監獄とかマジ21シモンさんはシチュが豊富やで
終わった、のだと。
なにがと考える前に感じていた。
出来たことが何かあったのだろうかと迷ってももう全ての考えが間に合わない。
本当はなにかをすべきだったのだ。自分が目的を見失った船になっていることに気付かなければならなかった。
…けれど、もう、遅い。
地位を示す白い服を着て、白い紙にサインをして、そうして段々陽の光を忘れた白い肌をした人間になって。いつの間にか自分であることすら忘れていたのかもしれない。
結局ツケが回っただけなのだと思ってしまえばもう逆らう気力も湧かなかった。おそらく反抗すればするほど自分より周囲に迷惑がかかるだろう。これ以上重しになるわけにもいかなかった。
いつからだろうか、耳慣れてしまったロシウの感情の無い声が耳の奥で反響する。
あなたは、このほしから、ついほうされます。
それがアンチスパイラルとやらが呈示した条件だった。この星の中で一番螺旋力が強い、つまりは反抗心の強い自分を放逐する代わりに100万人という居住限界への対処を行う時間を与えるそうだ。自分がいなくなった後、そのリミットにどういう方法で対処するつもりなのか尋ねたかったのにできなかった。規定を越えましたと言われてではすぐに人口を100万以下にすることなど出来はしない。妊娠中の女性はごまんといるのだ。ならば間引きでもするのか?その選定条件は?…吐き気がした。そんな世界にはさせたくない、させるぐらいなら全力で逆らっていっそ散る。
だがそんな考えを持つのはシモン含め少人数に過ぎないのだろう。石以て追われた英雄は自らが築いた世界に足を掬われていた。全ては皆が幸せに暮らせる世界を造るため。そうと思った自分が一体どこで間違えたのかとりとめのない思考では答えが出なかった。
手枷をつけられ独房に放り込まれた今となっては寸劇裁判で役者をこなすこと、そして言われるままに追放されることくらいしかもうシモンが世界のために出来ることはない。
「…シモン」
巡る思惟を断ち切る心細そうな声と共に、脇腹が温かくなった。子供が身を寄せてきたのだと知って慌ててシモンは視線を降ろす。不安に染まりきった瞳とかちあって申し訳ない気分が湧いて出た。何の罪もないというのに、この少年はシモンの判断ミスでこうして共に独房に放り込まれている。子供は完全な被害者だ。ムガンの攻撃で倒壊した家屋で親を失い、火災から庇うためにシモンがグレンラガンに乗せただけにすぎない。
拘束されてからこっちこの子を保護して貰う機会を探り続けはしたが事務的な作業以外に興味のない看守達はシモンと言葉を交わそうともしなかった。それも一種の職務に対する忠実さなのだろうか。判断がつかない。どことなく漂うぞんざいさは正に法務局長を務めている古い知人の性格をそのまま映し出してはいた。
「大丈夫、だ」
自分自身はともかくとして、この子供だけは必ず無事に外へ出してやらなければ。
決意も新たに幼い身体を引き寄せようとしてシモンは自分が随分不便な状態にあることを思い出した。両の手首は金属でできた戒めで繋がれている。仕方なく輪になった腕を子供の頭に通して抱寄せた。あわせて小さな手がきゅっとシモンの腹に回る。
「大丈夫…俺が、君を守るから」
他に頼る者もない少年は、色が無くなるほど唇を噛みしめてこくりと頷いた。
「強い子だ、カミナ」
