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飯は喰いたし、眠気は強し。 そんな感じののらくら雑記帳。
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Posted by - 2024.04.28,Sun
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Posted by 中の人:狐或いは右端 - 2007.12.20,Thu
シモンがアンチスパイラルに覚醒したら系のifもの。
鬱々としたところから開始ですが起承転結の起しかないという滑稽な作り。







もう随分、穴を掘ってないな。
ふいに思ったのは会議のため資料をまとめる作業が終わった直後だった。下水施設の不備を指摘する内容に地下を走る水路を思い浮かべ、それが古い記憶を呼び覚ます。村を広げるために自分が作り上げていたあの穴も今となっては用済みだ。時の無常さを思い、そして今や彼が踏みしめる床すらも地面から遠く離れている現実に軽い目眩を憶える。
危うくたたらを踏みかけた彼の制服の腕から一枚書類が滑り落ちた。慌てて拾い上げたその紙にはこの数年でどうにか惑わず書けるようになった文字と数字が連ねられている。それぞれの仕事が膨らみかけ離れ、こうして声ではなくインクで連絡をしあうようになったのがいつからなのかはもう思い出せなかった。一人二人と目で見ながら数えていたはずのものも今では素っ気ない印字でしかない。
最初の頃シモンが取り扱っていたのは居住区の割当て作業だった。それも最初はテッペリン崩壊による地盤への影響を確かめる調査で、どの住居がまだ使用可能なのかを調べたのは次いでに過ぎないものの筈だった。そのうち下水の仕様を探索する役目を負い、今では街全体の建築物、全体的なライフラインの統括から他の村への道筋の確認、更に地図の作製まで行っている。
人が増えて行くにつれ配給の整備が難しくなり、村でも責任者として食糧管理に詳しかったダヤッカがその責を負った。人が増えてくれば互いの喧嘩の頻度も上がり、その仲裁に駆けずり回っていたキタンがそのうち裁定の責任者になった。殆ど変わらない仕事をしているのはリーロンだけと言って良い。それですらかつての彼(彼女?)に許された趣味趣向の投影は抑えられ長期計画に沿うものだけが開発を許可される状況だ。
七年。
そう、七年も経ってしまった。てんやわんや、どさくさ紛れ、テッペリン攻略のついでのように始めたことが今や自分達の仕事になってしまっている。既に大グレン団という名は一人歩きを初めている程で、実際に働いているシモン達の名称としては政府という味気のないものが一般的だ。
穴など掘っている場合ではない。日々の忙しさから現実逃避しかけた自分を戒め、シモンは書類の束の一番上に拾った紙を重ねた。
個性のない紙片にあとは総司令のサインを貰うだけだ。
「失礼します」
古くは余りの巨大さに気圧されていた扉も今では日常の装置の一つに過ぎない。くぐり抜け、作法(そういえばそんなものもいつ決まったのだろう)通りに一礼したシモンは奥に設えられた巨大なテーブルへと足を運んだ。
「総司令、郊外に建設予定の新居住区と産院施設の為の調査結果と一部地区のテロリストによる被害状況の…」
書類に目を落とすこともなく淀みなく告げる声が、どかりと乱暴な音で中座させられる。大量の紙類に占拠された机、辛うじて執務の為に開けられたスペースにブーツの踵が叩きつけられていた。
粗野な所作にシモンは眉を顰めるが、彼の顔よりも睨め付ける赤い瞳の方が鋭い。
「シモン、その総司令ってのやめろっつってんだろうが」
声音にも顔つきにも不満を載せた総司令カミナがシモンの報告とは全く関係のない要求を述べた。
「兄貴って呼べよ」
押しつけられた言葉に落ちるのは溜息だ。軽く顎を引いて難色を示したシモンにカミナは益々険を強めた。だがどうしても、今は総司令の椅子に座る男が望む答えは戻ってこない。
「俺もロシウも補佐官だから。…片方だけ、特別ってのはまずいよ」
ジーハに居た頃も呼ぶ呼ばないで問答をしたものだが今ではその重みが違う。呼称一つが人間関係にどれだけの影響を及ぼすのかをシモンはよく知っていた。特に権力を持つ人間とその周囲に関しては非常に繊細な問題を孕む。昔から上下関係の厳しい現場で育ったシモンにとってそれは常識の一つだった。
「シモン」
憤懣やるかたない声ももう耳に慣れてしまっている。鈍磨した感覚を悲しむべきなのかそれともそれこそが大人になるということなのか判断がつかないままシモンは腕の中の書類をカミナに向けて突きだした。
「ご確認を、総司令。
 これから周辺の視察に出ます。明日の昼までに目を通して、宜しいようならサインを」
宜しいようなら。定型句を言いながら、結局その作業を一足飛びしてサインだけが戻ってくることをシモンは知っていた。根本的にカミナは不自由な椅子に座ることに向いていない。
だがそれでも英雄カミナがここにいるということはこの30万都市を支える一つの柱だった。
向いていないのは自分も同じだ。兄貴だけに逃げて貰っても困る。性悪なのだか縋っているのか解らないことを考え、シモンはデスクから一歩下がった。
それを引き留めようとして増えた紙束に渋い面をしていたカミナが顔を上げる。しかし彼が何かを口にするよりも再び扉が開く方が早かった。
