕の奇妙な態度を気に留めないであっさりと答えてくれる。
「騒がしいのは苦手だし」
抑揚の薄い、なんとはなしにそっけなく聞こえる声は僕を落ち着かせてくれた。そう、シモンさんはあまり大騒ぎに付き合うのが好きじゃない。宴会だって適当なところで席を外すのが常だ。ギミーとダリーを寝かしつけることを口実にすることも少なくない。僕もあまりバカ騒ぎが得意な方ではないから、一緒に腰を上げることが多かった。
理由に納得して、それから少し気分が重くなる。結局前と同じだ。シモンさんがここに来たのは僕が居るからじゃない。
ついこの間まで塞ぎ込んでいた時も度々格納庫で顔を合わせていたけれど、あの時だってシモンさんはラガンの傍に逃げ込んでいただけだった。あとは、カミナさんとヨーコさんはあまりここに来ないというのも理由の一つだろう。
…ああ、今回もそれが要因に数えられているのかな。自分の察しの悪さに僕はまた恥ずかしくなった。
いくらシモンさんがここに残ると決めたからって、彼女が失恋したことに変わりはない。カミナさんとヨーコさんの傍で笑っているなんて辛くて当たり前じゃないか。
「ロシウ?」
もう一度名前を呼ばれて弾かれたように顔を上げる。失言に狼狽える僕にまたもシモンさんは首を傾げていた。ついでどんぐり眼が顰められ、シモンさんの声が少し低くなる。
「俺に出来ることは、ないかな」
邪魔になるなら退散する。
言外に言われて僕は何度も首を振る。とんでもない。
「そんなこと、ないです!」
否定の声は殊の外大きくなって僕の顔はまた赤くなった。
「そ、そう」
シモンさんの返事がびっくりしたのかつっかえる。でも彼女は今回も僕の態度を咎めたりはしなかった。落ち着きを取り戻した声音がなにをすればいいのかと尋ねる。僕も早鐘を打つ胸を押えてリーロンさんに言われたことを説明した。
「ガンメンのコクピットの、目張りをするんですけど」
今のままだと水中で戦闘になった時コクピットの浸水を防げない。端的にまとめて実際の作業のやり方を話した。要領を飲み込んだシモンさんが僕の手から道具を受け取る。指先が触れそうになって、それを意識した自分がやっぱり恥ずかしかった。
だけどシモンさんと仕事をするのが嬉しいのは本当で、頬が緩むのを止められない。なにせ今回は本当に二人きりだ。ギミーとダリーは遊べるとなれば鉄砲玉のように飛び出してしまって、ジョーガンさんとバリンボーさんが二人の世話を買って出てくれている。
「これ塗って、こっち貼って、乾燥待ちでいいんだよね?」
早くもキングキタンのコクピットを開きシモンさんは片足を踏み込ませていた。追いかけて彼女が持っている器具を確かめる。間違いは無かった。
シモンさんはさして背後の理論には興味がないけれど、実際に使うことになる道具に関しては関心が高い。そして道具の扱いとなれば驚くしかない程の器用さを見せる人だ。そんなにメンテナンスには参加していなかったはずなのに使っている工具は早くも彼女の痩せた手に馴染んでいる。
一緒にリーロンさんに勉強を教えて貰う時、よくシモンさんはロシウは頭が良いなと言ってくれる。だけど本当に頭が良いのはシモンさんの方だ。目の前に立ちふさがった問題を手持ちのものだけで解体していく方法を思いつく頭の柔軟さにはいつも目を見張る。だから僕はいつでも一歩先を行くシモンさんの後をついていくだけで、どうにか隣に立てないものかと知識を頭に詰め込むんだ。彼女が追いかけているのはカミナさんで、空いた隣にはニアさんが滑り込んでしまったことを知っているのに。
気をつけていたのにまた眉間に皺が寄っていた。頭を振って余計な考えを押し出して、シモンさんが施す一通りの手順を見届ける。大丈夫かどうか確かめるために一つのコクピットに二人で収まると少し狭かった。