空色の髪を撫でてやりたくても手が自由にならず、シモンは代わりに頬摺りする。少しだけ口許を緩めた少年が赤い目を細めた。その顔に既に失った兄貴分の面影を見出しかけた自分を知って子供に見えないようシモンは自嘲する。喜怒哀楽どれに属する経験でもなにかがあれば必ず心に焼き付けた相手に逐一報告してきた。が、今どんなに自分の立場が危ういとはいえそれを小さな子供に被せてしまうのではあまりに情けない。
確かに子供の名前は兄貴と同じものだったが、グレン団首領の名を生まれた子に冠するのは流行りのようなものだった。このカミナは髪と瞳の色、そして見間違いでなければ顔立ちも兄貴分に似てはいるが。
せめてこの子だけは、自分の手で。そうと己が思い詰める理由を知っていて、シモンは抱く腕に力を込めることで苦痛をやり過ごした。ちらつく影を振り切れずに勝手に瞼が落ちる。
ニア。守らなければならなかった女の子。優しくて温かで気持ちの良い言葉をくれた人。
そして、人間を裏切った女。
感情のない目をしたあれがニアでないのなら、どんなに救われることか。せめてニアではないと自分を騙せさえするのならまだいいものを、シモンの直感は自身に事実から目を背けることを許さない。
あれは、ニアだった。シモンの知らない言葉を喋るニアだった。
感情が求めるように泣き叫べば少しは楽になれるのかもしれない。だが、そうしてしまえば涙と共に築き上げた自分すらも流れ落ちるだろうと判っていた。
「…ぶーぃ?」
耳元で心配そうにブータが鳴く。力無い笑顔を返してシモンは相棒にも頬を寄せた。
「付き合いのいい奴だな、お前も」
それこそ逃げる機会などごまんとあったはずの獣は、子供の頃から傍にいる相手に心外だと一鳴きしてみせる。つんと鼻を高く上げた仕草に忍び笑いが漏れた。大丈夫、まだ俺は一人じゃない。
「こいつ、シモンの…か?」
まだ被災の衝撃から抜け出せないのかどことなくぼんやりとした子供の目がもぞもぞ動くブータを捉えた。気を利かせたブータがぼとりと空色の脳天に柔らかい体を落とす。
「ん…?ああ、俺の友達だ」
大の大人が小さな獣を友と呼ぶことをカミナはおかしいとは言わなかった。その代わりに丸い膝の上までずり落ちてきた獣の喉をさする。サングラス越しに目を細めたブータが小さく鳴いた。薄暗く狭い独房には、二人と一匹の呼吸と体温以外に彼等を慰めるものはない。
「…君、名字は?」
牢獄を満たす静寂は光源の少なさ以上にその場を寒々しく見せていた。子供の怯えを軽減するためにシモンは申し訳程度に誂えられた寝台に腰掛け、膝の上に載せたカミナに問いかける。
「…?」
「ああ、えっと前に住んでいた村の名前」
質問の意味が解らないらしい幼い子供が首を傾げたのを見て元総司令は言葉を足した。
「おぼえてねえや…」
しばらく考え込んでブータの毛を弄っていたカミナが頭を振る。名字を名乗るのは人口統制計画の一端ではあったが、徹底されていたとは言い難かった。地下に暮らす人々や地上に出てきたばかりの人間には馴染みが薄い習慣で、つまりこの子にとってもそうなのだろうとシモンは見当を付ける。
「地上には何時来たんだ?こっちで生まれたのか?」
もう一度空色の髪を揺らしてカミナは見上げたシモンの瞳を覗き込んだ。
「ちがう。前は、地下にいた。でも、もうそっちで暮らしてちゃ駄目ってさ」
