書いた人間はこれで和気藹々としてるつもりだったんだ!
一人称でギャグ。
前略、兄貴様。事件です。
考えすぎて頭痛がしてきました。進退窮まってます。なにがというと、カミナのことです。
カミナと言ってもあなたじゃなく、ちっこい方のカミナのことなのですが(とはいえこの子はあなたにそっくりです。髪の色も、瞳の色も、意志が強くて少し頑固なところも)。
幸い、親代わりの俺に至らぬところが満載ながらも元気で優しいよい子に育ってくれました。まだまだ小さな子供だと思っていましたが時折頼もしい言葉や表情も見せ、保護者としては嬉しいような寂しいような複雑な気分ではあります。
しかしまあそれはそれとして、俺は非常に困った事態に追い込まれているのです。きらきらした綺麗な赤い目がにっこり笑ってこんなことを言います。
俺は シモン以外は 好きにならねえ
これだけならまだいいんです。狭い世界で育てられたカミナにとって、確かに家族と言えるのは俺とブータくらいなもので、だから今のところカミナには選択肢がなさすぎるだけ。そのうちきっとキレイで可愛くて優しい、自分だけの女の子をみつける日が来るでしょう。だというのに。
だから 俺は シモンが 欲しいんだ
これはいけません。駄目だよね、兄貴?いや子供の親に対する独占欲ならいいんだけども、しかしカミナの示す親愛の情はちょっとその範囲を超えているんだよ兄貴。こんなことを言いながら、俺に接吻してきたりするんです。おまけにどこで憶えてきたのやら(ここにはまともなエロ本すらありません)、舌まで差し込んできたりして。カミナ、そういうことはお父さんとじゃなく恋人としなさい!予行演習も必要ありません!!
シモンは 俺の 親父じゃねえだろ
ああ生意気なことを言ってくれます。確かに年齢的には若すぎますが、それでも親代わりと思って育ててきたというのに。しかし問題はそんなところじゃありません。下手すると嬉々として俺の服を脱がそうとまでする、というところです。
このままでは俺の可愛い、そりゃもう手塩にかけた大事なカミナが性の迷い子になってしまいます。弱冠21歳の童貞(でも非処女です)野郎が幼子の面倒をみようとしたのが過ちだったのでしょうか。ああこの子だけは日蔭の道など歩ませず、世間一般人並みの幸せを掴ませてやりたかったというのにどうしてこんなことに。
確かにオナ…もとい処理方法は手ずから教えてやりましたが、そんなのは人間の伝統のようなものだよね兄貴?俺もあなたに教わりましたが、あなたにはヨーコがいたし俺もニアと…ええ、ニアと婚約しました(婚前交渉?しなかったよ畜生)。だからそれが決定的な誤りを呼ぶとは思えません。
良く判んねえから シモンので やってみせろよ
とかなんとか、あんまり可愛くカミナが言うから、まあ見せあうくらいなら普通の範疇だろうかと惑わされた自分を殴り殺したい。
普通な訳ねえだろこのスカポンタン!
