すごいでかい殺傷事件があったじゃないですか。あれまたなんか色眼鏡で報道されるのかなあ、と思ったらしょっぱい気分になったんですけど、そのしょっぱい気分になるのも被害に遭った方に申し訳ない思考だよなあとションボリ致しました。
兄さんところも上へ下への大騒ぎ…基、上層部が大騒ぎだったそうです。そりゃそうだ。
土曜日から日曜日にかけては「カロリーの会」ということで家主宅に集まっていました。お前等毎週集まってるなとか言わない。
今回実は全くの無計画作戦だったことが途中で発覚し、勝手に鍋会に変えました。酒が飲めないんだから飯くらい自分の好きな物喰わせろ!と強権発動です。
肉とエビもタンと食った、正直すまんかった。
しかし基本体調不良のお前はタンパク質摂った方がいいとか言われて温かく許されてしまいました。それもどうなんだ!
まあちょっと今自律神経が調子良くないのは事実ですけどもさ!
そして相変わらず仲間が集まると安心して寝まくる自分もどうなのよと思います。色々ごめんなさいね。
あと前回危うくMGズゴックを沈められそうになってた家主んちの水槽、今回さっそくエビ二匹が変死したんですが大丈夫でしょうか。
色が変わって浮いてたらしいけんども…しかしあの水槽に我らが触る訳もなく、何があったか謎です。今更水中に沈めたSDズゴックとグフカスタムの呪いでも起きたというのか…?
オマケはファイルから引っ張り出したりファイルのに付け足しして読める状態にしたり思いつきでザラっと書いたりそんなんなんですが、本来的にはどういった傾向のものが良いんでしょうね?
なんつーか、その、あの、ロジェさん捏造ばっかりもあれだし、更新滞ってるからせめてオマケだけでも…とか思うんですが…
やはりカミナか。カミナなのか。しかしカミナは絶望的に書きづらいんだ!ワー
今日はその昔書いて文章のこなれ無さ+その後の設定との齟齬、で完全お蔵な文章をつけておきます。
いいオマケもっとないかな…折角の酔っぱらいネタなのに全然美味しくなくて、書いた自分がびっくりしたという曰く付きの話です。
カミナは基本的に自分のやったことに後悔はしない。彼の信念に反するからだ。
…とは言え彼も今目の前で繰り広げられる光景に対しては多少ならずの困惑と反省を覚えている。
ことの発端は黒の兄弟が酒樽を持って合流してきたことだった。屋根のあるところで寝させてもらう駄賃だ、と言っていたキタンは既に煽るつもりで持ち上げた酒を頭から被る程に酔っぱらっている。
それじゃあと言って夕飯の食卓に酒を饗したヨーコは据わりきった目をしてリーロン相手に管巻いていた。リーロンはかなり飲んでいる筈だがそれをおくびにも出さず、ただしつこい同郷の少女をあしらうのに四苦八苦している。
ロシウは案の定一番最初に潰れ、ギミーとダリーを左右においてこんこんと眠っていた。ただ大人しく、かつ早くに入眠したのは彼にとって幸せな結末だっただろう。彼の良識は混沌とした状況に耐えられない。
三姉妹達は最初の内カミナにまとわりついて酌をしたり飯を食べさせたりあれやこれやしていたが、顔が赤くなった頃にはそれぞれ勝手に騒いでいた。兄にヤジを飛ばしたりヨーコと愚痴の言い争いになったり、正に女三人で姦しい。
そして。
カミナが一番扱いに窮しているのは、彼の可愛い弟分だった。慣れない酒に酔っぱらい、非常に機嫌よさそうに笑っているのは良いが正直手に負えない。
肉体労働に慣れた少年は小柄な外見を裏切って大食らいだ。食事時ばかりは兄貴分と争うように食べ物をがっつく。当然、固形物ばかりでは胸がつかえるから水分だってかっ食らう。
胃袋が幾つあるのかと思えるほど旺盛な食欲を見せる挙げ句に割と悪食の部類に入る少年は、慣れない味が舌に乗っても構わず水分を飲み干した。…つまるところ、水の代わりに酒を飲むという豪快な飲酒法を採択した訳である。