乾燥用の送風器具で貼り込まれたテープを乾かす。指で押すと硬さと弾力が入り交じった感触がした。リーロンさんが皆に言っていたことが正しいのならこれでどうにかなる。そして、リーロンさんが間違いを述べるところを僕達は聴いたことがなかった。
「大丈夫そう?」
「はい、きちんとできてます」
覗き込むシモンさんに場所を空けると彼女は興味深そうに処置した箇所を指で擦る。その仕草は少しだけギミーに似ていて、僕の喉からくすりと笑いが落ちた。振り向いたシモンさんの目元が僅かに赤味を掃く。失礼だったと急いで笑みを収めた僕を手すりに体重を預けたシモンさんが見下ろした。灰色の視線に射止められて僕の動きが止まる。シモンさんの色の薄い唇が薄く開き、数秒の間を置いてから言葉を載せた。
「あのさ、ロシウ」
何を告げられるのか思わず身構えた僕が続きを聴くことは出来なかった。シモンさんの耳障りの良い声差しを上書きするように外から驚いたと言わんばかりの言葉が投げかけられる。
「あんたたち、なにやってんだい」
呆れを隠さない声を露払いに、薄茶の髪を揺らして眼鏡の女性がコクピットに頭を射し込んできた。
「レイテさん?」
名前を呼ぶと彼女は煙草を噛んだ口でニッと笑う。度胸のありそうなその笑顔に僕は少し怯んだ。まるでシモンさんを独り占めしてると喜んでいたのを見透かされたような感触がした。
「レイテさん、どうしたの」
思わず俯いた僕の変わりにシモンさんが尋ねる。レイテさんはいつもの気っ風の良さ陰らせてどうしたもこうしたもと不満を言葉にした。
「若いのがこんなとこで燻ってんじゃないよ!
 とっとと遊びに行っといで」
ほら出た出た。
伸びてきた白衣の腕が僕らの服を掴んで引っ張る。体勢が崩れそうになって慌てて外に出た僕らの背中をレイテさんがバシバシ叩いた。少し痛い。
「でも、人手が」
作業の進行を気にしているのは本当だけど、シモンさんを海に連れて行くのも気が進まなかった。だというのにレイテさんはやっぱりニヤリと笑ったまま口から煙草を離して煙を吐く。心得ていると彼女は僕らの説得にかかった。
「リーロンがあんたらの水着用意してたからね。無駄にしちゃ勿体ないだろ」
そんなこと言われたら僕達は好意を無碍に何か出来ない。解っていて言っているんだということは察しがついて僕の目尻がきつくなった。レイテさんは楽しそうに笑顔のままだ。シモンさんは諦めたように息を吐く。
「解った。
 ロシウ、行こう」
最初はレイテさんに、次に僕に。順繰りに言葉を与えてシモンさんは踵を返した。レイテさんとリーロンさんの意向に逆らうことは出来ないと彼女も解っているんだろう。
「待って下さい、シモンさん!」
仕方なく僕もその後を追う。途中で待っていてくれたシモンさんに追いついて、一度振り返って二人してレイテさんに頭を下げた。ひらひらと片手が振られる。
「じゃ、行こう」
シモンさんはガンメンに背を向けて、それから思い出したように僕の手を握った。戸惑う暇すらなく彼女の脚が駆け出す。波の音と太陽の光よりも彼女の体温が僕の胸を躍らせた。


下品ですと叫んだ僕を宥めてリーロンさんは有無を言わさず僕に水着を着せつけた。考えてみれば作業前にちらりと見たキヨウさん達姉妹やヨーコさん、ニアさんもかなり肌を露出していたのだから予見して然るべきだったのだろう。水着というものの面積の少なさに僕が右往左往している間にシモンさんはあっさりと着替えてしまった。
靴を脱いで上着とサラシを外して下着毎ズボンを下ろし、晒された肌の白さに後ろめたさを感じて僕は視線を逸らす。アダイでだって、水浴びは節約のために皆一緒だったというのにどうしてかシモンさんの裸を直視することが出来なかった。同性同士だから気にすることはないと頭で解ってはいるのだけど。