どうも俺はあの子の頼み事には滅法弱くてなんでも叶えてやりたくて、つまりええかっこしいになってしまうのです。馬鹿か。手淫見せるののどこがカッコイイんだ死んでしまえこのスットコドッコイ。
ああ可哀相なカミナ。なんてことだ。俺なんかに拾われたおかげでこの子は斜め上を突っ走っています。
いや冷静に考えればこの箱舟の構成が悪いのははっきりしてるんだ。
俺と子供をこさえないようにクルーは男性しか来ないし、彼らも定期的に顔触れが入れ代わるのでカミナは俺以外とまともに人間関係を結べません。
それが心配でもあってあの子には散々地上に行くよう説得を試みたのですがカミナは頑として受け入れてくれないのです。
俺もこの子が可愛いし、離れるのは辛いし(手放したら最後、カミナはここに戻らない公算が高いから。地上には彼が見つけるだろう新たな大切なものが待っているだろうし、なにより例外を嫌うあの現総司令は…こんな風に彼を他人行儀に呼ぶのも寂しいことですが…二度とはカミナがここに在住することを許してくれないはずです)、保護者のくせにこの子の存在に甘えてまだ大丈夫とズルズル先延ばしにしてしまいました。
早いところちゃんとした養育者をつけてやってこの艦から降ろしていれば、まさか14も年上のしかも男を押し倒そうなどと言う不埒な考えをカミナが抱くことなどなかったでしょう。
そもそも男をそういう対象として捉えようという考えがカミナのどこからやってきたのか、問い質すべきなのかも知れませんが怖くて出来ません。
或いは、まさか、俺がクルーにされたことをカミナは見たことがあのかもしれないと思うと冷や汗どころか心臓が止まりそうです。あれだけはこの子の耳目に触れさせまいと努力してきたのですが、無駄に終わったことがあったのかもしれません。
怖くて訊ねるができない俺は、保護者失格です。
搭乗員達の中に嫌でも含まれてくる男達のように、カミナに便所扱いでもされたら流石に死にたい気分がします。そりゃもうこの檻の世界から足を踏み出して爆発四散した上人類を巻き込むという壮大な自殺も辞さない覚悟です。いやいざとなったら大人しく首でもくくりますが。
思い起こせば確かに一度、しかもかなり決定的なことはありました。まだ地上にいたころ独房に突っ込まれ、看守たちにまわされた時のことです。思い出したくもありませんが、あの時確かにカミナはその場に居ました。あの時ばかりは俺からカミナを奪わずに置いた首脳部への恨み言で頭と胸がはち切れそうになったものです。
聞かせないよう見せないよう、目をつぶれ耳を塞げと言った上で俯せに抱きしめて隔離したのですが、足りなかったのでしょう。必死ではあったのですが今思えば当たり前です。覆い被さった俺は、後ろから犯されていた訳で、つまるところカミナは至近距離で強姦を経験していたのです。
あの時カミナはかなり小さかったので、泣きはしましたが俺が殴られている時と反応はそう変わりませんでした。俺がされていたことが解っていなかったのだろうと、それだけが救いだったのですが。
…ええ、なぜ兄貴に今取り急ぎこんなことをご報告申し上げているか、ですって?決まってます。大ピンチだからです。
いるんです。カミナが。俺の腹の上に。
子供の頃から確かに同じ寝床で寝ては来ましたが、この体勢は寝るには辛いというかとどのつまり俺これ押し倒されてるよね?上着捲り上げられて腹とか出てるし腕は押さえつけられてるし。
今こそ生娘のように悲鳴をあげるべきでしょうか。いやしかしそれは成人男性としてどうなの俺。
ていうかこいつ俺の二分の一しか生きてねえ!そんな子供にこんな体勢を取らされていいものでしょうか。ここはガツンと怒るべきなのかと思うのですがうわちょっと待てカミナ胸撫でるなっ!
は?シモンは外見若いから平気?ああそう…じゃねえよ!親指を人差し指と中指で挟んで突き出すな!こんな下品な仕草をいったどこで憶えたんだろう。こいつ段々あなたに似てきてるよ兄貴、やっぱり名は体を表すのかな
じゃあ首都にカミナシティてつけたのまずかった?
ちょっと思考が明後日に飛びかけている間にしまったベルトを抜き取られました俺の貞操は風前の灯火ですっていやもう貞操なんてとっくのとうに引っぺがされて生ゴミに出されてしまったのですが。
待て待て待て、血迷うなカミナ、うっとりした声出すな人の腹筋なでくりまわすなスベスベしてて気持ちいいってその感想は間違っている!きっと年頃のお嬢さんの肌の方が万倍触り心地がいいよってお父さん思います。
第一男同士の裸の付き合いは風呂場でやるもんだ、ってなんだその相槌、え?風呂なら確かにすぐ体洗えるから効率がいい?頭いいなシモンってバカ全然違うよ!お前はなにも判ってない!