かくして身に余る酒精を摂取したシモンは、幼馴染みのカミナですら初めて見る奇行を披露するに至った。周囲もあまり正気でないのがせめてもの救いだろう。
酒に呑まれた人間がどうなるのか、多少の知識があればシモンもあんな暴挙には出なかった筈だ。あの時悪ノリしてガンガン飲ませなけりゃよかったと胸中で嘆きながらカミナはシモンが脱ぎ下ろしたズボンを引き摺り上げて再度はかせる。暑い暑いと繰り返していた少年の腹には既にサラシはなかった。
そして取り敢えず脱ぐのを諦めたかと思えば今はジャケットを振り回しながら訳の解らない歌を大声で歌っている。
フラッシュって何だ。何が光るんだシモン。あとお前は純然たる男の子であって女の子じゃねえ。それとだってだって繰り返してねぇで何なのかはっきりしてくれああもうさっぱりわからねぇよ。
いつもならカミナを押し止める側のシモンがタガを失ったことで、カミナは暴挙の世話をする側がどれだけ苦労するか思い知った。割れた茶碗の上を平気で歩こうとするシモンの脇に腕を差し込み持ち上げてどうにか怪我を未然に防ぐ。いっそロシウのように寝入ってくれれば楽なのに、人事不省とも言い切れないのがまたややこしいところだ。
抱寄せられたとでも思ったのか、シモンは楽しそうに笑い声をあげるとカミナの体に腕をまわす。小動物が懐くように頬をふにふにと筋肉質な胸に擦りつけてご満悦だ。
普段なら愛嬌のある顔だとカミナも機嫌良く受け入れられるところだが、彼も今夜ばかりは疲れた顔をして藍色の髪をぐしゃりと撫でる。
「もう寝ろ!」
横抱きにして寝床に連れて行こうとした途端、シモンは丸い頬を膨らませてジト目を向けてきた。
「兄貴はァ~?」
甘えた声を交えつつ胸の上でのの字を書かれ、俺も寝るよと言えばいいのにああだかうんだか中途半端な応えを返したのがいけない。目を輝かせたシモンは、当然のように言い放った。
「じゃあ俺も起きてる!」
兄弟なんだから一心同体!…正気の時に言って貰えれば嬉しい台詞だ。本当に。
そういえば前に帰る帰ると言い張った時も一緒に帰ろうであって独りで帰るとは言い出さなかったなあなどと回想に現実逃避しかけたカミナは、結局あまりにも現実的な感覚に意識を戻さざる得なくなった。
やべ、しょんべんしてぇ。
体質の問題なのかカミナは殆ど素面だが、それでもキタンとの飲み比べを始めかなりの酒量をこなしている。尿意を覚えるのもむべなるかなだ。仕方なく懐いてくるシモンを部屋の隅に下ろして外へ行こうとすると、そんな時ばかり素早く反応した子供っぽい手がズボンの裾を掴む。
「どこ行くの、兄貴ィ」
下ろされたのが腹に据えかねたのか、眉間にめいっぱい皺を寄せたシモンは掴んだ部分に自分をたぐり寄せてカミナの脚に抱きついてきた。
「便所だよ」
仕方なく正直に応じると、兄貴分の体によじ登るようにして小柄な体が立ち上がる。
「俺も、おれも行くぅ」
言った途端シモンの関節はてろてろと役目を放棄して軟体動物のように抱きついてきた。尿意がそこそこ逼迫していたことと、なにより振り切るのも面倒くさいし他に面倒みてくれる人員も無し、最後に多少物珍しさもあって結局カミナは弟分を伴って居住ユニットを出た。
「ほらフラフラすんな」
「してないよォ」
完全な千鳥足で右へ左へ歩をぶれさせるシモンは、当然のように出入り口の段差で一度こける。間一髪カミナがズボンを掴んだせいで免れたが何もなければ地面へ顔面から突っ込んでいたはずだ。
肩を貸してやっても真っ直ぐ歩けず抱えてやろうとすればむずがる、お荷物も良いところのシモンを半ば引き摺る形で居住ユニットから離れる。適当な坂と草むらに見当を付けて、この時ばかりはしようもないので弟分は横に置いた。何故か熱烈な視線を向けて目を逸らさないシモンにばつの悪さを感じながらズボンを下ろして褌の前垂れを外す。
「兄貴のちんこってでっかいよねえ」
さてことに及ぼうかという瞬間、ほんわかした声で突拍子もない評価が下った。