気を紛らわせるための会話で次第に滑舌を取り戻した子供は問いかけの先を答え出す。
「…そっか」
カミナは自分の言葉でシモンがどんな衝撃を受けたかも知らずに素直に首肯した。すぐには言葉が出ずに沈黙を落とした隙に、赤い目が自分を抱く腕を戒めた金属に視線を留める。歳にしては華奢に見える手首を固めた拘束をさすって急に心配になったらしいカミナがまた顔を上げた。
「あのよぅ、シモン?これ、痛くねえ…」
だが言い切れないまま独房に響いてきた足音を耳が捉えて子供は身を固くする。捕えられた時下手に抵抗して子供の目の前でしこたま殴られたのは失敗だったとシモンが舌打ちしている間に格子の向こうへ人影が並んだ。無力なりに毛を逆立てたブータが彼にしては珍しく唸り声を上げる。
「…っ」
警戒を露わにしたカミナの肩が跳ね上がった。それを宥めてやるより早く扉が内側に開いて看守たちが尊大な足音と共に入ってくる。
「雁首揃えてなんの用だ?」
子供の不安を払拭するためにシモンは敢えて鼻で笑い目を眇めた。しかしその態度は獄卒たちの顔に下卑た笑みを呼ぶ。
「逆らうと心証悪くなるぜぇ?」
舌なめずりまでする醜悪な声に藍色の眉が顰められた。今更心証もなにもない、処分は疾うに決まっている。これから行われる裁判は形式だけの、既に出された結論を周知させるための儀式だ。人間には法が、自分達を結束させ守る力のある政府が存在するのだと民衆の目を騙すための。あれだけのことをしでかした男でさえ、公正な法の下に裁かれ罪を下される明るく美しい正しい世界、その虚像を民衆に信じ込ませるための寸劇だった。
しかし末端の人間はそれを知らないのだろう。ある意味当然だ、極一握り以外に知られていてはそもそも目くらましの役に立たない計画なのだから。
どこまでも生け贄でしかない自分に笑うしかなくなったシモンの顔をどう勘違いしたのか看守の数名が不快を露わに鼻を鳴らす。一歩前に出た獄卒の一人が、胡乱に見つめる灰色の瞳に見せつけるようにして鉄色の盆を床に置いた。上には色が薄くて具の見あたらないスープとそれを注いだ厚みのない皿が乗せてある。それ以外に食器は見あたらず、そして人数分でもない食事にシモンの眉間に皺が寄った。
「食えよ」
プレートの端を爪先で小突き、嘲笑うのと同じ口が命じる。どうやって、と間の抜けた質問を口に昇らせかけたシモンは芸を見物する目つきに要求の仔細を理解した。要は獣のように手も使わず貪れと言いたいのだろう。囚人をいいところ玩具としか思っていない看守達の瞳は末端の教育がまともに行われていない証拠だ。彼等は自分達が着込んだ権威に酔っている。
自分もそうだったろうか、と考えが頭を掠めてシモンは硬直した。与えられた総司令という椅子に自分は酔っていただろうか。欲しいとも思わなかった立場だというのに。最初から権力の殆どを周囲に委託してどこか安堵してもいた。働く者が搾取されるのが当たり前の村で生きてきたシモンには、仕事を行っていさえすれば与えられる居場所さえあればそれで満足だったからだ。しかしそれは責任逃れの一形態ではなかったか。
心臓が凍るような錯覚にすぐには命令を果たせずにいるシモンを見て苛立った看守が腰に下げた警棒へ手を伸ばす。それを認め、肩にブータを乗せたカミナが膝から飛び降りた。
「…カミナ!?」