それでも一瞬で脳裏に焼き付いてしまった素肌には胸元からお腹にかけて目立つ傷がついていた。薄桃色に肌が変色しているそれが四天王の一人と戦った時のものだと解って僕は何度でも辛くなる。ラガンごとビャッコウに刺されて負った大怪我はダイグレンの設備でも痕が残った。
シモンさんはいつもは胸からお腹まで白いサラシで彫像のように固めているのに、今はその束縛が無い。その所為で普段は硬質に見えていた体型が柔らかさを取り戻し、だからこそ両断するような傷痕はいっそう痛々しかった。
「ロシウ、平気?」
だけど本人は一向に気にする様子を見せず水着で素肌を多い、むしろ僕を気遣わしげに見つめる。優しい瞳に大丈夫と請け負いたかったけれどどうしても頷けなかった。
あなたのために布地は増やしておいたわとリーロンさんは親指をくゆらせていたのにやっぱり僕が着せられた白とモスグリーンを組み合わせた水着は服と言うにはあまりにも頼りない。首の後ろで結んだ紐で支えられているシャツはお腹こそ隠してくれるけれど背中が出ているし、下半身も切りつめられたズボンといった風体で下着とさほど変わらなかった。これで外に出るかと思うだけで目が回る。シモンさんの方は藍色一色で何故か胸に白い名札がついていた。シモン、と辿々しい字で書いてある意味はなんなんだろう。彼女も勿論肩も首筋も晒していて、脚は付け根から丸出しだった。多分露出は僕より酷い。
とは言えシモンさんは昔から薄着で体力仕事をしてきたせいかそんなに格好は気にならないらしかった。それどころか上着を僕に差し出してくれる。
「これ、羽織って行ったらどうかな」
日焼けも避けられるよ、とことごとく優しい言葉に僕は冗談でなく涙が零れそうになった。


シモンさんは痩せぎすであまり背も高くないのに胸だけは他の体型を裏切っている。温泉でも思ったけど実はヨーコさんと変わらないくらいあるんじゃないだろうか。いつもはかなりきつくサラシで抑えているけど、今は水着一枚だ。とりつけられた名札の形を歪め、ふわふわと揺れる胸につい視線を誘われて僕は自己嫌悪を憶える。なんだか邪なことをしたような気がして罪悪感に襲われた。
だけどその豊かな胸に昂揚したのは僕だけではない。というか、僕なんか序の口だった。
ダイグレンから出てきたシモンさんを見て男性一同がどよめいた時になんだか嫌な感じはしていたんだ。今もシモンさんのことを女の子扱いしたことなんてない人達が、彼女の身体を眺め回して奇声を上げている。その目つきは当たり前みたいにシモンさんの身体に性的な意義を見出していてしかもそれを隠していなかった。
どうしてこう男の人というのは下品なんだろう。
不快感に思わず拳を固めた僕へシモンさんが心配そうな顔を向けた。彼女は自分に男性の獣欲が向くなんて考えても居ないらしい。僕がまだ恥ずかしがっているんだと考えたシモンさんがちゃんと水着似合ってるよと慰めてくれた。そこだけはリーロンさんが選んでくれたことなので疑いようもない。優しい言葉に頷いて見せて、でも僕の笑顔は力が入らなかった。
顔を上げればシモンさんの肩ひもに結びつけられた赤い布が目に入る。手放す気になれなかったらしいその布が意図することを幾つか思い浮かべて僕の胸が締めつけられた。勝手な感情だ。シモンさんが本当になにを感じてどんなことを考えているのかなんて彼女にしか解らないことなのに。
周囲の視線だって僕が勝手に気にしているだけなんだ。
「海って、広いな」
いつの間にか落ちた肩がシモンさんの言葉で跳ね上がる。気付かないうちに僕らは波打ち際に立っていた。シモンさんの言う通りどこまでも青い水が埋め尽くしている。空と混じり合う果ては不明瞭だった。
たった一日しかない補修期間で広大な海を越えて行けるのか、考えるだけで頭痛がする。
でもシモンさんは綺麗だねと短い感想を漏らすと柔らかな声で僕に尋ねた。
「で、これからどうしよう?」
言われてやっと、遊びに出されたことを思い出す。