「うぁあ!?」
珍しく狼狽えて変な声が出ているカミナの脇腹に、驚かせた方が肩口を支えさせて彼の股間を覗き込んでいる。ずざっと身を引きかけてからカミナはそうもいかないことに気づいた。放尿は既に始まっている。
「村長のはぁー、こんくらい、だったかな?」
やたら機嫌良さそうにころころ笑いながらシモンは左右の手で幅をつくって長さを示した。続いてその手でカミナのものの尺を測ろうと試みる。
「こらこらこらっ!」
流石に流出中のものに触れられたくなくて腰を捩ればなんと考えたのか満面の笑みのままシモンはこともなげに請け負った。
「大丈夫だよぉ兄貴ィ。恥ずかしがらなくても兄貴のはすごい立派だから」
「…比較対象が誰なのか訊かねえ、訊かねぇぞ俺は」
一瞬で色々想像し、想像自体とそれを生み出した己に疲れたカミナは押し殺した声で念を押す。だが、言葉の機微など勘ぐれないへべれけ少年は当たり前のように台詞を続けた。
「あのねぇ、村長とねえ、それからブタモグラの解体やってた人た…」
「言うなっつってんだよ!」
舌っ足らずに指折り数える弟分に、やっとことを済ませたカミナはパチキを食らわす。へにゃついた体は素直に尻餅をついたが、力が抜けている分怪我も無く瞳をぱちくりさせただけだった。
「だって兄貴、穴掘り師にすっごく短い人が」
何が悲しゅうて故郷の男根調査結果を訊かねばならんのか。しかもどういう訳かあどけない少年の口から。
「あーもぅっ口塞ぐぞ!」
一向に黙らぬシモンに遂に我慢出来ずカミナは裏返った叫びを放った。が、普段なら気圧されるだろう声音にも細い首がかしげるだけだ。
「なにで?」
気になるのはそっちかよ! 胸中で突っ込んだカミナはぺたりと座り込む隣に不良座りで腰を落とし、視線の高さを合わせる。シモンは指を噛んで思索を巡らせていたようだったが、ふいに兄貴分を振り返った。その顔は清々しいほどの笑顔を浮かべていて、カミナの背に空恐ろしさが忍び寄る。
「しようしよう!ちゅーしよう!ね、兄貴ぃ」
やけにテンション高く甘ったれた口調で言いながら体を引こうか迷っていたカミナにシモンが飛びついた。どこをどうやってそういう結論になったんだ。問いかけようにも勢いを付けて抱きつかれたせいで地面に背を押しつける羽目になり、おまけにマウントポジションを獲ったシモンが満足そうに唇を併せてくるのでは怒鳴り声も出せない。確かに一応シモンの口は働きづめになって言葉を失ったが、逆に本人は嬉しそうだ。
なんだろうなぁ、コレ。んちゅんちゅと接吻の雨をくらいながらカミナは遠い目になる。なんというか目の前のものはシモンとは別の生き物のような気がした。
酔っぱらいに何言ったってききゃしないわよ。
疲れた顔で言ったロンの顔が思い出されれる。帰った頃にはせめてヨーコだけでも夢の世界に旅立っていてくれることを祈りながら、カミナは手を伸ばしてシモンの頭を押さえつけた。
「シモン、帰ェるぞ」
取り敢えずの目的は達した。これ以上グレンとラガンから離れて、あまつさえ酔っぱらいを連れて大騒ぎなぞして敵を引き寄せたらあまりにも間抜け過ぎる。夜間、警戒すべきは獣人だけではなく野生動物もだ。
「えぇー!?」
素っ気なく促したカミナに、シモンはやだぁ、まだ兄貴と遊ぶんだと腹の上に座り込んで駄々を捏ね始めた。平常ならばむしろ早く帰ろうと言い出すのは彼の方だというのに酒とは恐ろしい。
更に強請ろうというのかシモンが背を伸ばした。間の悪いことにうんざり顔のカミナも体を起こそうとしたところで、重なった動きに小柄な少年はあっさりバランスを崩す。
「ふぇ?」
「んなっ!」
互いが驚きの声を重ねている間に、カミナの上から滑り落ちたシモンが地面に放り出された。おまけにカミナが生理欲求の処理に選んだ場所は坂の上で、重力に抵抗する気力が酒で軒並み押し流されている少年はころりころりと坂を落ちていく。