子供の動きに意識を引き戻されたシモンが止める暇もなくカミナはプレートへと駆け寄る。そして手を伸ばして零れるのも構わずに皿を乱暴に引っ掴んだ彼はその端を口に当てて中身を煽った。こくりと嚥下する喉の動きを唖然と見遣った看守達の前で息を一つ、銀の皿を振りかぶる。予想外の子供の動きに呆けていた獄卒の一人の額へ皿が直撃した。
「ザマァみろってんだ!」
鼻で息したカミナは気丈に大人達を睨み付ける。色めき立つ獄卒達と対峙した子供は両腕を広げて背後のシモンを庇う仕草を見せた。
「シモンにひでぇことする奴ァ俺が許さねえ!」
爛々と輝く赤い目に睨め付けられ、幼い声に責められて欠片の良心が顔を出したのか制服に包まれた男達の幾人かが怯む。しかしそれよりもカミナの言動行動に激昂した者達の感情の方が強かった。
お返し、とでも言うように振り上げられた警棒を見て考えるより先にシモンの身体が動く。拘束された腕では幼い身体を引き寄せることも敵わず、とにかく危害から守るために無理矢理体をねじ込んだ。盾になったシモンの脳天に男の得物が直撃する。
「シモン!?」
幼い悲鳴と聞き慣れた鳴き声が上がり、白く染まった視界が元に戻ると同時にシモンは自分が床に崩れ落ちていることに気付いた。鈍りやがってと己の体に毒突きながらまだふらつく頭を上げて子供の無事を確かめる。
「…っ…だ、いじょうぶ…か、カミナ?」
自分の挙動でシモンに怪我をさせたことに動揺していた子供は、気遣う言葉に弾かれたように倒れた身体へ抱き付いた。床に降りたブータもシモンの体を駆け上がる。
「シモン!」
名を呼んで縋る子供が謝る前に先んじて場違いなほど柔らかな声が落ちた。
「いいから。約束したろ、守るって」
狼狽えた子供を落ち着かせるための声音は、粗野な大音声に上書きされる。
「総司令殿は嘘を吐くのがお上手だなあ!」
傷つけるために発された台詞に赤い目が棘を持った。追って見上げた先でのろのろと影のような男達が動き、逆らう力を持たない二人を囲み始める。支えているのか抱きついているのか、首に回ったカミナの腕が狭まった。誰だかも特定できない声がシモンを責める。
「俺たちのことは守ってくださらなかったってのによぉ」
眼裏に焼き付いた街を舐める炎がまたぞろ揺らめき、英雄だった青年は痛みを堪える表情を浮かべた。首に腕を回した子供がその代役とでも言うように怒りを男達に向ける。
そのどちらも意に介さないまま、藍色の頭を抱き込んで庇おうとする子供と囚人に罵倒が降り注いだ。
「俺達のこともそうやって耳障りのイイ言葉で手懐けてたんだ、ガキに色目使うのもお手の物ってか」
言葉の意味が全ては解らずともシモンが侮辱されたことを受け取ったカミナが空色の毛を逆立てる。今にも噛み付きそうな風情を察してシモンは肩を子供の胸にぶつけた。
「言わせときな」
「でもよぅ…!」
諫めたシモンにカミナが悔しそうに反駁する。しかしそれ以上彼が何かを口にする前に、二人を囲んだ男達が動いた。
「…っ」
脇腹を蹴られ、その勢いでシモンの体が倒れる。巻込まれ転んだカミナの頭を咄嗟に腕を回して守るのが精一杯でシモン自身は受け身も取れなかった。
「街ぁ燃えちまったぜ、どうしてくれんだよ!」
「責任取れよ、総司令様!」
その真実よりもいたぶることを主眼とした言葉に耐えきれず、拘束された腕に抱き込まれたままカミナが怒鳴る。
「シモンはなんも悪いことしてねえ!
変なバケモン倒してくれたし、俺のことも助けてくれた!
