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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.04.29,Mon
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2007.12.20,Thu
キノンさんとめのこコンビの話の切り落とし風。
キノンさんが気の毒な立ち位置になってしまうのはロシウがめのこなのでお許し下さいな次第です。
そう言えばアニメで初期は黒の兄弟は全員男だったとかいう話がありましたが、いっそキノンどんおのこに…ああ、うん余計気の毒になった。






二度の計算を経、三度目をするか否かを迷ってキノンは眉を寄せた。結局彼女は算術の代わりに手の内の紙束をめくり最後の印を確認する。やはり記憶のとおりそこにある名前はロシウのものだった。
総司令補佐官。そうと名付けられた人間は二人居て、そのどちらもが職務に忠実な人間だ。だが特にロシウは細かな数字にまで気を配る質であることをキノンは長年の付き合いで知っている。同じ戦艦の中で生活していた頃、整備班員だったロシウとは何度も情報のやりとりをした。年下ではあったがその仕事に対する生真面目すぎるほどの徹底振りには舌を巻いたものだ。
その娘が出してきた書類にミスなどあるだろうか。
確かに多少不審な点はあるものの別段不備がある訳ではない。違和感はあってもほんの少し理由を付け足されれば見逃すような内容だった。特に技術開発省関連の資金の流れは安定しないのが普通だ。わざわざ指摘して手間を増やすのも常に忙しく立ち働く彼女に気の毒かとも思う。そして同時に、なにかしらの手違いであれば逆に報せてやらなければ後で困るかもしれない、とも。
気になり始めれば看過は出来ず、キノンはなにがしか自分が見落としたのだろうかと他人が処理した過去の資料まで引っ張り出す羽目になった。正規の仕事の合間に数字を追いかけ、理路整然としたその文書の隙間に曖昧を見出して首を傾げる。どれもこれも気づかなければそれはそれで回るような内容だ。しかし欠片であっても積み上がれば膨大な壁となってキノンの前に立ちふさがる。
紙を介すのではなく自身が確認に出向いたのは彼女なりの折衷案だった。
定時の仕事を終えて訪ねた執務室でロシウはまだ忙しく立ち働いていた。重ねられた山ほどの資料の合間に顔を上げ、何かあったのかと訪ねる顔は疲労で影が差している。
だが、時間を奪うことを申し訳なく思いながら差し出した資料でロシウの表情は一変した。
紙面に落ちた黒い瞳が一瞬縮まった後眦を歪める。その視線がこちらに向くのが怖くてキノンは言葉を重ねた。
「…それでね、その…これはなんでなのかって」
遠慮がちに尋ねる自分の声が上滑りしている気がして落ち着かない。室内にいるのはロシウとキノンの二人だけ、今ここで大したことではないのだと補佐官が言ってくれるのならばキノンはこれ以上自分の見解に拘る必要は無かった。
むしろもう忘れてしまいたい。俯いたままのロシウが唇を皮肉に歪めたことを知り、後退りしそうになったキノンを低い声が留めた。
「気づいたのは、貴女でしたか」
やはり気づかなければ良かった。後悔に襲われるキノンをやっと上向いた漆黒の双眸が捉える。鏡めいたその瞳に怯える女が映っていた。小さな足音にすら身を跳ねさせたキノンの隣をすり抜け様、ロシウは長い付き合いとなる娘の肩を叩いた。
振り向き翠眼が見上げる先で黒髪の娘が頷く。ついてこいと言われているのだと理解したキノンに逆らう気力はなかった。
白い背中に揺れる黒の尾を追い、感覚がぶれるほど長い廊下と幾つもの曲がり角を経て人影のない区画に誘れる。そこで更に目隠しをされ手を引かれエレベーターらしきものに乗ったあの浮き上がる感覚の末に彼女はそこにたどり着いていた。
視界を解放されてもすぐには目が慣れない。仄暗い部屋の中に緑の光が明滅し、その中で何人かの人間が蠢いていた。カミナシティ総司令部のやたらな明るさとは一線を画した室内に心細さを憶えたキノンの耳に抑揚の無い言葉が吹き込まれる。
「…聞いたら、君は多分今までと同じ考え方は出来なくなる。
 それが僕達のことなのか、それとも君のお兄さんに対してなのかは解らないけれど」
何を、の答えをロシウはまたしても与えてくれなかった。
今度は手すら引かずに先へ行くロシウの後ろを小走りで辿る。手元のコンソールを見つめていた誰かとロシウとの挨拶が何度か重なり、それから彼等の視線はキノンへと注がれた。縋り付くようにしてロシウに寄り添うキノンは年下の娘が足を止めたのに間に合わずつんのめる。その仕草を、よく聴く声が笑った。
「ようこそ、キノン?」
どことなく幼さの残った声音に引かれて眼を向ける。その先にロシウとよく似た衣服を着込んだ娘が立っていた。二つの星を追わされた白の装束、それを着ることが許されているのは総司令補佐官以外に居ない。
藍色の髪をもつ娘はやはり幽かに笑ったようだった。
彼女は寄りかかっていた台から身を離し手元のスイッチを押す。暗がりの中に新たな光源が増え、思わず眼を庇ったキノンは緑光の中に見出したものに硬直した。あんな数値無視しておけば良かったのにと頭のどこかでもう一人の自分が喚く。だが彼女は既に直面してしまっていた。
透明な器に閉じ込められたそれが人の生首なのだと理解してキノンの喉が震える。短く喘鳴した彼女を、僅かに後悔したような黒い瞳と鋭いままの灰色の眸が見つめた。
「…ロージェノムだ」
視線と同じく厳しい声音が告げる名が、既知のものだと理解してキノンは足下が覚束なくなる。耳を侵食した音の連なりはかつて自分達が打ち倒した暴君が冠していたものだった。
倒れ込みそうになる彼女の肩を気遣ったロシウが支えようとする。それを振り払い、平然と生首と並んで立つシモンへ問いかけようとして戦慄く唇が失敗した。それでも投げかけた何をという疑念に今度こそ返事が戻る。
「テッペリンにはブラックボックスが多すぎる。
 知らないままではいられないだろう?」
確かに獣人の王から奪い取ったこの城には謎が多かった。その解明よりも優先すべきこともたっぷりあった。もし知りたいことがあるのならば元の持ち主に尋ねられるのなら手っ取り早い、理屈は解る。
けれど。
「そんな…こんなことが」
許されるの。
痺れた舌が告げきれなかった内容を受け取りロシウが厳然と問い返した。
「誰が僕たちを裁く?
 ニアさんか、政府の面々か、民衆か、それとも君か?」
冷たく聞こえる声に振り仰いだキノンは、今やロシウが自分を見ていないことを知る。彼女が見つめる先には禁忌が存在していた。
この場を支配する理から逃れようと足掻くキノンは今一度シモンへ声を向ける。
「…カミナ、総司令…は」
今度も最後までは言わせて貰えなかった。ロシウと同じように肉体の欠けた頭を硝子越しに見下ろすシモンは歌う声音でキノンを遮る。
「百万の猿がこの地に満ちた刻、月は地獄の使者となりて螺旋の星を滅ぼす」
知らない一節ではなかった。けれどそれはカミナシティが都市としての機能を備えるにつれ誰の頭からも忘れ去られた筈の言葉だった。
誰がそれを語り出したのか、を思い至りキノンは逃げていた瞳をロージェノムへと向ける。
「守るために必要なら、この手を汚す。
 俺たちはいつだってそうしてきたじゃないか」
まじまじと生首を見つめている娘が同志となることを疑わず、シモンは口端を歪めた。
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