なんだか僕は物事を悪い方に考える節がある。他の人達ほどではないにしろ、もっと明るい考え方はできないものだろうか。そんな風に思うこと自体、暗いのかもしれないけれど。
ともあれいざどうしようと言われても案がないのは確かだった。遊びなんて言葉は僕にとって縁遠い。アダイで遊んでいられるのはギミーやダリーくらいの小さな子だけだ。
シモンさんも事情はそう変わらないのか、しばらく二人で考え込む。結局、じゃあ散歩でもしてみようかと話がまとまった。地上に出てきて幾らか過ごしてきたけれど海に来たのは初めてで見て回るだけでも飽きそうにない。
だけど僕がシモンさんといられるのもそこまでだった。
「シモーン!」
なんだか地に足がついていないような声が響く。と、思ったら振り向いたシモンさんの胸にはもうニアさんが飛び込んでいた。
「ニア?」
突然の来訪にシモンさんは少しだけ困ったような顔をして、でも嫌がっているわけではない。許されているのをいいことに、シモンさんの胸に顔を埋めたままニアさんは口を開いた。
「キヤルがびーちばれーをしましょうって。シモンたちも一緒に遊びましょう?」
断られるだなんて夢にも思わない表情。働くことを知らない手は既にシモンさんの手の平を握っていた。その仕種が僕の苛立ちを掻き立てる。
二人を引きはがしたくなって、自分の感情の強さにびっくりした。仲の良い人達の邪魔がしたいだなんて僕は何を考えているんだ。
頭を抱えそうになった僕を留めたのは、シモンさんだった。びーちばれーとやらに戸惑った顔を見せていた彼女は僕に視線を向ける。
「ロシウは散歩じゃなくてもいい?」
先約の僕へ気を使ってくれる。そんな風に他の人のことを考えてくれるシモンさんが好きで、そして心配だ。誰かのために自分を使い果たしてしまうんじゃないかと。水着に隠された傷はそれを裏付けているような気がしてゾッとした。
だけど今重要なのはそこじゃない。びーちばれーとやらに参加したらシモンさんの水着姿が皆の目にさらされる。さっきの男の人たちの反応を鑑みれば至極危険なことに思えた。
それに、散歩ならびーちばれーよりは一緒になる人が少ないだろう。二人きりではなくともシモンさんとの距離はきっと近くなるし、ヨーコさんにもカミナさんにも出会う確率は減るはずだ。
選ぶべきは間違いなく散歩で、だけどかちあったニアさんの視線に僕はたじろいでしまう。
なんとか対抗しようと花咲く目に向き合った。でもニアさんの期待が篭りすぎた瞳に僕が勝てるわけがない。数瞬の見つめ合いの末、根負けした僕はがっくりと頷いた。


ニアさんはシモンさんと僕の手を引き焼けた砂の上を軽やかに駆け抜ける。砂に足を取られそうになりながらどうにかついていくと、立てた杭に網を掛けた器具の前にたどり着いた。なんだろう、魚を捕る道具だろうか。でもそれにしては杭は柱としてしっかりと埋め込まれてしまっていた。なにより、網の前で何故かヨーコさんとカミナさんがにらみ合っている。
いつもの痴話げんか、なのだろうけれど何故かキヨウさんたち姉妹や男の人たちも加わって人だかりが出来ていた。そこへ僕たちを連れたニアさんが飛び込む。
「ぃよぉっし!来たな、兄弟!」
仁王立ちしたカミナさんは満足げにシモンさんを迎え入れ、片腕で抱き込んだ。遠慮のない仕草に一瞬白い肩が硬直したのが僕からは見えた。気づかないカミナさんがサングラスで飾った顔をシモンさんの鼻先に寄せて笑う。余った指先が名札のつけられた胸元へ突きつけられた。
「いいか魂のシスター!俺とお前の力がありゃあ!
 タマっころ遊びなんざぁお茶の子さいさいってなモンよ」
勢いをもって指され、触れるまでもなく名札を突っ張らせた胸元が揺れる。そこに何人かが視線を集めたようだったけど、シモンさん本人はそんなことを気にかけずカミナさんから少し身を引いて首を傾げた。
「たま?