「シモン!?」
腕を伸ばしても時既に遅く、悲鳴一つ無いまま草むらの向こうへとシモンの体は吸い込まれていった。急ぎ立ち上がってカミナもその後を追う。膝まで伸びた草が鬱陶しく、名を呼ばわろうとした彼の口を別の大声が塞いだ。
「ギャー!」
シモンの声ではない。が、聴いたことのないものでもなかった。反射的に背中に手をやってカミナは盛大に舌打ちする。刀はそこになかった。自分も相当酒に脳をやられていたらしい。
ならば気づかれぬ内にシモンを回収して退散だ。切り替えの速さを見せたカミナは再度辺りを見回し、そして見せた背中側で草が大きく揺れ。
「「どわぁ!?」」
サラウンドで悲鳴が上がった。走り出てきた方がぶつかった勢いで立っていた方ごと転倒する。
「重てぇ!とっととどけよ!」
唐突な衝撃で双方暫く動けなかったが、状況把握はカミナの方が早い。倒れ込んできた相手を蹴り倒して強引に自分の上から排除する。それがさっき叫んでいた奴だとはっきり解ってカミナは嫌そうに顔を歪めた。先手を打って逃げるも何もない。
「貴様…!」
そうされてやっと自分が衝突したのが何者なのか知り、金髪の獣人の目が細められた。引き絞られた眦が二対、遭えば必ず臨戦態勢になる間柄に走る緊張感。
「あにきーぃ」
それは、場違い且つ脳天気な声によってあっさりと破られてしまった。がさがさと草を鳴らして獣人が飛び出てきたのと同じ方向からシモンが顔を出す。ジャケットのそこここと顔と髪に泥はついていたが、目立った怪我は無いようだった。酒が入って力が抜けているからだろうか。
シモンはカミナが対峙している獣人をバッサリ無視してやはりてろてろとした足取りで彼の兄貴分にくっつく。
「えへへ、転んだー」
ギミーダリーの幼い双子レベルの報告と無邪気な笑顔を向けるシモンのせいでカミナの肩から力が抜けた。その様を見て眼前の男が憤る。
「貴様ァッ!状況が解っているのかっ!?」
やたらに語尾を跳ねさせる特徴的な喋りと共にビシリと突きつけられたのはごつい指先だった。そう言えばコイツいつもの鉈を抜かねぇな、と気づいて腰を見れば鞘すら吊っていない。そこそこ準備の良い奴だと思っていたのに珍しい。考えを巡らせる横でシモンが首を捻った。
「…どちらさま?」
途端びきり、と獣人の顔に青筋が立った。只でさえ好戦的な瞳が吊り上がり、苛立たしげな息が喉から漏れる。既にこの会話を何度繰り返しただろうと歯ぎしりしながら、それでも妙に義理堅い男は口を開いた。
「人間掃討軍極東方面部」
しかし無情にも律儀な名乗りは最後まで言い切れないまま脳天気な声に遮られる。
「あー、うぃるへるむ!」
「待て、それはどこから出てきた名前だ」
突拍子もなく名を呼んだシモンは、自信満々に手まで打った。一人納得顔でうんうん頷いてもいる。勘違いで自己完結されて爆発寸前の極東方面部隊長に、アホらしくなってきて片耳をほじりながらカミナは訊ねた。
「うぃるへるむでもなんでもいいけどよ、ケダモノ大将。なんでこんなとこにいやがる?」
「ど、どうでもよくあるかァ!私の名はヴィラル!ヴィラルだッ!」
興味無しと顔に書いてある好敵手に一瞬ヴィラルは噎び泣きそうになる。恋愛だろうが敵対感情だろうが一方通行は空しいものだ。
けれどそんなヴィラルのことは限りなくすっぱり無視してカミナの腰に抱きついたシモンが片腕を持ち上げる。
「あっちに寝袋あった」
言いながら指さした方向はヴィラルとシモンがやってきた方向だった。そう言えばさっきのヴィラルの奇声もあちらから響いてきている。…大体の事情を理解してカミナは溜息を吐いた。いくら豪快に坂を転げ落ちたからって、それでドンピシャ敵の寝床に突っ込むなんて一種の才能だろう。
「…野宿、すんのか」
疲れを滲ませながら更に訊ねたカミナに、ヴィラルはびくっと肩を跳ね上げてからどもった。
「ううううううるさいっ!