よってたかってシモンをいじめる、お前等みたいなヒキョーモノとは違う!!」
がなりたてた子供に立腹した男がカミナを蹴り飛ばそうとした。気付いたシモンは体勢を入れ替え、肘と膝で支えた身体の下にカミナを護る。運悪くブーツの先がこめかみを掠め、また数秒意識が刈り取られた。
「シモン!おい、しっかりしろよ!シモン!?」
取り乱した子供に連呼されてなんとか頭をしっかりさせたシモンが頭を上げると同時に看守の一人がその前に立つ。衝撃に身構えたシモンの腕がしっかりカミナの体を引き寄せた。が、今度彼に与えられたのは暴力ではない。
「少しぁ俺たちの役に立ってくれよ」
粘ついた声の熱に気付くのと目前で男の制服の股間が緩められるのは同時だった。思わず顔を引きつらせたシモンの鼻先に男性器が晒される。
「カミナ!目ェ閉じてろ!」
咄嗟に叫んだ声に身体の下へ押し込められた子供がなんでだと狼狽えた。しかしそれに構うだけの暇を与えずに看守の野太い指が藍色の髪を握りしめて無理矢理細い首を上向かせる。
絶対的な優位を持つ者達が囚人で発散するのは攻撃欲求だけではないということだ。鼻をつく生臭い体臭に吐き気を呼び起こされてもシモンは抗えない。口を開けと指示されれば言うとおりにするしかなかった。どうせここで言いなりになっても自身の待遇には何ら変化はない。けれど巻込んでしまった子供にこれ以上の危害が生まれる可能性を思えば唯々諾々と従う以外に道はなかった。相方の心を汲んだブータがカミナの顔面に貼り付く。
「…目、つぶって耳塞いでな。すぐ終わる。ちょっとだけ我慢しててくれ」
低く抑えられた、されど優しい声音に狼狽を沈めてカミナが小さく頷いた。本当は嫌なのだろうにシモンが言うならばと子供は自分の手で己の頭を抱え込む。任せておけとばかりにブータも鳴いた。
「すまない。カミナ」
お前の生活を壊したのも、お前から両親を奪ったのも、今こうしてお前が辛い思いをしているのも、全部俺のせいなんだ。だから、せめて、お前だけは俺が守る。
全てを失った空っぽの腕の中、たったひとつ抱き留めることを許された少年の体温を離さないように腕に力を込める。触れる子供の存在にどうにか自我を保ち、シモンは促されるまま男の逸物に舌を伸ばした。
血管の幹に添えられた舌を辿って勢いよく半勃ちの性器が口を占領する。肉に浮かぶ血管を軽く触れた歯先で確認してしまいもがきかけたが、シモンの反抗よりも頭を掴んだままの男の動きの方が激しかった。
奥歯に触れるほど推し進められた亀頭が頬の肉をこそげるように暴れる。唇をめくり返す勢いで前後する陰茎に大きく広げられた口端から唾液が溢れた。舌の奥を擦られて吐き気がし、蠕動した喉につられて口腔が震える。口の中に溜まった唾液と混ざり合った先走りが潤滑剤代わりになって男が前後する動きに合わせじゅぷりと卑猥な音を立てた。
擦りつけられる生臭い臭いと強い苦みを発する体液に味蕾が痺れ、厭った舌が蛇口を塞ぐように尿道口を押す。それを奉仕と受け取って調子に乗った性器はシモンの舌を絡め取るように腰を使って円を描いた。口の中を抉られ、苦しさにひくついた喉が酸素を求めて不用意に息を吸い込む。相反して震えた口壁の刺激と相まって口に含んだ性器が暴発した。
「…っ!!」
鼻孔に逆流しかねない勢いで注がれた白濁が咽奥に詰まる。呼吸を塞がれた苦しさで目尻に浮かんだ涙はむしろ男達の暴虐の火に油を注いだ。
「サボってんじゃねえよ」
吸いついたまま途中まで吐き出して口に残した先端部へ舌を添わせる。ちゅるりと吸い上げた尿道から一度目の放出のあまりが口の中へ飛び込んだ。もういいだろうと唇を開き、息を整えようとしたシモンの額にまた別の男が己の性器を差し出す。