 …びーちばれー、って弾を使うの?」
問いかける視線を向けられて急いで首を振る。済みません、シモンさん。僕にはその知識はないんです。
「…それじゃ俺達に勝ち目、ないんじゃ…?」
緩く首を振った僕を見て軽く俯いたシモンさんが小さく呟く。彼女がちらりとヨーコさんを見てから微妙に頬が引きつらせたのは気のせいじゃないはずだ。たぶん、僕も今シモンさんとそう変わらない顔をしているだろう。と言うか、仲間同士で弾を使うというのは随分と危険なことなのでは。それは遊びではなく訓練の範疇だという気がする。
にらみ合うカミナさんとヨーコさんの様子ではびーちばれーは更に激化の様相を醸し出していた。危機を感じて思わず後退った僕は肩を叩かれて背筋を伸ばす。
「そう、これを使うのよ」
そこには晴れやかな笑顔を浮かべたキヨウさんが立っていた。その手の中には白くて丸い玉。ああ、タマってそっちのことなんだ。胸をなで下ろした僕の隣を眺めたシモンさんは納得した顔をして、それからまた疑問符を浮かべる。
「投げ合うの?」
すぐ傍に仁王立ちしているカミナさんは尋ねられて自信満々の笑顔を見せた。でもその口からはいつまで待っても説明が続かない。
ああ多分理解してないんだな、と察する僕の隣に、キヤルさんが頬を掻きながらやってきた。
「えーっと、なんて言うかさ」
お姉さんから玉を受け取って投げ上げる動作を繰り返してくれるけどびーちばれーとやらの実情は掴めない。地上の不可思議に囚われている僕らを救ったのは、更にフォローを重ねてくれたキノンさんだった。
「地面の上に落とさないように、ボールを打ち合いっこするんです」
あの網で陣地を分けます、と告げられてやっと謎の装置が何なのか判明する。
「落とすと、相手側に一点入るの。
 この点数を競う遊びね」
短く纏めたキヨウさんに、キヤルさんがそういうこと、と胸を張った。解ったような解らないような。戸惑ってシモンさんをみつめてみるとやっぱり彼女の灰色の瞳も困惑気味だ。
けど、棒立ちになっているシモンさんの片腕にどんっと抱きついたニアさんが明るく言い切る。
「やってみればわかります!」
確信に満ちたのニアさんの言い分にカミナさんがその通りだと同意した。そうかなあ。どうも信じ切れないでいる僕の腕をシモンさんが引いた。振り向くとつぶらな瞳が不安そうにこちらを見ている。さっきニアさんの目に負けたようにまたも僕はその視線に折れ、よく解らない競技へ参加表明する羽目に陥った。


陣地とチーム分けで一悶着(取り敢えず双方のリーダーはカミナさんとヨーコさんだった)起こした後、やっとゲームが始まった。ルールを把握しているキタンさんが審判として声を張り上げる。
「始めェい!」
高々と放り投げられたボールを追いかけてヨーコさんが駆けた。周囲で見守る人々がどよめくのは多分彼女の身体能力を褒めているから、ではない。大体カミナさん以外の参加者というのは女の人ばかりで、観客は残りの男性達なのだからどこを眺めているのかは予想できるというものだ。予想したくもないけれど。
ばしっと結構強い音を立てて上がったボールをキヨウさんが撲つ。こちらの陣地へ落ちてくるボールを受け止めたのはシモンさんだった。彼女の足は砂に取られることもなく地面の上と同じ調子で走る。
「よくやったシモォン!」
嬉々としたカミナさんがボールを打つ、というより殴った。考えてみたら女性陣の中に男の人が一人混じっているってすごい戦力差なんじゃなかろうか。カミナさん本人はヨーコの奴は男みてえなもんだろ、と呵々として笑っていたんだけど…。
とにかく、強烈に打ち込まれたボールは砂に埋まった。カミナさんは楽しそうにガッツポーズを取り、シモンさんの頭を撫でようとする。
でも無情にもキタンさんの腕は相手側の陣地を示した。点が入った合図だ。
「アウト」
棒読みに告げられカミナさんが目を見開く。言われて見れば確かにボールは引かれた線の外に埋まっていた。ヨーコさんが余裕の表情で肩と赤い髪をそよがせる。
「バカミナ」