ガンメン無しだと射出で距離を稼げんから、夜明けと共に襲撃するには野営するしか………あ」
勢い余って自らの行動概要を吐き出したヴィラルは、殆ど言い終わってから口を噤む。並んだ義兄弟は哀れなものを目にする瞳を彼に向けていた。
「…ガンメン、どうしたんだ」
「………壊しすぎて………補修費用が下りなくて………」
渋々とか苦々しくとか言っていられるレベルではない。重くるしい空気を纏い始めたヴィラルは怨嗟を交え、血を吐く思いで応じた。
「お得意の鉈はどうしたぃ」
「あれは、軍装だから…私の私物ではなくてだな…」
一言一言に獣人と彼にライバル認定された人間の間に満ちる空気が暗く沈んでいく。泥沼状態になっている二人を無視したのは、やはりシモンだった。
「なさけないなー、だからモテないんだ」
「余計なお世話だッ」
舌足らずの罵倒の言葉にヴィラルが往時の煥発を取り戻す。
「お前達を倒さないと後がないんだよッ!!」
個人的且つ切実な叫びを上げ、悲しき中間管理職は拳をカミナに向けた。得物がなければ生身でということらしい。そういえばこいつ刃物も持たずに襲撃してどうするつもりだったんだろうと一瞬だけカミナは疑問を覚えた。が、彼も趣味を喧嘩と豪語する男である。殴り合いで決着をつけるのが嫌いな訳がない。ニヤリと口端を上げこちらも拳を向けた彼に、獣らしく低い姿勢でヴィラルが地を蹴る。動きを阻害する植物を埒外に置いて一足飛びに駆けたヴィラルの渾身の一撃は、…思いも寄らぬ足払いで中断され終了した。
「ふぁぶっ!?」
草むらに突進する羽目になったヴィラルが驚愕を声にし、カミナも思わず目を丸くする。赤目の青年の正面に、いつの間にかシモンがしゃがみ込んで細い脚を突き出していた。ヴィラルはそれに引っかかって無様に地へと伏せたらしい。
「貴様…!」
眼中になかった少年に邪魔され、頭に血を昇らせた金の眼がシモンを睨んだ。が、一瞬にしてその開ききった黒目が針よりも細くなる。
「…駄目だよ?」
ゆらり。ふらふらと危なっかしく立ち上がったシモンが、結局一歩も歩かぬまま後ろに倒れ込みそうになった。それを抱き込んで防いだカミナの胸の中、歴戦の兵士すら圧倒する眼力を湛えたままシモンがにっこりと笑う。
「カミナは俺の兄貴なんだから、盗ってっちゃ、駄目」
言いながら危なっかしい足取りでシモンはカミナの側から離れた。ぐらりと揺れた体は、倒れ込んだヴィラルのすぐ傍でぺったり座り込む。潤んだ瞳が非難を映し、元々幼さを残す頬はぷっくり膨れて丸みを増していた。ね、と念を押して小首を傾げる仕草と浮かべる表情は無邪気この上なかったが、伏せるヴィラルの襟首を掴んで軽々と顔を上げさせる動作は妙に堂に入っている。凄味を帯びた愛らしい表情、という一見矛盾した物から眼を逸らせなくなっている部隊長は、段々襟の締め上げがきつくなっていることに気づいて戦慄した。
ついでにそれと共にジリジリと二つの額の距離も詰められて、最終的にはカミナお得意のパチキ同然まで近づく。アルコールのきつい臭いが鼻に吹きかけられた。
「どうしてもって言うならカミナを賭けて俺と勝負だ!」
ごりごりと髪を挟んで前額が押しつけられる。
「…勝負?」
その単語に反応してしまうのは血の気が多い男のサガだった。目の前の少年を敵として認識すれば戦いを期待して血が沸き立つ。こんな子供など歯牙にもかけるものではないが、本人が言うならば軽く畳んでやろうとヴィラルは牙を剥きだした。
金の眼の獣人からの戦意を受け、カミナ争奪の意志アリと理解したシモンも目つきが悪くなる。半分蚊帳の外にされたカミナは、しかしまともな戦いでシモンがヴィラルに適う筈もないことは判っていた。酒飲みの勢いと間抜けな経緯に呑まれていても、ヴィラルは一応部隊長級の実力者なのだから。仲裁しても火に油だが、シモンに大怪我させるよりはと口を挟もうとして、カミナは酔っぱらいにしては覇気のある宣言に邪魔された。
「腕相撲で勝負しよう!」
「…まァ、いいだろう」
数瞬だけ間を置いて、ヴィラルは鷹揚に承知する。どうせ体術絡みならば自分の勝利は目に見えていた。ならば相手の言うやり方で完膚無きまでに潰してやるのも一興だ。
小馬鹿に仕切った態度で頷くヴィラルを放ってシモンがカミナを審判に任命した。台がないので腹這いになり、肘を立て握った手の上をカミナの指が押える。
「そんじゃぁ勝負」
シモンの手とヴィラルのそれは大人と子供以上の開きがあった。所詮子供の細腕。組んでみるのも難しい程小さな手だ、恐るることなどありはしないと高を括った獣人を置き去りにカミナが拘束を解く。
「始め!」
直後。ばたん、と音を立て、呆気なく結果が出た。
「……はァ?」
肘を折って血に伏せたのは被毛に覆われた獣の手の方だった。
「勝ったー!」
はしゃいだ声が現実を追認させる。
「待て待て待て待て待てッ!