息のためだらしなく開いた口を、頬を叩かれまたすぼませられる。シモンの痴態を見て興奮したのか既に体液にまみれた勃起が口をこじ開けて中に入ってきた。数度前後された後に今度は言葉で指示を受け、舌で鈴口から垂れ下がった汁を辿って睾丸まで啜らされた。
脳髄まで突き刺さるような刺激臭と味、そしてまともに呼吸も出来ない状態に意識が朦朧とする。奉仕の動きが鈍ってきたことに気付いたのか、順繰りに藍色の髪を掴んでいた手が離れた。疲れた首は頭を支えきれず、ごとりとシモンは床に頭を落とす。
しかし囚人に対する虐待がそこで終わるはずもなかった。シモンの口で事を果たせなかった男達はいつの間にか拾い上げていた食餌の皿に自分達の精液を落とし込む。
「飯、ガキに横取りされて腹ぁ減ってんだろ?味わえよ」
下品にも程がある笑いを響かせながら、シモンの目の前に白濁で満たされた皿が差し出された。思考がぼやけてそれがなんなのか解らないでいる青年の頭がまたも掴み上げられて精液の溜め込まれた皿に顔を押しつけられる。息もままならずにたまらず咽せたシモンを男達がせせら笑った。後頭部を踏みつけられてていてはぬめる体液から逃れることも出来ない。酸素を選るにはまず鼻と口を押しつけられている生臭い白濁を飲み干すしかなかった。
そういえば、確かに昼にニアが持ってきてくれた弁当以外は何も口にしていない。仕事に忙殺されて夕食を摂れなかったことすら既に遠い昔のことのように感じた。
総司令。そうとして日常接してきたのであればまだ歯止めもあったかもしれないが、看守達にとってその存在は絵に描いたような存在だった。話しに聞いただけの英雄、雲上人。現実感のないその肩書きは、獄卒たちにとってただシモンを物珍しい囚人として彩る意味しか持たなかった。
本来触れることも叶わないような相手を蹂躙する愉悦を性交のスパイスにして男達の興奮は弥が上にも盛り上がる。
肩で息をしながら薄紅色の舌が白い粘液を舐め取る。上気する頬は興奮のせいではなかったが、シモンをいたぶる看守達にとってはそれも嘲笑の的だった。
「美味そうに食いやがる」
勝手な解釈への反論も許されずに歳にしては幼い容貌も毛先すらも白く汚しながらシモンは餌代わりの精液を貪る。酸素を得るためのはずだった行為はいつしかその全てを胃に収めることが目的としてすり替わっていた。とは言え途中でそれを断れば、また頭を踏みつけられただけだろう。乗り越える術は従順に従うことだけだ。
異様な空気が辛いのか、腕の中の幼いカミナが小刻みに震える。少しでも慰めてやりたくてシモンは上手く動いてくれない口をどうにか開いた。固まりかけた粘液で塞がりそうになっている喉が辛うじて声を操る。疲れた舌が紡ぐ言葉は幾分舌足らずになった。
「いい子、だ。カミナ。こわいことは、すぐおわるから」
ぐずりかけていた子供は諫める言葉に小さく頷く。ブータと共にますます身体を固める姿に胸が痛んだ。子供にだってヘタに騒げば状況が悪化すると飲み込めている。
自由にはならない枷に飲み下しきれなかった精液と唾液が混ざった体液が落ちた。それを情けないと感慨を見出す余裕すらシモンには与えられない。次の遊びを思いついた獄卒がシモンの着込んだ白い服の背中を掴んだ。
何が起こっているのか解らない間に身を包む布に刃が食い込まされ、布が破れる音に気付いた頃には背中が剥き出しにされている。ついで腰回りも切り裂かれて背骨の線が全て露わになった。尻を直接撫でられ、忘れていた悪寒が身を駆け抜ける。降ろされた下着が服の残骸と共に膝に溜まり動きを阻害していた。
シモンが体を揺らすよりも先に嫌に熱い体温が押しつけられる。男の股間から垂れ下がるものを触れさせられたと知って汚された顔が歪んだ。