さっくりとした罵倒に地団駄を踏むカミナさんにキヤルさんも悔しそうな声を上げた。
「カミナぁ、もう!しっかりしてくれよ!」
「チキショウ!とっとと始めやがれ!」
叫んだカミナさんがヨーコさんを指さす間にキノンさんがボールを打ち上げる。今度は優しい放物線だった。これなら僕でも受けられそうだ。ほっとしながらボールが落ちてくる地点で待ちかまえる。上げた玉を後ろからキヤルさんが叩いた。
それなりの勢いを持ったボールの行く先にニアさんが居て、僕はどきりとする。にこにこ笑顔の彼女はまっすぐに突っ立ったままで直撃コースだ。危ない。咄嗟に口にする前にニヒルな笑みのヨーコさんが玉を上げる。空へ舞ったボールの行方が強い太陽の光で一瞬解らなくなった。
そしてそちらに気を取られている僕の少し後ろで頓狂な声が響く。
「ニア!?」
呼んだのはシモンさんだったのだけどその意味は解らず、ちらりとよそ見をしている間に頭上でとんでもなく激しい殴打の音が鳴った。
「え」
勢いよく振り向いた僕へ向かって今までにない勢いのボールが飛んでくる。あまりにも早すぎて返って遅く見える弾道の向こうでニアさんが砂に着地しているのが見えた。その合間にも風切り音と共にボールが迫る。
…シモンさんの弾、って言葉は、間違いじゃなかった。
そんな確信を得ると同時に僕の額へボールが激突していた。


さらさら、優しく額を撫でてくれる感覚があった。頭を載せた柔らかい感触にも覚えがある。かあさん。呼べたのか、呼ばなかったのか。判然としないまま僕は薄く目蓋を開く。少し歪んだ視界の向こうに穏やかな表情が浮かんでいた。
一瞬それが母さんに見えて、でもやっぱり違う。あり得ないと理解した僕の目は何度も瞬き、覗き込んでいるのはニアさんなのだと認めた。
そして今自分が彼女に膝枕されていることを知って僕は急いで身体を起こそうとする。済みません、と早口に謝ったのに頭がふらついた。それを見抜いたニアさんが僕の肩を押さえる。
「いけません」
ちょっとだけ頬を膨らませて、また膝の上に僕を寝かせたニアさんは満足そうに笑った。その仕草をどこかで見たことがあるような気がして記憶を反芻する。数少ない彼女との思い出はあっさりと洗い出せた。
そう、熱を出したシモンさんへの態度と全く変わらない。
僕が何に気づいたのか知らないニアさんの白く傷一つ無い指が僕の髪を梳いた。離れて聞こえる波の音と相まってやけに安心する。
この人は誰にでもこんな風なんだな、と思ったらなんだか急に気が抜けた。なんだろう。訳が解らなくて、そのせいで顔がふやけた。それを見たニアさんの笑顔がますます深くなる。
誰にも分け隔て無いその懐の深さがとてもすごいことだと、彼女自身は知らないんだろうな。それとも、知らないからこそこんなにもすごい人で居られるんだろうか。
僕はこの人のすごさが、少し怖いのかもしれない。僕の中の汚い部分や醜い場所が照らし出されてしまうような気分がするんだ。きっと。
思わず握り込んだ指がもう血の止まった掌の傷口に触れる。これは僕がシモンさんを自分のエゴで留めようとした証だ。
結局僕は暴走するラガンを止めることもできず、落ち込んだシモンさんを元気づけることもできずにただ立ちつくしていたに過ぎない。
潮の満ち引きがあの日の雨の音に重なって、借りたままの上着が酷く心苦しかった。
「ロシウ、ごめんなさい。
 まだ頭が痛いのですね?」
案じる口調のニアさんが僕の眉間の皺を揉む。違います、とは言えなくて喉が詰まった。そして確かに頭は痛む。物理的な問題ではないけれど。
「大丈夫か?ロシウ」
頭痛にかまけて足音も気配も取り逃していた僕は存外近くから注ぐ言葉に驚いた。反射的に顎が上がり、見開いた眼が傍に立つシモンさんを見つける。
「あ…」
上手く音が紡げない僕の代わりにニアさんがまだ頭が痛いそうなんですと話した。頷いたシモンさんはニアさんの隣にくっつくようにして座り込む。その距離の近さに呼吸が重苦しくなった。でもシモンさんは僕に手を伸ばし、予想もつかないことを言う。
「代わるよ、ニア」