「おいカミナ、一昨日回した書類どうなった!」
礼儀など蹴り飛ばし、床を踏みならしながらキタンが雪崩れ込んでくる。気勢を削がれたカミナを怒鳴りつけるキタンを横目で眺め、シモンは司令室を後にした。
どこかで、苛立っている自分をシモンは良く解っている。
地面から引き剥がされて生きていくことは本来自分には難しいことも。地面の感触、土の臭い、埃に汚れた空気。懐かしい全てが欠如した都市は自分が生きていくためには小綺麗すぎる。
とはいえ誰かがやらなければ街は街として機能しないのだ。役目がそこにあって果たさないでいることもシモンには難しい。子供の頃はカミナが見せた無法さを愛し尊敬していた筈だが、今やそれはこの世界に似つかわしくないものに成り果てていた。
一つ天井を突き破ってもまた新しい天井がここにある。それを打破する為に必要な犠牲を払う若さ、愚かしさを持つ気にはなれなかった。
「…百万の猿、か」
硝子張りの廊下から視線を投げれば人が蠢く街を一望出来る。そこには既に自分を含め30万の人間が存在していた。残りは70万。新規事業としての居住区が完成すれば更にそこに10万。螺旋王が告げたリミットまで、あまりはたったの60%だ。
その数値がどれだけ危険なものなのか、カミナは真には解っていないだろう。何か問題が起こればそれを突き抜ければ良いと未だに無邪気に信じているのだから。或いは直に告げられた自分とロシウにとってより、伝聞系で伝えられた者達にとっては余計夢物語と思えるのだろうか。わざわざ予言され、回避できる可能性のあることにカミナや彼の同年代達が対処の努力を見せないのは、子供の頃の度胸試しと似た感覚でいるのかもしれなかった。逃げない引かないと地震からも隠れようとしなかったカミナの姿はまだ朧気にも記憶にある。
お互いに親の死を前にしてどうにもならないことがあると教えられたはずだった。にも関わらずこの見解の差異はなんなのだろう。
七年の内に重ならなくなった感情を憂い息を吐いたシモンは、出発の時間までさしたる余裕もないことに気付いて歩む速度を上げた。


全面硝子張り、いくらこの建物が最も高いとは言え落ち着かないデザインだと言う者も居るだろう。だがこの部屋の主は割合ここからの眺めは気に入っていた。いつでも空が見えるのは良い。ただその眺めは兎も角としてここに居れば必ず書類とやらに囲まれなくてはならないという事実が彼を辟易させた。
今日も案の定、あまりにもいつも通りに仕事は完了していないまま空は藍色に染まっている。昔は粉を散らしたように見えた星が今では都市の灯りに掻き消されているのにも鼻白み、カミナは一応手にしていたペンを放りだした。気にくわない。
自分が椅子に縛り付けられた現状も不快ではあるが、尚更カミナが認められないのは彼の弟分の状況だった。あれだけ上を向いて歩けと言ったのに今もまた足下に広がる都市に首輪をつけられたような姿で生きている。街の灯りに無理矢理明るく見えるように飾り立てられているのは夜空もそれと同じ色の髪を持つシモンも同じだった。
シモンや、ロシウやギミーやダリーに見せたかったものはこんな世界ではなかったはずなのに。ただ安心して眠れ、充分に飯が食えて、暢気に暮らして行ければいいと思っていただけなのに何故人間は更にそれ以上のものを望んで都市にたかるのだろう。
全てを振り捨ててまた旅にでも出られればいいとは思うがそれをするにはもうカミナは都市機能の一部に組み込まれ過ぎていた。なにより、自分が連れてきたシモン達を置いていくのも心苦しい。自分を置いていった父親のような思い切りはついぞ持てねえなと皮肉に口許を歪めて彼は巨大な椅子に背を埋めた。手の骨が痺れていることを言い訳に作業を放棄する。
そのまま寝こけるか迷ったところで、自動ドアが開いた。すわロシウの説教かと慌てて身を起こしたカミナに鈴振る声が問いかける。
「アニキさん、シモンはいますか?」
ふわりと黄金の髪を揺らして小首を傾げた少女に現金にもカミナの表情が明るくなった。薄桃色の、作業をするには不便だろう丈の長いスカートに身を包んだニアが部屋の中を見回す。彼女の力仕事を知らない手は大切そうに可愛らしい包みを抱えていた。
「姫さんじゃねえか」
なにはともあれ作業を中断する口実が出来たと顔を綻ばせたカミナに、逆にニアは表情を曇らせる。高い踵のサンダルを履いているくせに柔らかな足音をつれて彼女は広い広い、そのくせ持ち主の手元以外は紙で埋め尽くされて半ば荷物置き場と化した机に近づいた。
「仕事で遅くなると聞いたので、差し入れに来たのですけど…」
執務室にはいなかったのだと気落ちした声に教えられてカミナの眉が跳ねる。シモンが視察に出るという話は既に聴いていたが、彼が戻る時間はそういえば確かめていなかった。最近めっきりシモンのスケジュールも把握出来ていない。
目を走らせれば時計は既に日付も越えようと言う時刻だった。ニアが遅くなると聞いたのならおそらく今日中には戻る予定だったのだろう。そうだとするなら少々遅すぎる。
「っしゃ、なら一緒に探しに行こうぜ」
嬉々として席を立つカミナに、ニアはおっとりと自分の頬へ白魚の指を添えた。
「あら、でもアニキさんお仕事は?」
花を浮かせた瞳がちらりと机の上を確かめるものの彼女にはあくまでいつもの姿にしか映らない。なら大丈夫なのかしら、と詳しいことを知らない娘は兄のように面倒を見てきてくれた男に肩を押され、嬉しそうに顔を上げた。
「んなもん後だ後!