「生ッ白いねえ。細っこいし毛も薄いし、ガキみてぇな体だな」
言われたとおり服を剥かれた肌は陽の光を忘れて久しく白い。二十歳を過ぎたというのに骨格の小ささはどうにもならず、そして体毛の弱々しさも言われたとおりだった。成人男性として、いや二次性徴を迎えた者として長らく気にし続けていたことを遠慮無く論われて散々好きにされていても羞恥心が湧く。視線から逃れたいのか無意識に捩った体をごつい手が尻を叩いて固める。幽かな抵抗さえ止んだことを見て取って頭上から嘲笑が降り注いだ。目尻を赤く染めながら俯き耐えるシモンが面白いのか嘲る声はいつまでも消えない。
そして指が弾力を確かめるように穴の周りを撫で回し、シモンの心の準備も待たず無遠慮に内側へ侵入した。爪と指の腹に擦られて内側になにかを留めることを拒む排泄器官がきゅっと窄まる。お陰で知りたくもない他人の指の形を生々しく感じ取る羽目になった。しかも抵抗を笑った男は更に奥へと指を進ませて中を押し開く。
気持ち悪いと口に出しそうになってシモンは唇を噛んだ。弱音を吐いては震えさえ我慢しているカミナに申し訳が立たない。それに、一度感情が決壊してしまえば堪えていられないような気がした。
シモンの葛藤に構わず二本に増やされた指が内壁を撫で回し、挙げ句左右に開いて柔軟さを確かめる。引きつる吐息を読み取った男は間を広げたままの形で指を引き抜いた。乱暴に扱われた入口が熱を持って充血する。閉じた場所が己の体温に驚いてひくつくのを止められず、それでもやっと異物がなくなってシモンは一息吐く。が、それも一瞬の余裕に過ぎなかった。尻の間をひやりとした感覚が走る。
「…!?」
温度の低いとろみのある液体が何なのか解らなくて思わず肩越しに振り返った。にやついた顔と目があってしまいすぐに背けかけた視界の端で、傾けられた小瓶からどろどろと白い液体が看守の股間に落ちていくのを捉える。
ああ、潤滑剤か。そのまま突っ込んでも気持ち良くないもんな。
バカに冷静に判断して、その冷静な部分が呆れ返った。そんなものまで準備して用意のいいことだ。男一人を犯すのに手間をかけて少しも疑問を抱かなかったのか。それとも、これは彼等がこの行為になれている証拠なのだろうか。腐りきった男達の思考回路など理解したくはなかったが、何かを考えていなければ意識が断ち切れそうだった。
考えに逃げている間に潤滑剤で濡らされた入口へ同じようにどろどろした他人の体温が触れる。噛み付くように締まるのが面白いのか、何度かこづき回した上で亀頭が体重を使って侵略を始めた。小刻みに震える筋肉の抵抗はあっさりと剛直に破られる。押し込まれた熱と身を裂かれる苦痛で上がりかけた悲鳴をシモンはどうにか噛み殺した。腕の中の子供にこれ以上恐怖を押しつける訳にはいかない。
一番太い部分を飲み込まされ、そこで一度看守の動きが止まった。強引に拡張されたせいで伸びきって皺の消えた門を撫で回される。血の集まった粘膜は敏感になり、びりびりと痺れる感覚をシモンの脳に送り込む。痛みはもう通り越していた。
喘鳴し、苦悶を振り払うように藍色の髪が宙で揺れる。粘膜が多少なりとも馴染んだと見たのか男の腰がゆっくりと動き出した。内臓を侵略する肉塊に胃を押されているような重たさが消えない。負担の掛かる体がみしみしと骨を鳴らした。
それでも与えられた潤滑剤を頼りに腸は肉を受け入れる。
「…っぐ…」
異物を追い出すために締めつけ、無体を働かれる苦しさに喘ぐ内壁に勝手に快楽を受け取った獄卒の息が小汚く荒くなった。更に暴虐を加えて楽しむために、肉塊を内壁ごとずるずる引きずり出され繊細な神経を刮がれて流石にシモンの喉からも呻きが零れる。