口にしながら僕を抱えようとした手をやんわりニアさんの腕が阻んだ。安心して良いのかどうか迷っている間にニアさんがシモンさんに訴える。
「でもロシウにボールをぶつけたのは私です。
 これは私のおしごと、なのです」
ぷいっとそっぽを向いて、どこか自慢げな口調はなんだかギミーやダリーに似ていた。シモンさんもまるで小さな子供を宥めるように言い返す。
「びーちばれー、まだ続いてるんだ。
 そろそろ交代したくなったから」
皆もニアに来て欲しがってるよ、と添えられた台詞にニアさんがきゅっと唇をへの字に曲げた。シモンさんを見、僕を見、それから向こうのびーちばれーの陣地を見て、それからまた僕らを交互に眺める。
最後に諦めて息を吐いたニアさんがシモンさんにお願いしますと呟いた。
「ロシウ、無理はしないでくださいね」
シモンさんの膝の上に頭を移されて硬直した僕に言って、ニアさんは皆のところに駆けていく。途中何度もこちらを振り返り、砂に足を引っ張られて転ぶんじゃないかと僕は逆に心労を重ねた。ニアさんが合流して、わっと騒ぐ歓声を遠くに捉えて僕はやっと頭をシモンさんの脚に落ち着かせる。
体重を預けた僕の髪を、シモンさんの手がぎこちなく撫でた。掘削作業で硬くなった手の平はそれでもやっぱり柔らかくて優しい。僕が知っている、シモンさんの手だった。
いつこの手指が戻ってきたのか、そのきっかけが何だったのか僕には解らない。ただ判るのは、僕はシモンさんの傍にいたのにそんなことも判らないっていうそのことだ。
砂地に視線を逃した僕の頭を撫でるうち、シモンさんの指は段々なめらかに髪を滑るようになっていく。ふいに悪戯のようにその指が僕の髪を絡めてくすぐり、びっくりして僕はシモンさんを見上げた。シモンさんは遊びに興じている仲間達を、そして多分その中心にいる人を見つめていた筈の瞳を僕に向ける。
「ごめん」
言葉は唐突だった。
「え?」
はっきりとした発音ではあったけど、聞き間違いかと思った僕の喉から間抜けた息が零れる。でもシモンさんは僕の額の上に手を置いてそのまま言葉を続けた。
「俺、ずーっとロシウに甘えてた」
起きあがることを封じるような掌の温度に瞬きしながら僕は声を失う。シモンさんの語ることが俄には解らなかった。
「ロシウは俺のこと見捨てないで力を貸してくれて、それに頼ってばっかりだった」
そんなことないです、僕はなんの力にもなれなかったんです。そんなことは一番僕が知っている。なのにシモンさんは違うと否定した。
「…ありがとう」
水面へ波紋が広がるようにゆるゆるとシモンさんの表情から強ばりが抜ける。何時の間にこの人の目元から隈が薄くなっていたのか、僕には判然としなかった。和いだ灰色の瞳の中に困惑した僕が映り込む。
「ちゃんと、お礼を言ってなかったって。
 ずっとそれが気になっててさ」
大きく息を吐きながらシモンさんは赤い布を結んだ肩から力を抜いた。額に乗った手指の重さまで増し、僕は自然に目蓋を閉じる。
尋きたいことはあった。本当に僕はシモンさんの役に立てたのか、そして立てたとしたのならそれはいったい何処だったのか、僕はシモンさんのためにこれから何が出来るのか。
何でもします、とも口に出せるような気はした。でもそれはシモンさんへ向けずに胸の中に閉まって置くべきなのではないかとも思った。シモンさんがカミナさんにそうしているように。
「あの」
大した声じゃなかった。喉も渇いていたし、しばらく寝ていたし、掠れて間抜けた音になる。
「うん」
でもシモンさんの耳には届いた。頷く振動が膝にも伝わる。眼裏に写った藍色の髪も灰色の瞳も僕の母さんには似ていなかった。そしてだからこそ彼女は僕と一緒に地上に居る。
「もう少し、このままでいてもらえませんか」
シモンさんの手の甲へ僕の手を重ねた。滲む体温が気持ちよくて眠気がやってくる。
「うん」
日差しから僕の瞼を庇ってくれるシモンさんに甘えたまま、僕は二度目の眠りに落ちた。

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