大問題なのはカミナが全く以て真剣だと言うことです。おふざけでも興味本位でもないということなのです。至極真剣な、やけに大人びた顔で、俺に向けて愛してるなどと囁くのです。そんな言葉はもっと大事な人に使えよと口では言いつつ狼狽えてしまう、俺は、本当に愚か者です。ここでカミナを受け入れて箱船に閉じ込めてしまうことなんて簡単にできるけど、だからってそんなことをしてこの子の一生を棒に振らせるなんて許される筈がない。俺はこの子がとてもとても大事なので、だからこそ今カミナがしている行為は全力で止めなければ…いけない、筈なのですが。
シモンは俺のことが嫌いなのか、だなんてそんな寂しいこと言うな。大好きだし大事だし愛してるに決まってるじゃないかって違うアホそういう意味じゃないったら!
俺のちんこ突っ込まれるのが嫌なのか?ってお前その質問いくらなんでもストレート過ぎるだろもうちょっとオブラートに包めよムードとか考えろ、いや違うそういう問題じゃないぞ俺、そこフォロー入れる場所じゃないよ俺。
じゃあ俺に突っ込む?じゃない!俺を犯罪者扱いしないでくれ!
なら俺が突っ込むしかない?いや、その結論はおかしい。そもそもなんで突っ込む突っ込まないの話になるんだ?愛してるから?だったら少しは我慢しろよお前も!
恋愛はキアイだ、キアイのアイの字は愛だ!?ち、違う!断じて違うぞその変換!!お前俺と違って子供の頃から文字の勉強してるくせになんだってこんな時ばっかり都合良い間違いを犯すんだ…ってうわ尻を揉むな首筋舐めるなそこは爆弾入ってるって知ってるだろう!?
…カミナがこんなぶっ飛んだ思考回路を備えてしまったのには育ちが関係しているのでしょう。この子のご両親には顔向け出来ないことこの上ない。本当にごめんなさい、俺なりに一生懸命愛情を注いで育てたんですけど。
片親だったのがいけないのでしょうか。そもそも俺も親の記憶がないのがまずかったのかもしれません。我ながらコミュニケーション能力に欠けることには自覚があるのですが(そのせいでロシウにはなにかと苦労をかけてしまいました。俺がもっとしっかりしていれば…いや、今はこの話題はやめておきましょう)、そのせいでしょうか。
あああ思考は螺旋状に堂々巡りですがカミナの方は一直線です。駄目だってば人の急所に軽々しく触れ…っギャァ!い、いや痛いんじゃないけど痛いのとは違うけど、だから駄目だと何回言えばなんで解ってくれないんだカミナァ!
なんかもう考えすぎで頭が痛いです兄貴。ついでに目の奥も鼻の付け根も痛いです。いつの間にやらガキのようにぐしぐし泣いてました、俺。
その子供のような俺を眺めて、カミナが、バツの悪そうな顔をしています。つーか見るな。頼むから。ついこの間まで毛も生えてないようなチビだったくせに、やったらめたらに優しい顔で人の涙を舐め取ったりするな。色んな意味で俺の心臓に悪い。首の爆弾の力を借りるまでもなく爆発しそうです、兄貴。こんな時俺はどうするべきなんでしょうか。…取り敢えず、この愛しくてムカツク子供を部屋から追い出すべきなんでしょうか。でもそうするにはこの子の体温は、俺にとって分かちがたいものなのです。振り払えはしなくなってしまっています。
きっと、一番駄目なのは、カミナの歪んだ慕情ではなく俺の間違った愛情です。わかっちゃ、いるんだけども。嗚呼。
…もう一度口の中に舌を突っ込まれたので、流石にぶん殴って追い出しておきました。まだ、一応俺の理性は健在のようだよ兄貴。
ぶぃー。腕の中で鼻を鳴らすブータを見下ろし、更に慰めとして身を擦り寄せられたカミナは大仰な溜息を吐いた。
「…泣くのは反則だよなあ」
今日こそはと思って挑んだ決戦も、シモンに泣かれてドローゲームだ。折角上手いこと押し倒したのによぅと、部屋の中に閉じこもったシモンに聴かれればまた機嫌を崩されるようなことをカミナは平気で口にする。
「まあでも、一度押し倒せたからな!次はもうちっと先まで行けるぜ!」
指突っ込むくらいは出来るかもしんねえな。意気揚々と言って小さな獣の喉を撫でる指に、肯定するようにもう一度鳴き声が上がった。
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