なんでこのガキこう強いッ!?」
呆然とした分反動をつけて、今にもシモンを掴み上げそうになったヴィラルをカミナが払った。
「そりゃお前ェ」
土方少年の握力を舐めてはいけない。実測したことはないが、おそらくベンチプレスもそんじょそこらの大人では足下にも及ばないはずだ。肉体労働者は日々是鍛錬なのである。年若くして筋肉が付き、あまつさえ狭い穴に矯正されて小柄に育とうとも身の内には相応の膂力が詰まっている。
自ら土俵に上がったくせに騙されたと言わんばかりのヴィラルを見て、難癖付けられた、と思ったのか。酔っぱらいは勝手な解釈で涙を浮かべ、今度は自分のズボンの裾を握りしめた。どうも何かを手にしていないと落ち着かないらしい。妙な酒癖だ。きゅう、と変な音を喉から漏らしつつ歯噛みしてヴィラルに灰色の怨みがましい目が向く。
我が儘な幼児が欲しい物を手に入れられずに駄々を捏ねるのと同じ、と判ったかどうか定かではないが、自分では宥められないことだけは承知してヴィラルは目で好敵手に助力を乞うた。
ヴィラルに救いの手を差し出したいとは思わずとも、弟分を落ち着かせないと何事もままならないと仕方なくカミナは頷く。が、それも悪い方へ転がった。
金と赤の目の交差を親しげなアイコンタクトと了解したシモンが癇癪を起こして刺青の腕をはたく。
「兄貴は俺の兄貴だろ!?」
「何当たり前のこと言ってんだ」
地団駄踏んでの確認に、即答が戻っても勢いづいたシモンは納得しなかった。
「俺よりヴィランの方が好きなの!?」
名前。私の名前。突っ込みたくても出来ずにヴィラルは心の中で涙を流した。こっちは人間共の名を逐一覚えているのにと落ち込む獣人を放置して、シモンはカミナの首にかぶりつく。
「解った解った、安心しろぃ!俺の弟分はお前だけだよ」
腫れたようになっている赤い頬に自分のそれを押しつけたカミナにシモンが益々甘えて縋った。
「本当?父さんや母さんみたいに俺を置いていかない?」
「俺を信じろよ、シモン。地上にだって一緒に来たじゃねえか」
背中を抱いて宥めるカミナに頷くシモン。いつの間にか二人の世界が発生して、ふと気づけばヴィラルは完全に蚊帳の外になっている。彼は何故自分は襲撃に来てこんな目に遭っているのかと場違い過ぎる空気に白目を呈した。少なくとも、奇妙なうめき声が上がるまでは。
何の音かと首をもたげれば、先程までと同じように大口を叩くのが趣味の男の首はチビをぶらさげたままだった。違いと言えば支えに回していた刺青の腕が外れ、完全に子供の細腕だけが本人の体重を引っ張り上げていると言うことだろう。当然、全ての重量が青年の頸椎にかかりきっていた。…且つ、万力の如き腕力に抱えこまれて人間の首が果たして何処まで耐えられるのか。よく見れば血の気の引いた敵の顔、口の横からは泡が溢れていた。
「わ、私の獲物ーッ!」
ちょっと待てこのままでは雪辱を果たす前に対象が死んでしまうと慌てて元凶を引き剥がすために弱々しい腰に手をかけたヴィラルは、良い雰囲気だったのにと勘違いしたままのシモンに睨み付けられる。
「あんまり騒ぐと尻にドリル突っ込んじゃうよ?」
物騒な言動に思わず自分の尻を押えて後退る。
「大丈夫、痛いのは最初だけだよ」
「死ぬわ!」
逃げようとするヴィラルを折って、カミナの首が解放された。気管が広がりゲホゲホと咳き込むカミナは止めるどころではない。
何処から取り出したのかいつの間にかシモンの手には愛用の掘削ドリルが鎮座ましましていた。遂に発掘作業に従事し鍛えられた少年の握力がガッチリと獣人の服を掴む。逃がさない、と仕草で示されて意識せずにヴィラルが怯んだ。
普段なら生身の人間の子供など恐るるに足らない。が、今の酒浸り状態のシモンは何とも判別しづらいオーラを纏っていて反抗しにくかった。下手に手を出すと訳の解らない暴走をされそうで基本生真面目な獣人の部隊長はボソボソと呟く。