 お前さんを真夜中一人で出歩かせたらシモンに怒られちまうしな!」
ニアの住む場所は政府所属者達と同じくこの中央棟のすぐ傍だ。居住スペースには直通の通路もあり身の安全は確保されている。明らかな言い訳を口にしながら総司令の椅子を離れたカミナは率先して扉へと向かう。
「最近、あいつ元気なかったしな…」
呟きは小走りに部屋を飛び出したニアの耳には届かなかった。


糸の切れた操り人形めいて力のない身体がどさりと音を立てて地面に転がされた。いいように殴られ、蹴られ、打撲と擦過傷に飾られた痩躯を眺めて男達が勝ち誇った笑いを浮かべる。それを遠く危機ながら藍色の髪をした少年はぼんやりと土の臭いを嗅いでいた。
反政府組織と名乗りながらやっていることは彼が住んでいた村の者達と変わらない。能力を持つ者を痛めつけて意のままに操る、それは原始的な方策だった。
もっともっとと求める癖に、与えられたものでは満足しない。
肺腑の痛みで意識を繋ぎながら灰色の瞳は土の壁と床を見つめた。例えば空の下でなくとも、衣食住さえ満たされれば人は充分に生きていける。何故それでは足りないのだろう。
地震で親を失う必要も、兵器で追い回されることもない生活。何が不足だというのか。
乱れた呼吸でも骨を軋ませながら、彼は今まで目を背けていた事実と否応なく対面した。
人の欲望は、限りない。
空を手に入れればその先を求め足掻き、他者を食い物にして先に進む。どんな状況に置かれたところで決して満ち足りることなど無い。
例え100万の人数制限を告げたところで遵守しない人間は必ず出る。自らが綻びを生むという罪悪感すら無しに。
…自分達がしてきたことはなんだったのだろうと空虚な気分に襲われ、そして彼は気付いた。自分達もまた今己を私刑にかけた者達と代わりはしなかったのだ、と。
力無く落ちていた手がびくりとふるえた。放り出された少年に興味を無くし、駄弁っていた男達はまだ気付かない。血の気を失った白い指先が闇に染まっていく。それは手首を辿り肘に至り肩までを染め上げ、そして爪先から脹脛を通り膝から腰まで浸透した。蹂躙された痕を覆い影と同一化させる色彩にやっと一人の男の目が向く。そこからは一瞬だ。
煌めく赤い光が少年のの肢体を縦横無尽に駆け抜けていく。法則がないように見えながら一定の様式を有する紅の彩りに目を見開いた男が声を上げた。彩りが奔る場所から傷までもが失われる。視線を引っ張られた仲間が身体を揺らし、あるいは声に驚いて少年に顔を向けて同じ反応を示した。継いで既に衣服としての用を成さなくなっていた白い布が風も受けずにはためいたかとおもうとやはり黒と赤で構成された装束へと織りあがる。
世界を見ることを止めていた灰色の瞳がのろりと男達を見つめた。鏡のようにただそこにあるものを映し込んだ虹彩が瞬き毎にその暗さを増す。輝きに飾られるが故にますます漆黒が際だつ身体、その中で唯一元のままの色を宿す貌、薄い唇が蠢いた。
「……解った」
囁きと共に床へついた手を支えに少年が立ち上がる。それを認め今更ながらどよめき臨戦態勢を取った男達からは興味を失い、彼は天上を見上げた。いや、正しくはその向こう側を。
「螺旋生命体は、滅ぼされなければならない」
目覚めた宿命を知った少年が言葉で認める。応じるように末端から彼の身体は光の立方体に、そして粒子へと変換された。予想外の事態に狼狽え、殴りかかろうとした男達は彼を見失う。闇の使者が再びその姿を構築したのは遠く離れた人類最大の都市、元は彼の兄貴分であった男の名を冠した場所の上空だった。
世界からの干渉を断るように黒い衣服も夜色の髪も風に揺れはしない。背後に自分と同じ役割を負った兵器が現れることを知りながら、彼は、シモンと呼ばれた少年は、口を開いた。
「…人類に、告げる」
抑揚のない声は彼の喉だけではなく街中の音響・映像機器から流れ出る。どよめく街を見下ろして彼は自分が生まれた世界に永遠の決別を告げた。

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