腸壁をこねくりまわされ背骨に添って冷たい電流が走った。看守とその性器に弄り回されている部分だけが吐き気を呼ぶほど熱い。揺さぶられるのとは違う痙攣まで起こり、それを押さえつけるためにシモンは子供の体を抱寄せた。幼い体温は獄卒の温度とは違い、慰めるように肌に染みこむ。
「…シモン?」
耐える必死さが伝わったのか小さな声が呼ぶ。息を荒げている連中には聞こえない弱さの音は意識を飛ばしそうになっていたシモンを勇気づけた。
「うん、だいじょうぶ」
緩く笑いさえした彼が気にくわなかったのか、カミナに向けていた顔が顎を蹴られ上向かせられる。待ち時間に飽いた看守の一人がまたシモンの目の前に彼の性器を突きだした。拒もうにも手荒く鼻をつままれては嫌でも息をするために口が開く。耐えきれなかった唇へ待ってましたとばかりにまた男性器が突き込まれた。えづく挙動すら楽しんで弾力のある肉塊が口の中を荒らす。
前後から揺さぶられ、意識に力を割り振るのも限界だった。看守達の欲求を満たし子供を庇うためにシモンは思考を放棄する。投げ出された体を、むしろその方が都合が良いとでも言うように熱気に酔った男達が嬲り続けた。
ぺろりと顔をなめ回され、その舌が敵意ではなく好意からくるものだと気付いてシモンは重すぎる瞼をこじ開けた。すぐ傍に見慣れた獣の顔と、そして上から覗き込んでくる赤い瞳が見える。どうやらシモンの裸の胸の上に乗っているらしいブータが鳴いた。顔にまとわりついていたはずのべたつきが消えていることを理解してシモンは相棒の労を労う。
「…掃除、してくれたのか…」
ぶぃ。耳に優しい鳴き声を出したブータが体を擦り寄せ、子供の指が額に貼り付いた藍色の髪を掻き上げた。遅ればせシモンは仰向けに寝かされて子供の膝に頭を乗せられているのだと自覚する。足が痺れるだろうにとカミナを気遣おうとして、固まった喉から引きつれた悲鳴が上がった。
「…っどう、した!?その頬!」
悪戯を見つかった顔で首を竦めたカミナに顔を青ざめさせたシモンが思うようにならない腕を伸ばす。痩せた指が触れないようなぞった少年の頬は青黒く腫れ上がっていた。
「…いたい、だろう…」
むしろ自分が怪我をしたかのように悲しげな声を上げたシモンに、カミナはニカッと笑ってみせる。
「ん!こんなん全然平気だぜ!」
一発殴られたけど三人蹴っ飛ばしてやった!
自慢げに鼻から息を吐いた少年は、シモンが肝を冷やしているのにも気付かず胸を張る。自分がどれだけ危険なことをしたのか解っていないカミナにどう言えばいいのか迷う内に、牢獄の中を静寂が満たした。まとまらない呼吸と身体中を走る痛みに難儀するシモンは目を開いていることすらままならない。力尽きたように再び双眸を閉じたシモンの髪を梳いてカミナは囁いた。
「…ごめん」
お前が謝ることなんかない。言おうとしてももう声帯も力尽きている。慰めさえできない無力感に苛まれるシモンにカミナは半泣きで許しを乞うた。すまねえ、シモン。
「俺がいなけりゃ、シモンはあんな奴等に負けたりなんか、しなかったんだ」
震える声は最後に我慢しきれず嗚咽を漏らした。暴行の間すらいいつけを守って泣かなかった子供が落とす涙を頬に受け止めて、シモンは声に出来ないまま呟く。バカだな。
お前が居なくたって同じことは起こっていた。むしろお前が居なければ俺は耐えきれなかったんだ。礼を言うのはこっちの方の筈だが、シモンにその体力は残っていない。情けなさに吐きだされた重い呼気を理解したブータが、シモンの代わりにカミナの肩へ駆け上がって丸い頬を伝う涙を舐め取った。
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