「いや、うん私が悪かった」
心底珍しく非を認めた(と言うよりシモンに現実を見せることを諦めた)ヴィラルに向いていたご不満そうな顔が唐突に揺れた。ぐらりと首を巡らせて足下不確かに倒れ込んだ体を反射的に受け止め、喉元に頭突きをかまされた獣人が唸る。
カミナの時と同じように相手の苦痛は忘却の彼方のシモンは、そのまま酔っぱらい特有の脈絡無い行動切り替えを見せつけてすりすりとヴィラルの首筋に懐き始めた。
「もふもふ…」
襟を飾る毛に魅力を感じるのか、頬摺りをして幸せそうに呟く。
「ええい!離れろッ!」
頭を押しのけようとしても酒で筋力の制限が解除されているのかシモンはびくともしなかった。くすぐったがって身を捩っても酒臭い少年はしつこく白い毛並みを追いかけてくる。
調子良いことを言ったまま意識を落とされかけたカミナはやっと呼吸を取り戻して敵と弟分のじゃれ合いを眺め、偽善的な笑顔を浮かべた。
「なんかもうそのまま子守頼むわ」
「断るッ!」
愛らしけれども危険生物。自分もいつ気道を締めつけられるか解ったものではない。
「とっととこのガキを引き取れッ」
叫ぶヴィラルにニィヤリと胡散臭い笑顔が見せつけられた。不吉な予感に身を翻そうとしても酒浸りの重しが邪魔をする。
「じゃ、子供じゃなきゃいいのかよ」
大袈裟に肩を揺らして近づいてきたカミナが近距離で金の眼を覗き込んだ。こいつら兄弟揃って距離感が狂ってるんじゃないかと疑うヴィラルに貼り付いたシモンが信頼する相手の接近にでへへとだらしなく表情筋を緩める。
「シモーン、もうちっと面白ぇことしようぜ?」
「ふへ?」
顎をとって上向かせ、悪戯っぽく目を細めたカミナに頭の回っていないシモンは首を傾げた。口で答えるよりも早いと言わんばかりに刺青付きの腕が獣人との隙間を縫ってシモンの腹と胸に回る。
「ガキの遊びはイヤだってのが大将の言い分だからなぁ」
そうは言ってないだろう、と訂正が入る前にカミナは弟分の耳に食い付いた。ついでのように手指が平らな胸を撫で回す。いつもなら絶対に拒否するだろうがカミナにとって幸いなことに(そしてシモンにとってはまず間違いなく不運なことに)、今の少年は泥酔していた。撫でまわされて先端を摘まれ、耳の中に舌を差し込まれて人目も憚らず甘い声が上がる。
拒否反応を示したのは、ひっつかれたまま行為に及ばれたヴィラルだった。
「…お前等、"兄弟"というのはそういう…」
うへぇと今にも言いそうな顔で、部隊長殿は鳥肌を立てつつ後退しようとする。だがその動作をホールドして止めたシモンが遅い理解を兄貴分に示した。
「…エンキと遊ぶの?」
「それはガンメンの名だ!しかもこの間エンキドゥに乗り換えただろうが貴様等のせいでッ!」
名前を意に介さずそうだと答えたカミナとチビをまとめてヴィラルが怒鳴りつける。けれど地下世界の義兄弟は馬耳東風と二人で話を進めた。
「やだぁ、兄貴と一緒がいいんだぁ!」
「三人で遊びゃあいいだろ。ま、酔い覚ましってとこだな」
一人納得して頷いている男が、実は意外と深酒していたことにヴィラルは今更気づく。酔いが後から効いてくるタイプかよ!と心の中で突っ込みつつ、口に出たのは別の指摘だった。
「私は酔ってもいないしそもそも酒も呑んどらん!」
「じゃあ呑んじゃおうよー」
ドリルと同じく手品のように、シモンが酒瓶を取り出した。いつの間に樽から移したのかカミナが意味のない思索をする隙間に茶色い瓶の口がヴィラルの歯列の合間から差し込まれる。大口開けて文句を付けていたせいで、慌てて口を閉じても瓶に噛み付くだけの結果になったヴィラルの目ににんまり笑った二つの顔が映った。既成事実作成に余念のない二人組は、腕を振り回して抗議する男に向けてほぼ垂直に瓶を傾けた。
「ごばっ!?」
勢いよく流し込まれた酒が喉を焼く。吐き出そうとしても雪崩れ込む量に全く適わず、むしろ咽せて鼻の奥を痛める結果となった。苦しさと屈辱感に涙目になったヴィラル本人の感想を問わずに最後の一滴まで胃液に落とし、御丁寧にそれを飲み込むところまで見届けてやっと瓶と首の拘束が外れる。
首を絞められたカミナよろしく咽せこんだヴィラルは、胃に溜まる熱を気にして腹を押えた。ぜふぜふと荒くなる呼吸が酒臭くて顔をしかめる。心なしか脈が早くなり、そして血が巡るたびに熱が頭に溜まっていく感覚があった。それが意味するところを知って舌打ちするものの、その舌打ちでさえ粘つくように遅くなっている。
「お、おっ…まえ、ぇ!がっガキに、こんな度数の強いものを…」
台詞の優先順位がわやくちゃになり始めたヴィラルの足下が怪しくなった。体に叩き込まれた歩法も鼓動毎に強くなる酒の影響でなりを潜めてしまう。
「じゃ、オトナの遊びといくか!」
獣が弱ったのを見て取ったカミナが景気よく指を鳴らした。
「わーい」
間延びした歓声を叱咤しようとしてもヴィラルの舌は上手く回らない。本当に遊び感覚らしいシモンがきゃっきゃと騒ぎながらヴィラルから離れた。少年は地べたに座って、というより腰から落ちて機嫌良く笑う。
それを横目で見るカミナが自分よりやや身長の高い男をぬいぐるみよろしく抱き上げて地面に放り出した。受け身を取れずにもんどり打ってもヴィラルは大した痛みを感じず、神経が鈍っているのだと気づいて血の気が引きそうになる。だというのに血圧の上昇の方が早い有様では落ち着くも何もなかった。
すぐ傍に腰を降ろした兄貴にすぐさまシモンが抱きついて、応じたカミナに唇を奪われる。見たくもない男同士の絡み合いを目前で展開され、ならば今の間に逃走しようとした毛も伸びとの足首ががしっと掴まれた。夜闇に男の悲鳴が響き渡る。が、それを聴いていたのは酔っぱらい二人と草原の動物たちだけだった。
翌朝、眼の下に隈をつけたシモンは同じくげっそりしたカミナに背負われキャンプに帰還した。居住ユニットの中に入るとそこも死屍累々で、ギミーとダリーの声が響くのかキタンとヨーコがのたうち回っている。
「んもうあなたたち、心配したじゃないの」
一人二日酔いをおくびにも出さずコーヒーを啜っていたリーロンに不在を咎められ、昨晩の記憶が全くないシモンはどう謝罪したものか困惑した。夕食を摂ったところまでは覚えていて、その後てっきり寝たと思ったのに何故かカミナと共に外に居たらしい。
答えが出ないことでシモンの記憶喪失を察したらしいリーロンは、ぐるりと部屋の中を見渡して溜息を吐いた。
「この有様じゃ敵のガンメンを迎え撃つなんて出来ないでしょうねぇ…」
「あー、そりゃ大丈夫だ」
いがらっぽい声で請け負ったカミナが水を煽る。外で寝たから喉の調子が悪いのかもしれないが、その割に自分は平気だなとシモンは首を傾げた。そう言えば疲労感は酷いが、三姉妹が訴えているような頭痛はない。
自信ありげなカミナの断言にさしものリーロンも訝しげな顔を隠さなかった。面倒くさそうに補足が入る。
「ケダモノ大将なら追っ払った」
「えぇっ!?」
そんなインパクトのある出来事なら憶えていてもいいはずだ、と素っ頓狂な声を上げたシモンに、カミナはお前がやったんだぞと肩を竦めた。
「そ、そんなぁ」
勿論シモンは自分に極東方面部隊長と喧嘩出来るような度胸があるとは思わない。一体何が起こったのかますます戸惑う弟分をほっぽり出して、カミナは居住ユニットに打ち上げられた魚を一匹増やした。
「ね、ねえ兄貴ィ、何があったの!?ねえ!」
揺さぶる腕を後でな後でと鬱陶しそうに振り切ってカミナは瞳を閉じる。更に他の屍たちにまで声が響くと文句を垂れられてはシモンの口をつぐむしかなかった。
朝一襲撃どころか朝帰りする羽目になったヴィラルが無事本陣に帰れたかどうかは定かではない。
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